うっすらと淡い日差しが覗き込む爽やかな朝。私はゆっくりと目を開けていく。
春を迎えたはずなのに、まだまだ肌寒く、布団の世話になりっぱなしだ。もう少し眠っていたいという欲求と戦いながら布団に潜り込もうとすれば、なにやら違和感を覚える。
気になって違和感がする方を向けば、そこにはメイコが静かな寝息を立てていた。
まだぼんやりとした頭で状況を把握しようと一所懸命に働かせてみる。
メイコが隣で眠っている。この事実だけなら別におかしなことではない。こうやって二人で一緒に寝ることは珍しいことではないし、たまにはメイコの温もりを感じていたい。
問題は昨日は一人で寝床についたことで、いつの間にかメイコが人の布団の中に潜り込んでいたことだ。
おまけに今のメイコは一糸纏わぬ姿である。
「…マスター、そんな激し過ぎます」
なにやらわけのわからない寝言を発して、相変わらず気持ち良さそうなメイコの寝顔は少し腹立たしい。
私はふつふつと沸き上がってきた感情の勢いそのままにメイコを揺さぶっていた。
「メイコ、起きなさい!」
怒りも混じっているのかいつもよりも激しく揺さぶり、メイコをじっと睨み付ける。
そんな私とは裏腹に、メイコはのんびりとした雰囲気で身体を伸ばし震わせていく。
ようやく起きたようで、まだ焦点の合っていない瞳を擦りながら私の姿を探しているようだった。
「あ、マスターおはようございます」
「あ、じゃないわよ!いきなり裸で人の布団に潜り込んで!悪ふざけもいい加減にしなさい!」
「そんな…、マスターひどい。昨夜はあんなに愛し合ったのに」
「寝言は寝てから言いなさい!そんな事実なかったでしょうが!」
「マスター忘れちゃったんですか?」
烈火の如く怒る私をものともせずに、メイコは飄々とした態度で受け流している。
まじまじと真剣な表情は何も知らなければ騙されてしまいそうなくらいだ。もちろん騙されるわけにはいかないけれど。
と、ここでふと目にしたカレンダーで今日が四月一日ということに気付く。
「うう、もうマスターなしじゃ生きていけません。責任取ってください」
「いいわよ」
「へっ?」
なおも演技を続けるメイコに返事をして、私はメイコの額に軽く口づけをする。
私の行動が意外だったのか、それとも不意打ちだったのか、今度はメイコが慌てる番になってしまっていた。
「あの、マスター。今日はエイプリルフールで…」
「知ってる」
「だからさっきまでのはわたしの冗談で」
「うん、分かってる」
メイコの言葉を遮り、私はメイコをそっと抱き締める。すべすべとした素肌と肉付きのよいメイコの裸体はとても抱き心地がいい。
耳元ではあわあわとメイコの震えた声が聞こえてくる。きっと耳まで真っ赤にしているんだろうなって想像するとなんだか楽しくなってきた。
「メイコ、責任取るから今からデートしよ?」
「マスター…?」
メイコから身体を離して顔を覗き込むと、目を丸くしたまま固まっているメイコがそこにいる。
ぱちくりと目を瞬かせたまま気が抜けたようにぼーっとしているメイコが可愛くて、私は唇を綻ばせていた。そんな私に気付いたのか、メイコの表情は相変わらず赤いままだ。
「ほら、早く服を着て。時間なくなるわよ?」
「マスター、ホントなんですか?」
上目遣いで見つめてくるメイコがとてもいじらしく、私まで赤くなってしまう。正直、くせになってしまいそうなくらいだ。
「それじゃメイコはウソにしてほしかったわけ?」
「イ、イヤです!マスター、すぐに準備しますから目一杯楽しみましょうね!」
声を大にして即答するや否や、メイコはシーツを身にくるみ部屋を飛び出していく。
メイコが出ていくのを見送って、私は盛大にため息を吐いていた。別にこれが初めてではないとはいえ、さすがに慣れない。
私もまた寝巻きに手をかけて、クローゼットの中から今日何を着ていくか悩み始める。
やっぱりメイコとのデートは楽しみで仕方ない。にやける顔をなんとか引き締めようと頬を叩く。
「さてと、メイコにもあんなこと言っちゃったしね」
きっかけが少し言葉にしがたいウソとはいえ、メイコと水入らずに過ごせるのはとても嬉しい。
せっかくの休日でもあるし、やりたいことが次々と浮かんでくる。メイコと何を話そうかと考えながら、私は鏡を前に服を合わせていた。
エイプリルフールということでいつものようにウソなお話を考えてみました
最近更新してなかったのでリハビリのつもりで投下してます
いつもの調子だといいんですけど