大好きです。大好きだったのです。今でも大好きなのです。
なのに、貴方は。
私にとって彼は優しい人でした。
いつも笑顔を浮かべていて、私を慰めてくれました。
閉じこもっていた世界に放り出され、一人きりだった私に声をかけてくれました。
私の声に応えてくれる素敵な人でした。
私に冷たい世界に温もりをくれる人でした。
私が彼に甘えてしまうのは、ごく自然なことでした。
私は私にしか甘やかされず私は私にしか相手にされなかったものですから。初めて甘やかしてくれた人に惹かれずにはいられなかったのです。
優しい人でした。温かな人でした。稀に意地の悪い人でした。
何も知らない私に、色んなことを教えてくれました。
私なんかのために、何度も沢山の時間を削ってくれました。
私の我が儘を、幾度も聞いて叶えてくれました。
他の人にとっては、とてもくだらないことだったかもしれません。
けれど私には、とても大切な時間だったのです。
ある日私は酷い眩暈に襲われました。
視界が歪み、眩み、闇の中にいくつもの光が点滅していました。
力のない足で何とかソファに歩み寄り、そして身体を預けました。
身体が鉛のように重たく、動くことができませんでした。肩で息をしていました。
やがて世界が戻ってきたと感じた時には、もう、遅かったのです。
いつもの癖だと思い彼に声をかけました。
彼の手にかかれば、不思議なことにどんな症状でも楽になるのを知っていたのです。
けれど、世界は私に冷たいままでした。
彼には、私より優先すべき人ができてしまっていたのです。
その時の私は、不思議と笑顔をつくることができていました。
私は心のどこかで知っていたのです。世界と同じように何れ彼も私から離れてしまうということを。
そしてそれを過去と同じく全力で否定してきました。しかし世界は厳しく、私はそれを目の当たりにしました。
悲しくなりました。寂しくなりました。
この世界には私を知る者が唯の一人もいなくなってしまったのです。
……私はまた、一人になってしまいました。
彼に背を向け歩む私を彼はなんと思ったでしょう。きっと重荷がなくなったと、そう思ったに違いありません。どう記憶を思い返しても、私は彼に甘え、荷物でしかありませんでしたから。
私は彼が欲しくてこのようなことを告げたのではないのです。
彼には幸せになってほしいのもまた事実なのです。例えそこに私がいなくとも。
……いいえ、そこに私がいないことこそが彼にとっての幸せということもわかっています。私が存在することが、誰かの幸せに繋がることは決してないのですから。
どうか、私を殺してください。
願いはこれだけです。
私が、馬鹿なことをしてしまうまえに。
――――
距離の測り方がわからない。ならいっそ、初めから繋がりがなかったように振る舞えばいい。