「それで相談というのは?」
十二月も半ばまでやって来たある日のこと、ハクとネルが訪ねてきた。何やら相談事があるらしい。
今、リビングにいるのは私とメイコと訪ねてきたハクとネル合わせて四人だ。
ちなみにミクとルカは所用で出掛けている。
「えっとですねえ、ネルちゃんにリンちゃんとレンくんのサンタさんになりたいと言ったら…」
のんびりとした口調でハクが話そうとしたのをネルが制止していく。
「ハク、ちょっと黙ってて。ハクがしゃべると話が長くなる」
「ネルちゃんひどい…」
ハクは非難がましくネルを睨み付けているけれど、ネルは特に気にした様子もなく用件を簡潔に述べていく。
ネルの話はこうだ。リンとレンは毎年サンタがやって来るのを楽しみにしているらしい。
しかし、去年サンタ役だった私の父親が疑いをかけられていて、父親を見張るらしいとのこと。
それでハクとネルがサンタ役を買って出たのはいいが、要領がよく掴めないので、以前私達がサンタをやっていたことを聞きつけて相談に来たそうだ。
「ネルちゃんすごい。十分もかからなかったよ」
「ま、ハクが説明したら一時間でも終わらないからね」
先ほど失礼なことを言われたにも拘らず、尊敬の眼差しでネルを見つめるハクに隠すわけでもなく、私達は肩を震わせる。
「それで?私達に出来ることなら協力するわよ」
「実はいづる達がやったことを教えてほしいの」
やってきたことと言っても、せいぜいサンタ服を着てミクとルカが寝ているところにプレゼントを置いたぐらいで、そんな大したことはしていない。
それを伝えようと口を開こうとしたら、急に悪寒して身が震えてしまった。
「わたしとマスターの熱い熱いクリスマスの出来事を知りたいのね?
わかったわ。わたしで良ければあの日のことを話すわね」
案の定、メイコが口元を歪ませながら嬉々とした表情で余計なことまで話そうとしている。
とりあえずメイコを黙らせようと手刀を振り下ろしていったが、気付かれたのかメイコに触れる一歩手前で止められてしまった。
「マスター、何をしようとしているんです?」
「こっちのセリフよ。前回のように好き勝手にさせるわけにはいかないからね」
前回は四対一と圧倒的に不利だったけど、今回はメイコとの一対一で条件は互角のはず。
ネルとハクは中立だろうし、メイコにさえ気をつけていれば前回のような惨劇にはならないだろう。
「あ、でもメイコさんのお話聞いてみたいです」
そう考えていたのも束の間のことで、ハクが興味津々といった表情で私達のやり取りを眺めていた。
「えーと、…ハクさん?」
何やらさっきよりも激しく警鐘が頭の中で鳴り響いて、私はメイコとハクを交互に見やる。
ハクは笑顔でこちらを見つめていて、メイコはというと水を得た魚のように機嫌良く含み笑いを浮かべていた。
「ねえハク、話が聞きたかったらマスターを押さえてくれると嬉しいんだけど」
「…え?いづるさんに悪くないですか?」
少し戸惑い気味なハクを前にメイコが食い付いたとばかりに拳を握り締めたのが見えて私は声を荒げてしまう。
「ハク、メイコの話に耳を傾けたら駄目!」
「ハク、大丈夫よ。わたしの話を聞いたら今まで以上にネルと仲良く出来るわよ」
…しまった!
こう言われたらハクは協力するしかないではないか!
がらがらと崩壊していく現実をなんとか食い止めようと、私は残ったネルをなんとか味方に引き入れようと声を掛けていく。
「お願いネル。ハクだけでも取り押さえて!」
「いづるは少し大げさだと思うわよ?
別に減るもんじゃないし、メイコに話ぐらいさせたら?」
…………………。
…終わった。
私の中でがらがらと崩れさっていく音がはっきりと聞こえてしまっていた。
後はハクが私を押さえ付けて、メイコが勝ち誇った笑顔であれこれと話し始めていく。
私はただ、顔が真っ赤になっていくのを自覚しながら、メイコの話をじっと聞いていた。
「メイコさんすごいです…」
「…聞かなきゃよかった」
メイコの話を聞き終えて、表情を輝かせているハクとあまりの内容に耐性がなかったのか真っ赤になっているネルとすっきりした表情のメイコがそこにいた。
「ありがとうございますメイコさん。参考にさせてもらいますね」
「参考にするの!?あれを!?」
さすがにネルも驚いて、わたわたと慌ててしまっている。
「だから言ったのに…」
聞こえないように小声で呟いて、私は盛大にため息を吐いていた。
こうなっては私にはネルの無事を祈ることしか出来なくなってしまう。
…いや、別に根に持っているとかそういうのではなくて。
「とりあえずネル、ハクには気をつけなさいよ」
「……いづるもね。今年もクリスマス、ミクとルカにプレゼントするんでしょ?」
ネルの表情にはすでに諦めの入ったものが写し出されていた。
私も似たようなものだろう。
未だ私達の目の前ではしゃいでいるメイコとハクを見つめながら、私とネルは再び大きなため息を吐いていた。
お久しぶりです
小ネタからいらっしゃる方、さらにお久しぶりです
ゲーム用のシナリオにネルハク(ハクネル?)を書いたので、なんだか書きたくなってしまいました
あの後、マスターさんとネルはどうなったのかは言うまでもないような気がします
念のため言っときますけど、えろい展開とかにはなりませんからね…多分