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この街の太陽は沈まない46

「何が引っ掛かるんだろうねぇ」
「………へ?」
「……いや、なんでもない。殲滅で動く。雀蜂の今後の行動予測始めるよ、用意始めて」
「え?あ、うん…」
ヘクトールはがたり、と会議室の椅子から立ち上がると、それだけ指示して、まだきょとんとしている面子をおいて会議室から出た。そしてそのまま、会議に来なかったオルタの部屋へと向かう。
「ボース」
「………なんだ」
部屋の外から声をかけると返答が返ってきたので、ヘクトールはがちゃりと扉を開いた。オルタは朝風呂明けだったのか、ぽたぽたと髪から水を滴らせながら、ヘクトールの方を見た。幸いズボンは履いていた。
「死んだ内通者と雀蜂の関与がほぼ確定になった。これから“報復”っつーことで殲滅作戦を始めることにした」
「……………」
オルタはヘクトールの言葉に無表情のまま目を細めた。そして無言のままヘクトールに歩みより、がっ、と顎を掴んできた。
「…………」
みしり、と骨がなった気がした。さて、何が気に障ったのだろうか。
そんなことを思いながら、ヘクトールはオルタの目を見た。目だけ色素が薄いのか、血の色をした赤い目はいつ見ても美しいようで恐ろしい。そんなことを今更感じるような情緒があったのか、と内心苦笑しながら、ヘクトールはオルタの動きを待った。
「………そうかい。なら任せた、潰せ」
オルタはしばらくヘクトールの目を見続けた後、ぺい、と放るようにヘクトールを離した。ヘクトールは離された顎を擦りながら、さっさと背を向けたオルタの背に、ソファに引っ掛かっていたバスタオルを投げつけた。
「ボスは?どうします?」
「…オレは別に動く」
「………何か気になることがあるんで?」
「…どうにもきなくせぇ」
オルタは投げ渡されたバスタオルを存外素直に受け取り、がしがしとその長い髪を雑に拭いながら、ぽつりとそう言った。そして、ちろり、とヘクトールを見る。
「…七割は雀蜂なんだろう。ならてめぇはその七割を追って潰せ。オレは三割を探す」
「な…ちょっと待て、ならそれは俺がやるべきだろう!?」
暗に、相手の影にいるものの正体の炙り出しを自ら行う、というオルタに、ヘクトールは驚いたように言葉をこぼし、思わずオルタに近寄った。ボスにそんなことをさせるというのは勿論、オルタにそんな繊細な作業ができるのか、という不安もあった。
オルタは近寄ってきたヘクトールの腕をぐいと掴み、その顔を近づけた。
「…オレにはできねぇと言いてぇんだろう」
「いや、そこまでは思っていない、」
「オレを知る人間は誰だってそう思うだろう。“そういうことをするのはヘクトールだ………とな」
「…。俺が雀蜂殲滅の中心にいることで相手の裏をかこうって?」
「てめぇみたいにねちっこくはやれねぇがな?」
にっ、とオルタはいたずらっぽい笑みを浮かべた。子どものような笑みを浮かべるオルタにヘクトールはぱちくりと目を瞬いたが、オルタは意思を曲げそうにないこと、それなりに有効ではありそうに自らが思ってしまったことで、困ったように頭を抱えた。
オルタはそのヘクトールの様子でヘクトールが了承したととったのか、満足そうに顔を離した。
「…なにか目処はあるんで?」
「ないわけじゃあ、ねぇ。てめぇはどうなんだ?」
「……まぁ、ないわけじゃあない。内通者なんてのがでたことだし、盗聴盗撮怖いからねぇ、紙に書いて渡しておくよ」
ヘクトールはそう言い、オルタの机から勝手にペンをとると、懐にいれてある小さな手帳に手早く走り書きし、それを二つに折ってオルタに手渡した。
「まぁあんたなら負けることはねぇだろ。じゃ、裏方は任せますけど…へましないでくださいよ?」
「はっ。誰に言ってやがる。てめぇこそただの害虫なんぞに首をとらねぇことだな」
「はいはい、分かりましたよ」
ヘクトールとオルタはそう会話を交わすと、ぱん、と拳をあわせた。


その後、行動予測から雀蜂が7月10日になんらかの取引を行うためにその大部分が動く、と判明したことから、殲滅作戦の結構日はその日に決定した。
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