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我が征く道は8

「はい、毎度ありー」
「ちょうど買い足そうと思ってたところだったから助かったわ」
「はは、そりゃ運が良かった」

ーこの子、聖杯戦争に参加するんだな
凪子はそう思った。御三家が参戦しないはずがないとは思っていたが、凛はまだ幼い。故にどうかと思っていたのだが、このタイミングでこれだけ買うなら、間違いなく参戦するのだろう。
昨日今日で突き止めたマスターは四人。召喚されているサーヴァントは、ランサー、キャスター、ライダー、バーサーカー。残り玉はアサシンとセイバーとアーチャーだが、大気中の魔力の変動の流れから察するに、柳洞寺でなんらかのサーヴァントが召喚されている。とはいえ三騎士レベルがキャスターの膝元となった地で召喚されるとは考えにくいから、恐らくそれがアサシンだと仮定すれば、残り枠はセイバーとアーチャー。聖杯戦争において三騎士が残っているのは有利だろう。
凪子はうーん、と背を伸ばし、立ち上がった。
「さぁて、じゃあ今日はお暇するかな」
「あら、簡単なものでよければ夕飯くらいご馳走するわよ?」
「わぉ、ほんと??じゃあオマケでこれあげる。夕飯代」
「ちょっ…これ、ルーン!?ルーンストーンじゃない!」
「アンサス刻んであるから投げればどっかん!よ!」
「洒落にならないわね…まぁいいわ、くれるって言うならありがたくもらっておく。じゃあちょっと待ってて」
「あ、なら屋敷の中見ててもいい??工房とか凛ちゃんの部屋とかには入らないからさ」
「………、むやみやたらに触ったりはしないでよ」
「おっけ〜」
凪子はそう言って、部屋を出た。

 屋敷の間取りは変わっていない。凛に遭遇した後どうにか記憶を掘り起こした、その記憶のままの間取りだった。
「…確か、この先が……」
がちゃり、とドアノブに手をかければ、鍵はかかっていない。きぃ、と少し軋む音がして扉が開く。
そこは時臣の仕事部屋だった。かつては、この部屋で石を売っていた。それで懐かしく思って、部屋を訪れたくなったのだ。
「使ってるはずないのに綺麗だな。凛ちゃんマメだねぇ」
意外にも清掃が行き届いている部屋に遠慮なく入り、時臣の机の前で止まる。
「………あなた馬鹿だねぇ。小さい子いるのに、裏切りで死ぬなんてさ」
ぽつり、と。凪子はそう呟いた。
凛が何かを探していたのか、あるいは何かで使っているのか、机は部屋の他の部分に比べて少し荒れていた。つつ、と、机の空いている部分を指でなぞる。

10年前の事を調べた結果、凪子は10年前にも聖杯戦争が開催されていたことを知った(そして観戦しに行かなかったことを後悔した)。一般向けの記事では時臣の死は事故死とされていたが、そんな都合よく事故死するはずもない。そこで少し探ってみれば、すぐにその理由は分かった。
時臣は第四次聖杯戦争において、アーチャーのマスターだった。そして、アサシンのマスターを配下において利用していたらしい。慎重な彼らしい戦法だが、一度信用した相手を疑わない性格が仇となったようだ、そのマスターに裏切られ、命を落とした。
「魔術師っつー人間は、よくも悪くも自分の価値観を過信しすぎなんだよねぇ。だから足下掬われる。まぁ死人に鞭打ったってしゃーないか」
ぽんぽん、と、凪子は落ち込んだ人の背中を叩いて励ますかのように、机を軽く叩いた。
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