スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

我が征く道は82

 結局、その日は失意のまま寝落ちてしまい、翌日は朝6時ほどに目が覚めた。ふあぁ、と欠伸をしながら、冬のためかまだぼんやりと暗い外を見渡す。
「…約束は昼だったな。んー、一応起源礼装着ていこうかな、あいつが大人しく従ってくれるかも分からんし」

あれを使うのは随分と久しぶりだ。
基本娯楽でしか使わないし、使うような相手もここしばらくいなかった。最後に使ったのは、あぁ、時計塔との衝突の時だったろうか。あの時は腹が立っていたから、相手にはずいぶん惨いことをしたと今は少しばかり思う。
とはいえ問題なく発動させる自信はあるし、ネタも昨日のうちに用意できている。

「…けど、規模が規模だ。それに、何の下準備もしてなかったら時計塔に勘づかれるかもしれないしな。念には念を、って訳で、準備しにいきますかね」
この前大聖杯に向かった時と同じ装いに着替え、凪子はホテルの部屋を出た。

 ギルガメッシュとの約束の地である公園は、朝早くだからか人気はまるでなかった。
「一応公園なんだから、ランニングする人とかいそうなもんだけど。あぁでも、ここ前回の最終決戦の場所で、聖杯のせいで結構人死にが出た場所らしいから、よりつかんか」
ひとりでにそんなことをぼやきながら、昨日のうちに買っておき、自身の血につけておいた赤いチョークを懐から取り出す。す、と腰を曲げ、今いる場所の足元から凪子は模様を描き始めた。
広い公園の広場一杯に、魔法陣のような模様が広がっていく。目隠し用のものだからなのか、描いたそばから模様は薄れ、視認は難しくなっていく。複雑な模様だというのに、凪子の刻む手に迷いはない。手慣れたものだ。
「魔力遮断がこれで…そもそものこの陣の目隠しがこれで……んー、固有結界だからな、音とかはなくてもいいか。一応質量のごまかしもつけたしとくか…」
ぶつぶつといいながら、間違えることなく魔法陣を刻んでいく。
最終的にそれは花のような形となり、パン、と凪子が手を叩くと一瞬赤く光った後に、視認できなくなった。
「これでよし」
下準備が終わったらしい。かかった時間は、一時間程度だろうか。凪子は満足げに、うん、と頷くと、広場のすみにあったベンチにぽすんと腰を下ろした。鞄をごそごそと漁り、コンビニで買っておいたサンドイッチを取り出す。
「…設定は昨日のうちにノートに書いておいたから、もうやることはないかなー。せいぜいギルガメッシュが来るまで、マナでも吸収しておこうかな」
ぺろり、とマヨネーズがついた指をなめる。食べ終わったサンドイッチのゴミクズをビニール袋に片付けて再び鞄にしまうと、凪子は腕を組んで目を閉じた。



 「何を寝ている雑種」
「んぇっへ」
それから少しして、なるべく魔力消費を押さえるために寝ていた凪子は、げしっ、と足を蹴られて目を覚ました。
驚いて間抜けな声をあげながらも目を開ければ、いつぞや見たときと同じ、白シャツに暗いライダーズジャケットを羽織ったギルガメッシュの姿があった。
ギルガメッシュは不機嫌そうに凪子を見下ろしている。
「やぁ英雄王、申し訳ない、待ってる間に寝てた」
「ふん。何やら随分と派手なものを用意したようだが?」
ギルガメッシュはそう言いながら、朝方凪子が陣を描いた方へと目をやった。凪子は意外そうにギルガメッシュを見上げる。
「あら。目眩まし用の結界だったんだけどなー霊体であるサーヴァントにはバレバレ?」
「気付くか気付かぬかで問うならば、まぁ触れねば分からんだろうな」
「なんだ、踏んだ?」
「踏んだが?」
「ならいいや。人間にばれなきゃそれでいいし、あんたが来てくれたからもう踏まれても反応しなくなる」
「?」
ギルガメッシュは凪子の言葉に眉間を寄せた。
<<prev next>>