スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

我が征く道は86

「………で?」
「ウッワァ感傷もくそもない声色」
にべもなくずけっと言い放たれた言葉に凪子はそう返しながらも、傷ついた様子はない。感傷的になっているように見えたが、どうやらその辺りはもう慣れきってしまっているようだ。
ギルガメッシュもギルガメッシュでそうしたことにはさして興味がないらしく、つまらなそうに凪子を見、腕を組んだ。
「貴様の固有結界が特殊だということは分かった。で?なぜエルキドゥがいる」
「別にー。ここには何もない。だから景色だけ俯瞰するなら別にいいんだけど、ここに何がしかの存在を固定するには曖昧すぎるから、“設定”が必要でね」
「設定…世界の主というのはそういうことか」
「そ。今回は謎解き冒険ゲーム風に設定してみました〜。だからまぁ、別にエルキドゥ?さん?は、私が設定したんじゃないんだよね」
「何?」
「一番お前さんのなかで“命かけられるヒロインポジション”な人が出てきてるだけだよ」
「………」
ギルガメッシュはしばらくぽかんとした表情で凪子を見ていた。
そして――
「……っざけるなよ雑種ゥ!!」
「わー怒った」
ようやく合点がいったらしい、怒りを隠すことなく顔に出し、凪子の襟首をつかんで持ち上げた。
凪子は持ち上げられているにも関わらず楽しそうにカラカラと笑っている。ギルガメッシュは宝具が使えないからか、顔に浮かぶ苛立ちがどんどん色濃くなっていく。
「遊びが過ぎるぞ雑種!今すぐ変えろ!!」
「はぁー?!お前のなかで一番大事なんだろ照れんなよ、そんなこというと時臣にするぞヒロイン!!」
「何故そうなる!!!ヒロインとは女をさすものだろうが!」
「男がヒロインな作品も世の中にはあるんだよォ!まあそう怒るなよ、どうせヒロイン最初と最後しか出てこないから」
「どう考えても貴様パクっただろうゼ「それ以上はアカンてかなんで知ってんだよ」
凪子は諦めてくれる気配のないギルガメッシュに、はぁ、とため息をつき、ぱちん、と指をならした。
ぶるり、と大気が震える。
それと同時に、凪子を掴み上げるギルガメッシュの手元で火花が散った。
「っ!?」
痛みを伴ったのか、思わずギルガメッシュは凪子から手を離した。ギルガメッシュの手から逃れた凪子は、とんとんっ、と軽やかに後ろに跳躍し、距離をとる。
「残念だけど、始まった以上お前さんの意思では止められない。あぁ、わざと死んだりしてもダメよ、この結界から抜け出すには冒険をクリアするしかない」
「…!ちっ」
「前に私を攻撃したアレも使えないだろ?私の結界のなかでは、お前さんは“村の騎士団の見習いであった選ばれし勇者”でしかない」
ギルガメッシュは不愉快そうに凪子をしばらく睨んでいたが、少しして、はぁ、とあきらめたようにため息をついた。
「…厄介なことにそのようだな。鎧すら出せん」
「理解が早くて何より。あぁ、身体能力は制限してないし、現実世界とは時間の流れの早さを変えてあるから、そこんとこは安心して」
「ふん」
不愉快そうなままではあるが、サーヴァントとしての能力が全て封じられ、凪子の言う手段でなければ抜け出せない状況におかれていることをあっさり認めたらしい。ギルガメッシュは肩をすくめ、踵を返した。
「いいだろう、貴様の茶番に乗ってやる。その代わり、冒険とやらがつまらなかった時は覚悟しておけよ」
「その時は私がラスボスになってあげるよぉ。じゃ、行ってらっしゃい」
凪子は満足そうにそう言うと姿を消した。それと同時に、ギルガメッシュのまわりの世界も動き出す。
ギルガメッシュは、はぁ、とため息をついた。
「…さて、鳥を探すのだったな」
知らないはずなのに、その鳥のことを思い浮かべれば勝手にその姿が脳裏に現れる。
英雄王としての本来の人格の意識を取り返した以上、しばらくは違和感との戦いになるだろうが、それは致し方あるまい。
ギルガメッシュはさっさと終わらせるべく、鳥を探しにいった。
<<prev next>>