とある夏の日の昼下がり、私達は縁側の奥に陣取って暑さを凌いでいた。風通しのよい場所に夏の日差しを避けて、私達はひっそりと横たわっている。
蝉の鳴き声がじりじりと夏の暑さを際立てており、徐々にではあるが私達の体力を奪っていく。しかし、時折鳴り響く風鈴の涼しげな音色がほんの僅かだけ私達を癒していた。
「……暑いですね」
「……メイコ、お願いだから『暑い』とか言わないで」
すっかり暑さに参ってしまい、私とメイコは床に伏せている。たまに涼しい風が吹き抜けていくものの、この暑さを乗り切るにはまだまだ足りないくらいだ。
容赦なくかんかんと照らす太陽はお構い無しでまるで嘲笑うかのようにも感じられてしまう。
「そうだ。せっかくですし、この間みたく水浴びでもしましょうよ。もちろん、中に水着とかしないで」
「却下。あんたはそう言って集中攻撃するのは目に見えてるじゃない」
前回の事を思い出し、思わず頭に血が昇ってしまったが、この暑さでは突っ込む気力も起きなくて、私は項垂れたまま突っ伏していた。さすがにメイコを睨み付けるだけで精一杯である。
まだまだ余裕があるようで、メイコの心配は必要無さそうだ。
「マスターのけち。風情の無いこと言わないでくださいよ」
「風情って何よ」
とりあえず、メイコのことは突っ込むのは止めにして、ミクとルカの方を見やる。ルカの姿は見えなかったが、ミクは縁側の近く、日向と日陰の境目で寝転がっていた。
この暑い中ではあったが、僅かに涼しそうにしている。
「ミク…?」
私の呟きとも言える呼びかけに反応して、ミクは笑顔で応えてくれた。どうやら何かを伝えたくてうずうずしているようである。
「あ、マスターここ風が吹いてて涼しいですよ」
私とメイコよりも余裕といった様子だから、おそらくここよりは涼しいのだろう。涼しい場所を探し出すのはまるで猫のようで、ちょっと可笑しい。
私はミクに誘われるように側に行き、場所を借りることにした。
「あ、ほんとに涼しいわね」
「はい!」
ミクの返事はとても元気良く、暑さを感じさせない。私は思わずミクの頭に手を伸ばして、そっと撫でていく。
そして、ミクは気持ち良さそうに目を細めておとなしく撫でられていた。ミクの頭を撫でているところでルカのことを思い出す。
「そういえば、ルカはどこに行ったのかしら?」
「ルカさんなら麦茶を取りに行くって言ってましたよ」
「なんか悪いわね」
ルカのこういう気遣いには頭が下がるばかりだ。未だに蝉の声が鳴り響く中、私達はルカが帰ってくるのをひっそりと待つことにする。
途中でメイコもやって来て、三人は仲良く並んで風の有り難みを感じていた。
「…お待たせしました」
それから数分と経たないうちに、ルカが麦茶を用意して姿を現してくる。ルカが姿を現すや否や、ミクは飛び付くようにルカの側に寄り麦茶を乗せたお盆を受け取って、麦茶を順番に注いでいった。
「はい、ルカさん麦茶をどうぞ」
「…ありがとうございます」
相変わらず初々しい二人に口元が綻んでしまう。私の視線に気付いたのか、二人ともほんのりと頬を染めていた。
邪魔をしては悪いと麦茶を受け取ってメイコの下へ帰っていく。
「ほら、メイコ麦茶」
「マスター、ありがとうございます大好きです」
どさくさに紛れた愛情表現に苦笑いを浮かべつつも、メイコに麦茶を差し出して一緒にグラスに口を付けて喉を潤していく。
グラスの中身が半分になったくらいで生き返ったように息を吐いてしまった。その隣でメイコがからからと笑い出したものだから、つい顔を赤らめてしまう。
「笑わなくてもいいじゃない」
「いえ、マスターが可愛いと思っただけです」
メイコにこんなことを言われたら、なんだか照れ臭い。私は悔し紛れに拳をメイコの頬にぐりぐりと押し付けて誤魔化していた。
「…相変わらず仲が良いですね」
そんなやり取りをルカとミクは楽しそうに見つめている。この二人に言われるのは違和感を覚えてしまうがそれは気にしない。
とりあえず、ミクが見つけた涼しい場所を四人並んで座り込み、麦茶を飲みながら日が傾くまで和やかに談笑しながら過ごしていた。
だいぶ遅れてしまいましたが暑中見舞い申し上げます
暑い中の冷たい飲み物、特に麦茶は最高ということでこの小ネタは出来ました
この暑い中でほのぼの感が出てたらいいな