そして迎えた次の休日、私達は車に乗り込むと、この間見つけた穴場である桜並木を見渡せる場所へと向かっていく。
「美しい桜並木を肴に、マスターとお酒を堪能できるなんて幸せです」
メイコはそれはもう上機嫌で、助手席で弁当とお酒を大事そうに抱えている。
「メイコ…、アンタは何をする気なのよ…」
私は呆れた口調で呟くものの、メイコには届いておらず、とても楽しそうにはしゃいでいる。
「…ミクさん、私、桜を見るの初めてです」
「わたしもですよ。ルカさん、なんだかわくわくしますね」
後部座席では、ミクとルカが子供のように弾んだ声音でおしゃべりをしている。
皆が楽しみしていたことがちょっぴり嬉しくなって、私はおばあちゃんに教えてもらった桜の歌を口ずさんでいた。
やがて、メイコが、ミクが、そしてルカがそれぞれ私に合わせるように歌い始め、桜並木へと行く道中は小さなオルゴールを奏でているようだった。
「ほらメイコ、荷物半分持つから渡しなさい」
そして、目的の場所に着くと、メイコと二人で荷物を抱えて歩いていく。
「それじゃマスター、わたし達は先に場所を取っておきますね。
ルカさん、一緒に行きましょう?」
「…はい」
仲良く手を繋いで先に向かう二人を見送り、私はメイコに寄り添うように腕と腕をくっつける。
二人とも荷物抱えているため、繋ぐことはできないけれど、お互いの温もりを感じることができて、私達は微笑み合った。
「マスター、後でもっとくっついてもいいですか?」
「あまりはしゃぎ過ぎないようにね」
私の答えにメイコはとろけたように表情を緩ませ、歩調を早めていく。
私はクスッと苦笑いをすると、メイコに合わせて足を動かしていった。
『かんぱーい!』
満面に咲く桜並木に囲まれて、私達はジュースとビールの缶をぶつけ合う。
目の前の弁当に舌鼓を打ちながら、私達は桜を堪能していた。
「マスターとお酒に囲まれて、わたしはとっても幸せです♪」
早速私に抱きつきながら、メイコは私に頬を擦り寄せてくる。
私は甘えてくるメイコの頭を撫でながら、ミクとルカを見やる。
「…ミクさん、これをどうぞ」
「は〜い♪」
私達にあてられたのか、ルカはミクに焼きネギを食べさせていた。
ミクは大きく口を開いて、ルカが放り込むのをじっと待っている。
「ん〜!とっても美味しいです♪」
ミクの幸せいっぱいの表現に、ルカはただただふわっと表情を緩ませている。
私とメイコはお互いに視線を交わすと連れてきてよかったと笑い合っていた。
「マスター、わたし達も負けていられませんね」
そう言うとメイコは私に食べさせようと、卵焼きを差し出してくる。
「さすがにそれは遠慮しておくわ」
メイコには悪いけど、私には少しばかり恥ずかしい。
しかし、ミクとルカを見やると期待を込めた眼差しでこちらを見つめている。
………何を期待してるのよ。
改めてメイコを見やるとしょんぼりと仔犬のように見つめてきていた。
柄じゃないという自分を切り捨てて、私は思い切って卵焼きを頬張ると、みるみる顔が赤くなってしまう。
すぐにメイコは表情を輝かせて、再び私に抱きついてきた。
「マスターってばとっても可愛いです!」
私は頬を染めたままうつむいてしまうが、メイコはそんなことはお構い無しに機嫌良くなっていく。
そんなこんなでメイコとルカの抱きつき合戦が始まりの合図を告げていった。
桜の下での宴会も終わり、片付けているとミクとルカに桜吹雪が舞っているのが目に飛び込んでくる。
私はスイッチが入ったように頭の中で何か流れるのを自覚していた。
「ミク、ルカ、今度二人一緒に歌ってみない?
桜の歌が出来そうなの」
ミクとルカはぱちくりと目を瞬かせて、お互いに顔を見合わせる。
最初に口を開いてきたのはルカだった。
「…マスター、うんと甘い曲にしてほしいです」
ミクを後ろから優しく抱き締めて、ルカはほんのりと頬を染めている。
ミクもまたコクコクと頷いてきていた。
「わかったわ。とびっきりの甘い曲に仕上げるから任せといて」
こうして、私はミクとルカに曲を書くことになった。
ルカにとって初めての曲ということなのか、メイコは微笑ましくルカを見守っている。
帰り際、メイコに初めての曲を書いたことを思い出しながら、私はミクとルカへの曲を思い描いていた。
正直、真面目にいくかいつものノリでいくか迷いましたが、ルカにとって初めての曲ということで真面目にいこうと思いました
ミクとルカのデュエットで甘い雰囲気に感じることができればと思ってます