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この街の太陽は沈まない39

「…………、取引…?」
セイバーは中に入っていた書類を読み、眉間を寄せる。セイバーがぽつりと漏らした言葉に、天草は小さく頷いた。
「ええ。UGFクリードがその日に、どうやら赤いアンプル絡みの取引を行うようです」
「…そんな情報が、匿名で。しかもカルデアス支部ではなく、CPAへ直接?」
「ええ、CPA本部に。ダ・ヴィンチちゃんが知らせてくれました」
セイバーは天草の言葉に、さらに眉間を寄せた。

天草が持ってきた書類は、通報の通話記録だった。その通報によると、7月10日の夜22時、カルデアスのある場所にて、UGFクリード主導による“赤いアンプル”の取引が行われるらしい。通報は一方的にそれを告げると切れてしまったようだ。

「なんでござるかこの怪しさムンムン罠100%な通報は」
のしっ、と、後方の統制室から出てきたらしいライダーがセイバーの頭に腕をのせ、会話に入ってきた。ぱしっ、とセイバーの手から書類を奪い、ぴらぴらと紙を振って見せる。
天草はそんなライダーに、バツが悪そうに目をそらす。
「えぇ、ですからどうしたものかと思ったのですが……」
「…ダ・ヴィンチ殿が伝えろ、といったのかな?」
「……えぇ、そうです。代表もそれで、伝えるだけは伝えて判断はそちらに任せた方がいいだろう、と」
「ふ〜〜ん?」
ライダーはなおも胡散臭そうに書類を仰ぎ見た。ふむ、と、セイバーは人差し指を唇に当てた。

――確かに、あまりにあからさますぎる情報だった。シンプルでかつ、必要な情報のみが揃えられている。これが罠でないというのならなんだというのであろう。そしてなにより、誰がそんなものを送ってきたというのか。
まず考えられるのは内通者によるリークだが、UGFクリードに潜ませている内通者はいない。No.2の男、ヘクトールという男が妙に勘がよいらしく、内通のほとんどは感付かれしまうので、短期あるいは取引相手の別組織に紛れ込ませるかしかしていなかった。
そして今回、いずれの方法でも内通はしていなかった。ということは、内通者による通報ではない。
では、UGFクリードに裏切り者が出たのか。それも考えづらい。UGFクリードはカルデアスの街の裏世界を牛耳るトップ組織。つまり、裏切り者は裏切った時点で、カルデアスに居場所がなくなる。もし、それでChaFSSないしCPAカルデア支部に保身を求めてくるのであれば、匿名で通報するというのは道理に合わない。

となれば、UGFクリードの手による罠か。

「しっかし、UGFクリードのやつら、結構拙者たちをスルーしやがっておりましたからなぁ。わざわざハメますかね?今さら」
不意に、ライダーの声が上から降ってきた。セイバーはその言葉に、更に眉間を寄せた。

そう、そうなのだ。今回、UGFクリードはChaFSSの動きにさしたる関心を抱いていないのだ。勿論尾行等に気付いてはいるのだろうが、それに対してあからさまな妨害はしてこなかった。
UGFクリードの手によるもの、というには、やはり違和感がつよい。

「…そうなると、UGFクリードと取引する相手からのもの…ということになるのでしょうか」
「なんで?」
考え込むセイバーに変わって1つの可能性を口にした天草に、すぐさまライダーが突っ込む。天草は、ぴっ、と人差し指をたてた。
「例えば赤いアンプルの効果が怖くなったから取引をやめたいけれど叶わない、とか…。あぁあるいは、敵対組織がこの情報を手にいれて、どちらの組織も潰したいけれど自分のところには力がないから代わりにChaFSSにやらせようとしている、とかも考えられませんか?」
「…どっちにしろそれ、ウチを体のいい戦力として利用しよう、ってことデショ?セイバー殿セイバー殿、やっぱりこれ、無視するべきでわ??」
「……いいや、行こう!」
「「は?!」」
ライダーは勿論、ライダーの言葉を聞いた天草も、これは罠だろう、と判断を下したところだったようだ。向かう、と言い出したセイバーに二人はすっとんきょうな声をあげた。
セイバーは顔をあげ、二人の顔を交互に見る。
「今回の件、UGFクリードの向こうに何かがいるのを感じていた。何かが関与しているのは確かだ。…この現場にいけばあるいは、その何かの正体は掴めるかもしれない」
「なっばっ……確かにUGFクリードだけじゃねぇってのは確かだが、だからってこんなあからさまのに乗るか?!マジで!?」
「私もそれには賛成です」
「はぁー!?アサシン殿まで!?」
声を張り上げるライダーだったが、不意に混ざってきたアサシンの言葉に悲鳴に近い声をあげる。アサシンはセイバーを見て、にやっ、と笑った。
「まぁ、勘ですが!!」
「いくらよく当たるからって勘で決めないでくれますぅー?!」
「なんですかライダー、あなたらしくもない。最悪抗争になったとしても、ランサーがいないとはいえ他のメンバーは勢揃い。そして何より、セイバーが行くと判断したということは、そうなっても勝機が見えているってことでしょう。ランサーの生死も気になりますし、ここは1つ、博打に出るのも手では?」
「うっ、アサシン殿のくせに正論で詰めてきやがった…」
「俺も賛成だなぁ」
「!」
バン、と司令部の扉が勢いよく開き、バーサーカーとアーチャーが姿を見せた。どうやら外で会話を聞いていたらしい。好戦的な笑みを浮かべるバーサーカーと、呆れたような表情を浮かべながらもどうやら賛成しているらしい様子のアーチャーに、ライダーは深々とため息をついた。
そして、ペシン、とライダーはセイバーの頭を叩いた。
「多数決では拙者の敗けですなァ!わぁったよ、乗ってやらァ!」
「ちょ、ちょっと皆さん、」
「天草殿、どうかお任せください」
天草はどんどんやる気になるChaFSSメンバーに慌てたようにセイバーをみたが、にっこりと笑って言葉を返されてしまった。
天草はしばらく困ったようにあわてふためいていたが、任せるといった手前、任せるべきと判断したのか、しぶしぶといったように頷いた。
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