よく晴れたすがすがしいまでの青空の下で、霧香は黙々とスケッチブックに鉛筆でさらさらと書きこんでいる。
秋空の太陽はとても穏やかで心地よく、今座りこんでいる川のほとりで霧香は視線の先の風景をぼんやりと眺めていた。
視線の先では一人の女性がどこからか現れた一匹の黒猫になつかれており、うらやましく思いつつも風景画にしっかりと女性の描写を書きこんでいく。
やがて黒猫も飽きたのか女性から離れていくと、女性が霧香の下へと歩き出してきた。
「どう霧香?うまく描けてる?」
上から覗き込むように女性が声をかけてくると、霧香は視線を上げて目の前の女性に微笑んでいく。
「うん。今日は調子いいかも」
いつもの抑えた声音とはうってかわって、なんとなくいつもより霧香の声音は楽しそうな抑揚で話している。
そんな霧香に笑いかけながら、霧香の目の前にいる女性―ミレイユは隣に腰を下ろしていた。
「相変わらず霧香の絵を見ていると、心が穏やかになっていくわね」
「そんなことないよ、ミレイユ」
まんざらでもなさそうに霧香は頬を染めていき、照れたように動かす手を早めていく。
「へえ、上手いじゃない」
ミレイユは改めて霧香の絵をまじまじと見つめて、思わず感心してしまう。今描いている絵の感想を率直に言われて、霧香は嬉しそうにふんわりと表情を緩めていた。
「あ、ありがと。ミレイユ」
ついつい呂律が回らなくなってしまい、霧香はかあっと表情を赤らめてしまう。
林檎のように紅く染まっていく霧香が可愛く思えて仕方ないとミレイユはクスクスと笑い出している。
笑いながら霧香の手が止まっていることに気がついて、ミレイユはいつの間にか霧香のスケッチブックに手を伸ばしていた。
「霧香、ちょっとだけ見せてもらっていい?」
「…うん。いいよ」
霧香からスケッチブックを受け取って、ミレイユはパラパラと眺めながら一枚一枚捲っていく。
風景、建物、動物と丁寧に描かれていて、ミレイユは思わず見入ってしまう。
数十枚程捲った辺りから、ふとあることに気がついた。
「ねえ霧香。たまに私が描かれているんだけど」
「うん。どこかおかしなところあった?」
不安を抱えた眼差しで、霧香はミレイユに上目を遣って見つめてくる。
そんな霧香にほんのりと顔が紅潮していくのを自覚しながら、ミレイユは優しい視線を送りつけた。
「違うわよ。むしろ、綺麗に描かれていて私じゃない気分よ」
多少苦笑いを浮かべて、ミレイユはため息をついてしまう。
しかし、霧香は疑問符を頭に浮かべた表情をしながらまじまじと見つめてきた。
「…?ミレイユはとっても綺麗だよ?」
冗談ではなく、あくまで真顔でミレイユを見てくる霧香に思わず息を飲み込んでしまい、ミレイユはみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。
「…まったく、アンタはいつの間にそんな言葉を覚えてきたのよ」
照れ隠しのために精一杯強がってみたが、霧香は微笑んでくるばかりで、ミレイユはますます表情が紅潮していくのを自覚してしまう。
「だって本当のことだよ?」
真面目に言ってくる霧香に、胸の内から可笑しさが込み上げてきて、ミレイユはついつい笑ってしまい、霧香もつられて笑い出す。
機嫌を良くしたミレイユは霧香にスケッチブックを返すと霧香の真正面に腰を下ろして向き合った形となる。
「…ミレイユ?」
「ねえ、今から私を描いてみない?
出来れば、アンタと一緒にいるところ。出来る?」
ミレイユの提案に霧香は一瞬きょとんとしていたけれど、やがてそれも笑みに変わって大きく頷いていた。
「うん、いいよ」
お互いに笑い合って、霧香は早速スケッチブックに鉛筆で描いていく。
真剣な表情で描いていく霧香を愛しく思いながら、ミレイユは満面の笑みを浮かべていた。
○○の秋でいろいろと考えていたら、芸術でミレ霧が浮かんできました
それにしても、天然な霧香は恐ろしい子になってしまいました
あと、生まれて初めてミレ霧を書いた時も絵を描いていたのですが、霧香は絵を描いているのが似合う気がします