実家での休養を十分に取り、身も心も鋭気を養うことができてほっとしている。
…まあ、メイコに襲われたり、メイコとうららのケンカに巻き込まれたり、リンやレンと久しぶりに遊んだり、メイコとルカとハクと一緒に呑んだり、ミクとネルののろけ話を聞いてたり、メイコに襲われたりと充実した休暇を送ることができてなによりだ。
…普段の生活とあまり変わらない気がしたけれど、このことはそっと胸に閉まっておこう。
「センパイ、ルカさん、今度遊びに行きますね」
別れ際、リンはミクとルカの手を取って、名残惜しそうにしている。
ミクも掴んだ手をブンブンと振っていてなんとなく寂しそうだ。
ルカもめずらしくしんみりとしていて、別れを惜しんでいる様子はなんだか新鮮に感じられる。
一方で、メイコとうららは別れ際でもいがみ合っていて、私は呆れたように一息ついていた。
「いづるー、いづると一緒にいた時間、スゲー楽しかったぞ!
またいつでも帰ってこいよな」
未だにケンカしている二人をよそに、レンが笑顔で見送ってくれる。
私は目を細めて微笑むと、そっとレンの頭を撫でていく。
「いづる、あんまり子供あつかいすんなよな。オレもリンもいつまでも子供じゃないんだから」
「はいはい、ごめんね。レン?」
子供あつかいされたことで、レンは少し機嫌を悪くしてしまったみたいだけど、私が素直に謝るとすぐに機嫌を直してくれた。
「別に分かってくれればいいん…だ…?」
始めは胸を張っていたが、後になってレンが身体をぶるっと震わせてしまっている。
レンの様子の変化に何事かと思っていたら、メイコとうららが私達を見つめてきていた。
「なあ、いづる。寒気というか殺気みたいなのを感じるんだけど…」
「そうね。とりあえず、振り向くのはやめた方がいいわ」
二人の表情は普段と至って変わらないものの、奥底から感じるなんとも言えない殺気の込もった視線に、ただただ苦笑いを浮かべることしかできない。
二人の視線にどうしたものかと考えていると、いつの間にやらカイトが現れて、レンの肩にポンと手のひらを置いてきた。
「カイ兄?」
「レン、マスターが呼んでたぞ。レッスンするから来てほしいそうだ」
「うん、わかった。それじゃ、いづる。またな!」
そう言い残して、レンはその場から去っていく。
とりあえず、レンが危機から脱したことに安心してため息をついていると、カイトが真剣な表情で私を見ている。
「いづるさん、マスターから伝言、『見送りに来れなくてすまない。また今度帰ってきたら、セッションしような』と」
「ええ、わかったわ」
音楽で語りかけてくる父親らしいと笑顔で応えると、今度はカイトが自分の用件と口を開いてきた。
「久しぶりにめーちゃんに会えてよかったです。いづるさんといるめーちゃんの表情がとても幸せそうで安心しました。
これからもめーちゃんのことよろしくお願いします」
「ええ、任せといて。カイトも父さんのことよろしく」
「はい」
私もカイトも何をするでもなく、ただ笑顔を浮かべている。
カイトのメイコに対する家族を見守るような視線に、メイコと一緒に兄妹のように育ったことで、カイトも何か思うところがあったのだろうかと考えていると、家の奥から騒ぎ声が聞こえてきた。
「いつまで寝てたのよ、この寝坊助!いづる達が帰っちゃうじゃない!」
「だってネルちゃんが起こしてくれなかったから…」
「わたしのせい!?ちゃんと起こしたでしょうが!!」
「もうちょっと優しくしてくれないと起きられないよ…」
「口答えするなー!!」
家の中から慌ててネルとハクの二人が飛び出してくる。私達が注目していることに気がつくとネルは顔を真っ赤にしていた。
「…な、その…、ええと、ち、違うの!」
ネルは周りの視線にしどろもどろとしながらも、なんとかごまかそうと辺りを見回していて、やがてミクとルカの姿を見つけると、何かを思いついたように叫んでいた。
「ミク、ルカ!また遊びに来なさいよね!
来ないと承知しないんだから!」
「はい!またネルさんとハクさんといっぱいおしゃべりしたいです!」
「…ハクさんもお元気で。ネルさんと末永くお幸せに」
「ありがとうございます。ネルちゃんは私が幸せにしますから」
「ちょっと!?なんでそんなに話が飛んでいるのよ!?」
表情を真っ赤にして精一杯叫んでいるネルの照れ隠しを微笑ましく見つめながら、私達は車に乗り込んでいく。
「それじゃみんな、またね」
それが別れの言葉となって、私達はみんなに見送られてその場を後にする。
「マスター、また遊びに行きたいです!」
「…私もみなさんにお会いしたいです」
帰りの運転中、ミクとルカはとても機嫌良く実家での思い出を語り合っている。
なんとなくメイコのことが気になって、隣にいるメイコを見やると、一瞬目が合ってしまった。
すぐに視線を前に戻したけれど、私と視線が合ったことが気になったのか、メイコは不思議そうな声音で聞いてきた。
「どうしました、マスター?」
「え…と、その、ね。メイコはもう一回里帰りに付き合ってくれるのかなって…」
実家にいる間、事あるごとに妹と睨み合っていて、楽しめたのかとメイコのことが心配になってしまう。
「もちろんですよ。ぜひ連れていってほしいです」
予想外の答えに思わず目を丸くして、メイコの方を見ていた。
「ああ、もうマスター危ないですよ。ちゃんと前見てください」
「ごめん。けど、なんで…?
うららとあんなにいがみ合っていたのに?」
私がきょとんとしていると、メイコはからからと笑いながら答えてくれた。
「別にあんなのじゃれ合いのうちにも入りませんよ。墓参りの後、うららさんと気の済むまで話し込んで、今はマスターをどれだけ愛してるか言い合える仲ですよ。
もちろん、負けるつもりはさらさらありませんよ?」
メイコの言葉が私の胸を心地よく高鳴らせる。後ろからミクとルカの感心する声が聞こえてきたが、それすらも気にならないくらいに心臓が早鐘を打っている。
「あ、ありがと。メイコ」
今はこれだけ言うのが精一杯で、とりあえず動揺した自分を落ち着かせようと息を大きく吸い込んだ。
十月になってしまいましたが、これで夏休み編は終了です。長らくお待たせして申し訳ありません
最後はメイコが持っていく感じにしたくてこうなってます
それでは長いお付き合いありがとうございました
もちろん、小ネタは続いていきますよ?