「いづるさん、おかえりなさい」
「あっ、いづる。久しぶり!」
家に到着するなり、リンとレンの二人が出迎えてきてくれる。
二人はそれぞれ妹と父親がマスターをしていて、何度も顔を合わせている。
ただ、リンは前に妹と一緒に私の所に遊びに来ていて、ミクとメイコに面識がある。
もちろん、後からうちにやって来たルカとは初対面だ。
「リン、レン、久しぶり。元気してた?」
「もちろんだよ!オレもマスターもカイ兄も元気してるよ」
「うん。マスターも他のみんなも元気です」
久しぶりの再開がよほど嬉しかったのか、リンもレンもはしゃぎながら私の手を引っ張るように玄関に導いてくれる。
二人に振り回されているみたいで後ろからなにやら笑い声が聞こえてくるけれど、とりあえず気にしないでおく。
玄関の中に入ると、早速リンがミクの下に歩み寄ってきた。
「センパイお久しぶりです」
「リンちゃんもお久しぶりです。とっても会いたかったですよ」
ミクとリンは手を取り合って、お互いに微笑み合っている。
友達同士の久しぶりの再開とだけあって、二人ともとても楽しそうだ。
ふと、急に寒気を感じて隣を見やると、ルカがミクとリンの様子に愕然として震えてしまっている。
「ルカ、とりあえず落ち着きなさい。ね?」
ルカにしてはめずらしい狼狽えぶりで、なんとかルカを落ち着かせようとなだめていると、家の奥から聞こえてくる足音がひとつ。
「あれ、いづるさん。帰ってきていたんだ」
外での騒ぎを聞きつけたのか、中からカイトが姿を現してきた。
「いづるさん、めーちゃん久しぶり」
「久しぶり、カイト」
「カイトくん、久しぶり」
そして、メイコとカイトは楽しそうに話していく。
メイコがうちに来て以来、久しぶりに会うものだから、つもる話もあるのだろう。
メイコが楽しそうに話しているのを見ると、なんだか胸の奥がちくちくと傷んでいくのを自覚してしまう。
…それにしても、メイコのことめーちゃんって呼んでたわね。
昔ながらの愛称と分かっていながらも、めーちゃんと呼べるカイトがとてもうらやましい。
そんなことを思っていると、後ろからルカが私の服を引っ張ってきていた。
「ルカ?」
「…マスターこそ落ち着いてください。その握り締めた拳を引っ込めた方がいいと思います」
ルカの指摘に自分が固く拳を握り締めていたことに気づいて、慌てて手のひらを開いて息を大きく吸い込んでみる。
いつの間にか自分がやきもちを焼いていたことに気づいてしまい、思わず自己嫌悪に陥ってしまう。
「まったく…、メイコに偉そうなこと言っておいて、なんだか嫌になってくるわね」
出発前の出来事を思い出しながら、ついついため息を漏らしている自分がそこにいる。
「ありがとね、ルカ。だいぶ落ち着いてきたわ」
ルカにお礼を言って、再びメイコ達に目をやっていると、何やら奥から騒がしい気配を感じてくる。
奥から現れたのは妹のうららで私の姿を見つけるなり満面の笑みを浮かべていた。
「お姉ちゃん、おかえりー♪」
妹が現れたと思ったら、いきなり私に飛びついてきて力強く抱きしめてくる。
あまりに嬉しそうな妹の表情に、気がつけば頬を緩めていた。
「ただいま、うらら」
「お姉ちゃん、久しぶり。とっても会いたかったよ!」
そう言って、うららはさらに力強く抱きついてくる。
久しぶりの再会もあって、うららはなかなか私から離れようとしない。
そんな中、私とうららの間にメイコが割り込んできて、思い切り妹を睨み付ける。
「わたしのマスターから離れてください」
「イヤよ。どうしてわたしのお姉ちゃんから離れないといけないのよ」
メイコと妹が出す一触即発の雰囲気に、私達は思わずたじろいでしまっていた。
ただ、和やかにおしゃべりをしているミクとリンを除いて。
「相変わらずメイコさんとうららさんは仲良しでうらやましいです」
「マスターとあそこまで言い合えるなんていいなぁ」
ミクとリンの二人に私を始め、周りは明らかに違うと視線で合図を送っていたが、二人の醸し出すほのぼのした雰囲気に気づく様子は見られない。
それどころか、メイコとうららから毒気が抜かれていくのが感じられた。
結局、睨み合っていた二人も呆れたようにため息をついて険悪な空気が薄らいでいく。
「こんなところでケンカするのもなんだから、お姉ちゃんに免じて休戦してあげる」
「それはこっちのセリフよ。それとマスターを譲る気はさらさらないから」
「望むところです」
まだ二人の間で火花が散っているものの、どうにか事なきを得そうでところどころ安堵のため息が漏れている。
私はほっと一息ついてメイコを見やる。
妹とのケンカは困ったけれど、私にやきもちを焼いてくれたことが嬉しかったのは内緒の話だ。
こちらの視線に気がついて、メイコと視線が合う。考えていることを見抜かれるのが嫌で私は思わず視線を反らせてしまう。
それでも、メイコに見抜かれてしまったようで、メイコはにんまりと笑みを浮かべて腕に組み付いてきた。
思わず心拍数が急上昇してしまい、まじまじとメイコと見つめ合う。
これからの数日間、いろいろな不安が入り交じっているけれど、メイコと一緒ならなんとかなるような気がして、メイコの頭をそっと撫でていた。
そんなわけで、夏休み編二つ目です
一応、
うらら→リン
父親→カイト、レン
のようなマスターの関係になってます
カイトは実家で、メイコはいづるの家で起動した設定にしていますが、開発中の頃に毎日のように顔を合わせていたので、打ち解けている感じです