巡音ルカのモニターも決まり、私はルカと共に家路につく。
帰り際にルカはいろいろと質問を投げかけてきた。
「…一緒に住んでいるのは、メイコさんとミクさんでいいんですね?」
「ええ」
「…写真にはいづるさんとメイコさんしか写っていませんでしたが、ミクさんはどういう方なんですか?」
「結構素直で可愛い娘よ。
あんまり素直過ぎて、メイコの吹き込むことを実行してくるのが悩みの種だけどね」
「…そうですか。会うのが楽しみです」
心なしかルカの表情が緩んできて、私は安心する。
やっぱり、新しい環境は不安だったりするんだろうか?
そんなことを思いながら隣で歩いているルカの手をそっと包み込むと、私はルカを安心させるように微笑んだ。
「大丈夫よ。メイコもミクもとっても優しい娘だから。
…たまにセクハラしてくるのがアレだけど」
「…はい」
私の吐いたため息に、ルカは微笑んで返してくれる。
そろそろ家につく頃だと、私達は足を早めていった。
なんだかんだで私もルカも一刻も早くメイコ達に会いたいらしい。
「ただいま」
私が声を上げると、ミクが足早に駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、マスター♪」
駆け寄ってきた勢いそのままにミクは楽しそうに抱きついてくる。
ミクが顔を上げたところでいつもと違う様子に気がついたようだった。
「マスター?こちらの方は?」
ミクが不思議そうに私を見つめて訊ねてくる。
それに応えるように、ルカは深々とお辞儀をしてきて挨拶を始めた。
「…はじめまして、巡音ルカです。
今回、いづるさんの家でモニターをすることになりましたので、よろしくお願いします」
ミクは始めは目をぱちくりと瞬かせていたけれど、やがて満面の笑みを浮かべて…、
…いきなりルカに抱きついた。
「初音ミクです。こちらこそよろしくお願いしますね♪」
「こら!初対面の人にいきなり抱きついたりしない!」
私はルカからミクを引き剥がして、ミクの額をコツンとつつく。
「…え?だって初対面の女の人に挨拶をするときはこうしなさいってメイコさんが…」
…あとでたっぷりと絞らないと。
「ごめんね、ルカ。私の家はだいたいこんな感じで…ってルカ?」
ルカはというとどことなく目の焦点が合ってなくて、頬が上気していて、初めて会った時の大人びた表情はすっかり消えていた。
「…いづるさん。いえ、マスター」
ルカはミクの目の前に歩み寄ると、すうっとミクの腰に手を回して優しくミクを抱き締めた。
「…私をミクさんのお嫁さんにしてください」
『へっ!?』
さすがにこれには私もミクも驚いた。
「マスター?ミク?どうしました?」
そこへのんびりした声でメイコが現れる。
ルカは現れたメイコに丁寧にお辞儀をして事の詳細を淡々と説明した。
「…はじめまして、メイコさん。巡音ルカです。
今日からマスターと一緒に住まわせてもらうことになりました。
そして、今ミクさんのお嫁さんにしてくださいとマスターに頼み込んだところです」
メイコは始めはよくわからない表情をしていたけれど、だんだんと状況を理解していったようで、にんまりと悪戯な笑みを浮かべて私を抱き寄せてくる。
「歓迎するわ、ルカ。でも、その前にわたしとマスターの愛の深さを教えてあげるわ!」
どうやら目の前のミクとルカに張り合うつもりらしく、私を力一杯抱き締めてきた。
「…わかりました。では私も愛の深さは時間とは比例しないと教えて差し上げます」
ルカも負けじとミクを抱き締めてくる。
そんなこんなでメイコとルカの愛の深さをテーマにした張り合いが始まりの鐘を告げる。
私とミクは妙に疲れた表情で、ただ時が過ぎていくのを待っていた。
そんなわけでいづる家とルカの出会いです
なんていうかメイコとルカの関係は「好敵手」と書いて「とも」と呼ぶような感じにしたくてこうなっちゃいました