わかってる。この幸が仮染めだってことぐらい。
初めからつかの間の夢物語だってことぐらい。
なのに、どうして。
「涙が出てくるんだ……っ」
愛などしりません。
恋などしりません。
しらなくとも、生きていけました。
自分の出生を育ちを恥じるつもりもありません。
その日暮らしで食いつないできた自分を悔いるつもりもありません。
ああ、でも、それでも思ってしまうのです。
貴方と同じ立場にいれたなら、と――


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貴族と娼婦の恋
貴族には幼なじみの許嫁あり。でも親が仲良しな感じでの口約束なので家の進退に影響はない。
娼婦は娼館で働いてた、強気な娘。
生き別れの弟がいて、弟は商人。成功した。ので迎えにきた。
男なら役に立つ。女は捨て置け。




「待ってる」
柔らかな笑顔を浮かべた彼。その約束の日に私は街を堪能していた。
弟を引き連れて遊覧船、オペラ、美術館。場違いもいいところを回っていた。

「貴族は待つだけなのか? 本当に欲しいなら行動しろ。欲しいものを手に入れるために」


「全部、捨ててきた」

目の前が、笑顔が、にじんだ。意図せず手が伸び、細いけれど確実に男である首に巻き付く。
「……バカだろ!」
ああ、私たちには互いしかない。補足

「愛以外にあげられるものはないけど、許してね?」

愛=物体だった少女。
つまり「好きだよ」「あなたは何をくれる?」「欲しいものを好きなだけ」
親からの愛=お金
乳母からの愛=食事

くれない=愛がない

「愛してる」と囁く男たちは個人的なお金と。
「好きですよ」と嘯く支配人は給料。