スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

我が征く道は28

「やれやれ…と」
凪子は警備員二人を部屋へ戻し、校庭の戦闘跡の隠滅をしに来た魔術師達にバレないように校舎を抜け出た。ふぅ、と息を吐き出し、ぐるぐると同じ姿勢でいたために固まった筋肉を解す。
「……さぁて次はどうするかね…あの少年でも張ってようかなぁ。多分今夜中にまたランサー来るだろうし…誰かに見届けられるのも悪くあるまいさ」
凪子はそう言うと、しばらく学校の近くに待機し、士郎がふらふらと出てきたところを少し距離をおいて後を追った。

 「あらま立派なおうち」
士郎が入っていった屋敷を見て、凪子はそんな風に呟いた。士郎の家は凛とは対照的な、立派な武家屋敷だった。侵入する前に、念のため結界の類いを確認するべく塀に手を当てる。
「………」
日本の家屋は風通しがよく、あまり魔術には向かない構造をしている。侵入者関知の魔術が仕掛けられているが、それの通知は非常にアナログ的に作られているようだった。
庭にある土蔵には、召喚陣の痕跡もある。ただ召喚には使われたものではないらしい、恐らく士郎の親かなにかが過去に利用したものが残っているのだろう、と凪子は判断した。
「…ん、この程度の防壁なら誤魔化せるかな」
凪子はごそごそとポケットを探り、キャンディドロップの缶を取り出し、片手で器用にそれから1つの飴を取りだした。そして飴の表面にアルジズのルーンを刻み、口に含んだ。
ルーンの効果が、舌を、味覚神経を、魔術師でいうところの魔力回路のような凪子の体内の器官を通って、全身へと広がる。ランサーがライダー戦で用いたルーンの結界、それと類似した方法だ。
継続期間は飴を口にふくんでいる間だけだ。凪子は予め複数の飴を用意し、懐紙で包んで取りやすいところにしまってから、ひょい、と門扉に飛び乗った。
結界は、反応しない。
凪子はよしよし、と小さく頷きながら、家の様子も伺えそうな、庭の木の後ろへと位置取った。

それから少しして、屋根に音もたてずに何かが降り立った。
「(ほーらやっぱり……)」
それは、ランサーだった。つまらなそうに屋根の上を歩き、家屋の中の気配を探っている。
それと同時に、発動した感知結界がガランガランと音をたてた。
「ったく、うるせぇ」
ランサーはつまらなそうに毒づき、ふっ、と姿を消した。少しして、どたんばたん、と人が転がるような音がする。
凪子はあーあ、と思いながら、ご愁傷さまですとでも言いたげに手を合わせた。
だが。
「ぃっ!!」
「!」
丸めた紙を手にした士郎が、ガラス戸を突き破って庭に転がりでた。そして攻撃を予想していたのかたまたまなのか、起き上がりざまに手のそれを振り、追撃してきたランサーの一閃を辛うじて弾いた。
ランサーは意外そうにそれを見たが、意外だったというだけで、さして気にした様子もなく士郎を蹴り飛ばした。
軽く士郎の体がふっとび、土蔵の前まで転がされる。士郎の目的は土蔵だったのか、ランサーを気にしながらも士郎は土蔵に転がり込んだ。
「…」
ランサーの表情は非常につまらなそうだ。凪子の存在には全く気がついていない。
ランサーはそのまま焦る様子もなく、土蔵へと入っていった。
「(…あの土蔵、召喚陣がある…。帰ってすぐ行かなかったことを考えれば、恐らくあの少年はその存在を知らないはず。ここで召喚できるだけの強運の持ち主なら、彼は間違いなく“アーサー王”を召喚できる……!)」
ごくり、と凪子は唾を飲み込む。その顔には笑みすら浮かんでいる。

普通であれば、ここでそう都合よくサーヴァントを召喚できる“はずがない”。
だが、そうした有り得ないことを為し得るのが人間という種族だ。
可能性が0でない限り、人間は奇跡を起こす。

「……!」
少しの沈黙の後、莫大な魔力が突如として土蔵に沸き起こる。
「…マジかよ」
思わず凪子は隠れていることも忘れ、ぽつりと呟いた。
直後、何かに弾き飛ばされたかのようにランサーが土蔵から飛び出し、後を追うように土蔵の入り口に、甲冑姿の少女が姿を見せた。
<<prev next>>