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我が征く道は6

「まぁまぁ、そう言わずに〜。それにしてもおっきくなったね〜?前見たときはこーんなちっちゃかったのに」
「産まれる前のことは分からないから否定しようがないけど、小ささを卵子サイズで示すのやめてくれない??」
遠坂凛は、凪子が先程好き勝手に回想していた男性ー遠坂時臣の娘だった。以前時臣に石を売りに来た際、幼い彼女に会ったことがあったのだ。
それはもう、10年以上も前の話だ。見目の変わらない凪子のことを、不思議に思うのも無理はない。
凪子はカラカラと楽しそうに笑った。
「あはは。にしても覚えててくれておばーちゃん嬉しいよ」
「あら、永遠の18歳なんじゃないの?」
「価値観とは常に移り変わるものなのさ〜。でも…なんかお屋敷荒れた?お髭のおにーさん…あ、時臣さんか、は、ご在宅?」
時臣、と、凛の父親の名前を出すと、ふっと凛の表情が僅かに曇った。
その変化はとても僅かなものだった。だが凪子も無駄に何千年と生きてはいない。その変化が何を意味するかなど、言われずとも分かった。
「あ、ごめん、亡くなってたか」
「…ええ、10年前に。母もそのあとすぐに…だから今は独りよ」
「そっかー…日本だとなんて言うんだっけ、こういうとき。ゴシューショーサマ?」
「別にいいわよ…それより、なんで私の家の前にいたの?びっくりして慌てちゃったじゃない」
凛は亡くなった両親のことをさして引きずる様子もなく、話題を変えた。むぅ、と僅かにふくれたような表情を見せる凛に、凪子は笑って返す。
「いやー、ちょっと観光目的でここにも来たんだけど、色々ブラブラしてたらたまたま通りかかってさ。いい商売相手だったなーって懐かしくなってた。最近不景気だからかさぁ、あそこまで気前よくぽんぽん買う人いなくてねー」
「…?商売相手?まさかあなた、まだあの時みたいに、石売ってるの?」
「もち〜宝石は嵩の割りに利益がいいし、ルーン石はちょいちょいって作れちゃうしね〜」
「……………」
きらり、と凛の目が光る。おっ、と凪子も僅かに目を見開いた。
「……何か見てく?顔見知りのよしみでオマケしてあげるよ?」
「…学校があるの。放課後はどこにいる?」
「んー、とりあえずもう少しこの街ぶらつきたいから新都のホテルにでも泊まろうかなって。でも放課って16時くらいでしょ、私から出向こうか?」
「それは…助かるけど」
「じゃあ4時半頃また来るよ〜じゃね!」
「え、あ、分かったわ…」
一方的に約束を取り付けると、凪子はさっさと踵を返した。凛は僅かに戸惑った様子を見せたが、学校に行く時間が迫っていたのか、特に追いかけたり呼び止めたりすることはなかった。

 「……………」
坂道を大分下ったところで、ぴたりと凪子は足を止めた。くるり、と、降りてきた道を振り返る。
「…そうか、死んだか……。まだもう少し生きると思ってたんだけどな。奥さんも綺麗な人だったのに」
そう、小さく呟く。そして、ふ、と思い付いたように鞄から懐中時計を取り出した。
普通のそれよりもはるかに大きく、円盤が5つ6つとついたそれは、凪子が随分前から愛用している時計で、西暦から分かるような時計だった。
「…今年は2004年。ん?え、2000越えてたの?マジか!意識してなかった。まぁいいや、てことは、亡くなったのは1994年くらい。…その年何があったか調べてみるかな。どうせまだ暇だしねぇ」
凪子は一人そう呟き、止めていた歩みを再開させたのだった。
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