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我が征く道は76

「(何が!したいんだ!!お前ぇぇえ!!)」
そんな風に思いながら慌てて二人の動向を目で追う。さすがにアヴァロンがあるとはいえ、セイバーが至近距離にいないからか、瞬間的に傷が治癒されることはなく士郎は地面を這いつくばっている。アーチャーはそんな士郎をつまらなそうに見下ろし、ゆっくりと距離を縮めている。
「(うわー…なんかもっとちゃんと二人の話聞いとくんだったな、爆発音がうるさいから聴覚強化してねぇんだよんばかん)」
何か今からでも聞けるだろうか、と、気配を察されないよう、音をたてないようにしながらそろそろと移動を始めた。

ようやく言葉が判別できる程度まで近づいた頃には、ずるずると体を引きずりながら逃げていた士郎は、寺の門まで到達していた。そんな士郎に、アーチャーは刀を振り上げる。
「―――さらばだ。理想を抱いて溺死しろ」
「(詩人かな!?)」
最初に聞こえた言葉がそんなものだったから、状況も忘れて思わず心のなかで突っ込む。そしてすぐに、そんなこと考えてる場合じゃないと、頭を振って状況を見直す。
降り下ろされた刀を、士郎は階段の方向へ落ちるように地面を蹴ってかわした。その代わり、受け身もとれずに、斬られた背中から階段を転げ落ちていった。
「(うわいったそ…)」
「む、何事」
「シロウ…?!」
落ちてきた士郎に、アサシンと戦っていたらしいセイバーが戦闘を中断して駆け寄る。アサシンもアサシンでそんなセイバーを後ろから襲うことはなく、意外そうにアーチャーを見上げていた。
「(…意外と律儀だなアサシン)
「――アサシン。なぜ私を討たなかった」
セイバーも少ししてから、アサシンが襲いに来なかったことを疑問に思ったらしい。意外そうに、だが警戒したままアサシンを振り返る。
アサシンは肩を竦めるように薄い笑みを浮かべた。
「それこそ無粋というものだろう。刹那の花を摘むことなど誰にもできぬ」
「(今夜は詩人ばっかだなおい)」
セイバーとアサシンの両方が揃っているからか、アーチャーは山門近くで様子をうかがったまま、降りては来ない。その顔が若干苛立っているように見えるのは、凪子の目だけだろうか。
「今宵はこれで十分。立ち去るがいいセイバー」
アサシンはそう言い、ちら、と視線をアーチャーに向けるものだから、アーチャーの顔はさらに苛立ったように凪子には見えた。
どうやらアサシンは少なくとも、もうセイバーと戦う意思はないようだ。そして、アーチャーのことを意識下に置いている。
ふむ、と凪子は顎に手を添える。
「(そこらへんは本物でないとはいえちゃんと武士っぽいということなのかね)」
セイバーがアサシンに再戦を誓う声が聞こえる。それでセイバーが士郎を連れてこの場を離脱すると察したか、アーチャーが動いた。
「アーチャー…?」
セイバーはまだ士郎の怪我の原因がアーチャーだと気が付いていないのか、不思議そうにアーチャーを見ている。そんなセイバーにお構いなしにアーチャーは刀を振り上げ、一気に距離を詰めた、が――。
「ッー!アサシン、貴様――!」
アサシンがその間に割って入り、アーチャーの攻撃を流すと同時に首を狙って刀を一閃させた。
アーチャーは毒づきながら跳躍して身をよじり、それをかわした。
「邪魔をするつもりか、侍」
「それはこちらの台詞だ。貴様こそ、見逃すと言った私の邪魔をするつもりか?加えて、私の役割はここの門番だ。生きては通さんし、生きては帰さん。行きは見逃したが帰りは別だ。いささか雅さにかける首だが、今宵はそれで納めるとしよう」
二人の間に殺気が道溢れる。ふ、とアーチャーの口角があがった。
「…よく言った。セイバーに傷一つつけられなかったキャスターの手駒風情が、このオレと戦うと?」
「(お?一人称変わった)」
「貴様こそ。あの女狐を驚かせようと送ったというのに、我が身可愛さで逃げ帰るとは失望したぞ」
「(全日本煽り大会開場かここは?)」
二人の煽り合いも終わったか――アーチャーとアサシンは勢いよく衝突した。
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