「こんにちはー。宅配便でーす」
「はーい、お疲れさまー」
ある秋空の映えた休日の昼下がり、私は運送屋から小包を受け取ると、そのままリビングに向かっていく。
小包の重さが少し気になったが、割れ物注意という表示に私はテーブルにそっと小包を置いてみる。
伝票には送り主は実家からとなっていて、私は何のことか分からずついつい首を傾げてしまった。
「………なにか頼んでいたっけ?」
特に思い当たる節もなく、途方に暮れていると、ミクが様子を見にやって来た。
「マスター、何か届いたんですか?」
「あ、ミク。実家から何か届いたんだけど、何か心当たりない?」
運送屋のトラックの音を聞きつけたのか、ミクは小包の中身を確認するように持ち上げていく。
そして、確信したように頷くと満面の笑みを私に向けてきた。
「マスター」
「どうしたのよ?急に機嫌良くなって?」
ミクがこうしてにやけているのを見るのは初めてのことで戸惑っていると、ミクは楽しそうに小包に手をかけて「開けていいですか?」と訊ねてくる。
構わないことを告げると、ミクは鼻歌を歌いながら小包を開けていく。
中から姿を現したのは七輪で、私はミクの機嫌のいい理由がさっぱり分からない。
「あ、マスター。これはですね、マスターのお父さんが送ってくれたんですよ」
どうやら表情に出ていたのか、ミクは笑顔で説明してくれた。
「前にマスターの実家にお邪魔した時に、マスターのお父さんがこれで焼きネギを作ってくれたんです。
とても美味しかったので、今度は自分で作ってみたいと話したら『送る』と言ってくれてんです」
そう言って、ミクは冷蔵庫からネギを取り出すと食べやすい大きさに切り分けていく。
(まるで初孫ができたおじいちゃんみたいね)
そんなことを思いながら、私はミクが下ごしらえしていく様子を見つめて一息ついていた。
やがて下ごしらえも終わり、私達は庭に道具を運び出す。
「んー、とてもいい匂いがします♪」
まるで小さな子供のようにはしゃぎながら、ミクは楽しそうにネギの焼ける様子を眺めている。
団扇を片手に少女がネギを焼いている様はおかしなものがあったが、本人は自覚する様子もなく、程よく焼けたネギを美味しそうに頬張っていた。
「マスター、とっても美味しいですよ。なんだか幸せです」
「よかったわね」
ミクの幸せそうな顔を微笑ましく見つめて、私はミクの頭をそっと撫でていく。
やっぱり、父親がわざわざ七輪を送りつけてきたことから、孫みたいなミクにはついつい甘やかしてしまうのだろうかと考えていると、メイコとルカが姿を現してきた。
「…なにかいい香りがしたと思ったら、ミクさんだったんですね」
「あら、美味しそうね」
二人とも七輪の上のネギとぱたぱたと団扇を扇いでいるミクを交互に見つめて唇を綻ばせている。
「はい!よかったらこれ使ってみませんか?
材料は今すぐ買いに行きますから。なんていうか、幸せのおすそわけです」
「待ちなさい!」
今にも飛び出していきそうなミクを全力で引き止めると、ミクは不思議そうに目を瞬かせていた。
「いきなりどうしたんですか、マスター?」
「私が買いに行くから、ミクはちゃんと火を見てなさい。
あと、ちゃんと残さず食べなさいね」
私はそう言うと、メイコの腕を掴んで足早に出掛けていく。
「ミク、ルカ、お留守番お願いね?」
ミクとルカが頷いたのを確認すると、未だに疑問符を浮かべているメイコを引きずりながら歩き出していた。
メイコと二人で並んで歩いていると、メイコはおずおずと話しかけてくる。
「マスター、別にミクに行かせてもよかったんじゃないですか?」
無論、ネギを言い訳にしなくてもいいんじゃないかという含みのあるメイコのもっともな指摘に、私は思わずため息をついていた。
「まあ、そうなんだけどね。あんなに楽しみにしてるミクを行かせるのは忍びなかったし、それにね…」
私はメイコの手を取ると指を絡み合わせていく。
「たまにはこうしてデートしたいなって」
不意に表情を綻ばせて、私はメイコをじっと見つめる。
メイコは意表をつかれたように目を丸くしていたけれど、すぐに表情を輝かせると、指が絡み合った手をキュッと握りしめてきた。
「マスター、ミクとルカに美味しいものを買っていきましょうね!」
それはもう、ご機嫌といった表情でメイコは私に寄り添ってくる。
後はもうメイコと買い物という名のデートを楽しもうと、そしてミクとルカにおみやげは何にしようかとメイコとおしゃべりしながら歩き出した。
はじめに火を扱うのは大変危険です。七輪を使う場合は責任者監督のもと、十分注意してください
久々にいつもの調子で書いてみようと思ったのですが、なんだかどんどん話が反れていっているような気が…
はじめはミクでいろいろ考えていたのに、いつの間にかマスターとメイコのお話に…
いや、まあいつものことと言われたら何も言い返せないのですが