「マスター!」

私の作業中にメイコが抱き付いてくるのはすでに日課と化している。メイコの肌の温もりが心地よいので、メイコの好きなようにさせている。
もちろん、メイコはやりたい放題だ。力一杯抱き付いてくるのは当たり前のことで、後ろから私の胸を揉んできたり、首筋に軽くくちづけをしたりと。
まあ、私もお返しにと私の胸元に抱き寄せたり、頬に軽くくちづけをしたりしているけれど。
そんなこんなで楽しく過ごしている日々ではあるが、少し気になることもある。

「マスター大好きです!」

メイコは愛情表現をしてくれるし、私の愛情表現を受け入れてくれるが、あまりそれ以外のわがままを言ってくれない。
不満と言うには遠く、些細なことであるけれど、もう少しなんと言うかあれが食べたいとかメイコにおねだりされてみたいというのはある。

「ねえ、メイコ」
「なんですかマスター」

だから今、メイコと二人きりでいる時に聞いてみようと声をかけた。
メイコは後ろからきょとんとした表情を覗かせる。目をぱちくりと瞬かせている様子がとても可愛らしく思えた。

「メイコは何か食べたいものとかある?」
「マスターが食べたいです!」
「そういうことじゃなくて」

私はすかさずメイコの額に手刀を一閃するが、にへらと特に堪えたということはなさそうだ。
私は呆れたようにため息を吐いて、冷たい視線を投げかけていた。それでメイコがどうこうなるというわけではないけれど。

「メイコは何か望みとかないわけ?ほら、メイコはくっつくだけくっついて他にわがままとかあまり言わないから」

私の言葉にメイコは顔をしかめて何か考え込むように頭を傾けている。ただ何とはなしに軽い気持ちで聞いてみたので、なんだか真剣に考えるメイコの姿が可笑しく感じられた。

「別にそんなに真面目に考えなくてもいいのよ?」
「うーん、マスター以外と言われるとなかなか思い付かないですね…」

メイコの口から出た言葉は意外だったが、同時に嬉しさから胸の奥がじんわりと温かいものになる。
メイコに想ってもらえるという事実は私の心を躍らせるものだと再認識して、つい私の頬を綻ばせてしまう。
思わずにやけそうになる表情を引き締めて、私はメイコを見つめていた。

「それにしても、急にどうしたんです?」
「え?いや、いつもこんな調子でメイコは満足してるのかなって」

もちろん、毎日が毎日このような日常を送ってきているというわけではないが、やはりメイコに厭きられないか気になってしまうのである。
それだけ私の中でメイコが占める割合が高いのかもしれない。要は私はメイコのことが好きで好きで仕方がないのだ。
とはいえ、自分の言ってることはメイコを隠れ蓑にした自分自身のわがままだということは自覚している。

「わたしはマスターに好きと言われること。愛されることが一番嬉しいんです。それ以上に欲しいものはよく分からないです」

そんな私の心の内を理解してくれたのか、メイコはぎゅっと回す手に力を込めてきた。
メイコに求められていることに安堵感を覚えて、私はメイコに身を預けていく。愛しさからメイコの手に自分の手を重ねて、そっと瞳を閉じていた。

「ありがと、メイコ」

私はふと目を開けてメイコに微笑みかける。お互いに交わす熱い視線は私達の時間の流れをゆったりとしたものに錯覚させてしまうようだ。
メイコの穏やかな笑顔は私に活力を与えてくれる。これは錯覚ではないと信じたい。

「あ、そうだ」
「どうしたのよ」
「マスター、お願いを聞いてくれるなら今から飲みませんか?」

メイコにとっていいアイデアだったようで、いつになく声を弾ませている。朗らかな笑顔がとても眩しい。

「もちろん構わないけど…、別にいつもと変わらないじゃない」

そう、メイコとの晩酌は毎日とはいかないけれど、よくある日常的な光景だ。それを指摘してもメイコの表情に変化は見られなかった。

「だからいいんじゃないですか。マスターと一日でも一緒の時間を過ごせるのが最高の贅沢なんです」

メイコの言う通り、共に過ごせる時間はとても貴重だ。きっと一日一日が特別な時間である。多分、メイコの言いたいことはこういうことなんだろうと思う。

「分かった。付き合うわ」

なんだか肩の力が抜けて、私はお酒を取りに行こうと立ち上がっていた。
それに合わせてメイコも後を付いてきてくれる。鼻唄を歌っていたりかなりご機嫌の様子だ。早速、冷蔵庫の中の程よく冷えたビールを取り出してメイコとテーブル越しに乾杯をする。
ビールを喉に通し、盛大に息を吐いてメイコの顔は幸せで満ち溢れているようだった。

「やっぱり、マスターと飲むお酒以上に美味しいものなんてありません。
マスター、今夜は楽しく飲みましょうね!」
「…ええ、そうね」

他愛もないおしゃべり。それが出来ることの幸せを噛みしめながら、私はメイコと笑い合う。
メイコの話に耳を傾けながら、私はメイコと何を話そうかと考えることに胸を躍らせていた。









なんとなくほのぼのとしたマスターさんとめーちゃんのお話が書きたかったんです

こうやってマスターさんとめーちゃんのまったりとした晩酌とか大好きですよ