「やっぱ、秋になったらおにぎりが美味しいよね」
「…ユリの場合、一年中食べ物が美味しいって言ってないかしら?」
やや呆れた口調で呟きながら、マラリヤは美味しそうにおにぎりを頬張っているユリを見つめている。
ユリの幸せそうに食べている姿を見るのは好きだけど、あまり説得力のない言葉に思わずため息をついていた。
「え〜、そんなことないよ。
秋と言えばお米の美味しい季節だから、断然おにぎりが一番だよ」
「…ユリにしては、めずらしく説得力があるわね」
「………『ユリにしては』ってひどくない?」
「…冗談よ」
「マラリヤが言うと、冗談に聞こえないよ…」
拗ねたように頬を膨らませて、ユリはそっぽを向いてしまう。
拗ねた表情も可愛らしいとマラリヤはふふっと表情を緩めていく。
始めはユリも不機嫌そうにマラリヤを睨み付けていたが、やがてからかわれるのはいつものこととマラリヤにつられたように笑い出していた。
そしてまた一口とおにぎりを頬張っていき、満面の笑みを浮かべてとても幸せそうな表情だ。
「…相変わらず、見事な食べっぷりね。見ていて飽きないわ」
「へへ…、ありがと」
ユリの子供のような無邪気な笑顔にマラリヤの表情がほんのりと紅潮していく。とくんっと心地よくマラリヤの胸の鼓動が波打っていくのを自覚していた。
「どうしたの、マラリヤ?」
「…なんでもないわ」
ただ、ユリはマラリヤの様子に気付いていることはなく、不思議そうに首を傾げている。
その様子がますますマラリヤの胸の鼓動を高鳴らせてしまい、マラリヤは思わず視線を反らせていた。
「あ、ひょっとしてわたしのおにぎり食べたかった?
どれでも好きなものひとつだけ取っていいよ」
「…そうね。そうするわ」
しかし、あくまでも気付く様子のないユリに、マラリヤは「…鈍感ね」と聞こえないような小声で苦笑いを浮かべつつユリからおにぎりを受け取っていく。
「…おいしい」
「ほんとっ!?
マラリヤの好きそうなものを選んで握ったから、喜んでくれてすごく嬉しいよ」
どうやら、おにぎりはユリの手作りらしく、ユリはパチンと胸の前で手を合わせて頬を緩めていた。
「…まったく、素直にそんなことが言えるユリがうらやましいわ」
そう言うと、マラリヤは隣にいるユリに身を預けてそっと瞳を閉じていく。
「ええと、マラリヤ?」
急に甘えてきたマラリヤに戸惑いつつも、じっとマラリヤのことを見つめだす。
そして、残りのおにぎりを平らげるとユリは自分の膝の上にマラリヤを導いていった。
「よくわからないけど、たまにはこうしてマラリヤに甘えてもらうのもいいよね」
マラリヤの綺麗な髪を指で溶かしていきながら、ユリはとても楽しそうに微笑んでいる。
「…あら、まるでいつもユリが甘えてきてるみたいね」
「うーん、そうかも」
チロッと舌を出しながらユリが笑い出し、マラリヤもそれにつられてクスクスと表情を崩して一緒に笑い合っていた。
「…そうね。だったら今日は一日中ユリに甘えていいかしら?」
ひとしきり笑い合った後、マラリヤは不意に大人びた表情をすると、ユリをじっと見つめていく。
マラリヤのお願いに、ユリはきょとんとした表情を見せていたものの、ニカッと爽やかな笑顔を浮かべて、膝の上で横たわっているマラリヤの前髪をかき揚げるように撫でていた。
「もちろんだよ。なんだかマラリヤに甘えてもらえて幸せかも」
「…奇遇ね。私もよ」
「へへ…、マラリヤ大好き!」
「…はいはい」
やや呆れたように呟いているけれど、まんざらでもない表情でマラリヤは唇を歪めている。
しばらくの間、二人はじっと見つめ合い、とても穏やかな時間を過ごしていた。
食欲の秋二つ目です。どう考えてもユリ一択となってしまってこんな風になっちゃいました
ユリと言えば、なぜかおにぎりのイメージが強いです