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小ネタ(ボーカロイドでお月見)

日もだいぶ傾いてきた夕餉前、私達はスーパーに買い出しに来ている。今日は十五夜ということで、玉子を使って何かを作ろうと思っているがなかなか決まらない。
とりあえず玉子は確保したものの、メニューは未だに考えあぐねているので、かごの中はまだまだ余裕といった有り様だ。

「マスター、これだけあれば月見酒には十分ですよね?」

そんなことを思っていたのも束の間のことで、メイコが早速ビールをケースごと突っ込んできた。相変わらずこういうことは手早くて思わず感心してしまう。カートを引っ張ってきたのはもしかしたら正解だったかもしれない。
呆れたため息を吐くよりも先に、メイコはうっとりと満ち足りた表情をしていた。

「マスターと一緒に飲むビール…。考えただけで幸せです」

大人びた体つきに子供っぽい無邪気な笑顔。悪戯っぽい笑みは私の心を大きく揺さぶってくる。
確かに今夜の月夜の下で飲むビールの味は格別だろう。
つい口元を緩めて私は改めてカートを押していった。その隣を機嫌よくメイコが付いてくる。

「メイコはもうよかったの?」
「もちろんですよ?マスターとのお楽しみは帰ってからですから」

……………。

なんか含みのある物言いにかあっと頬が熱くなる。相変わらずのニヤニヤと悪巧みを窺わせる笑みに私はメイコの額を軽く小突いていた。
まったく、頭の中がメイコでいっぱいになってしまうではないか。
妙にメイコのことを意識してしまい、ついメイコから視線を外す。メイコにとってそれは十分な反応だったようで、私が突き出してきた手をそっと包み込むように取ってきた。
相変わらず私はメイコの表情を見ることが出来ない。しかし、小憎らしいほどに快活な笑顔であることは容易に想像できた。
だからついメイコと自分の指を絡ませてしまう。メイコの手をきゅっと握り締めて、お互いが感じられるようにしっかりと繋いでいた。

「マスター!」

とここでミクの声が聞こえてきて、私は我に返っていく。メイコを見れば、もう終わりと少しつまらなさそうに口を尖らせていたが、すぐに気を取り直してミクを迎え入れていた。
その前に一瞬だけ見せた妖艶なメイコの吊り上げられた唇は少しの不安とほのかな期待を胸に抱かせる。とりあえず今夜の月見を平穏無事に過ごせるようにと願って、私は頭を手で押さえていた。
そして、そんな空気を払拭するかのようにミクとルカが姿を現してくる。

「マスター、これ夕食にお願いしていいですか?」
「…マスター、これもお願いします」

ミクはルカを連れ立っていたようで、それぞれネギとマグロの切身を買い物カゴに放り込んできた。ミクの方はご丁寧と云わんばかりに小口ネギと長ネギと揃えてきている。
なるほど、やけに弾んだ声音をしていたのはこういうことだと理解して、私は落ち着いた笑顔を浮かべていた。

「今夜のごはんのリクエスト?」
「…はい、その、いけませんでしたか?」

不安からかルカが上目遣いで見つめてきて、私は動揺してしまう。いつもは落ち着いた物腰でこういうことをしてくるのは珍しいからなおさらのことだ。

「マスター、月見ネギトロ丼食べてみたいです」

ルカに続いてミクまでもすがるような眼差しで見つめてくるものだから、戸惑いを隠せないでいたらいつの間にか後退りをしていたことに気付く。
そして、そんな私が圧されていることに気付いたのか、二人はさらにずいっと迫ってきた。

「ねーぎ、ねーぎ」
「…とーろ、とーろ」

二人にじりじりと距離を詰められて、私は焦ってたじろいでしまう。ただ、ルカを見れば多少は恥ずかしそうに頬を染めていたのは可愛らしかった。
とはいえ、このまま押しきられるの困るのでメイコに助けを求めようと振り返る。

「メイコ、見てないで助けて…」
「お さ け!お さ け!」

振り返れば嬉々とした表情で、メイコは助けるどころかミクとルカに乗りかかってきた。
悪のりはいつものことだけど、さすがにこれは恥ずかしい。注目を集める前に三人の頭に手刀を振り下ろし、少し涙目になっている三人を睨め付けていた。

「まったく、三人とも落ち着きなさい。別にネギトロ丼を作らないってわけじゃないからはしゃがないの」
『…ごめんなさい』

素直に謝る三人のしゅんとした態度が何故かツボに入ってしまったようで、可笑しさが込み上げてくる。
私は口元を押さえて、どうにか笑うのを堪えるとカゴの中を潰さないように整理していった。

「ほら、帰ったたら月見ネギトロ丼を作るから三人とも手伝いなさい。今夜の月見は楽しく過ごすわよ」

そう言うと三人は機嫌を良くしたようで、メイコは私の後を追いかけてきて私の腕を絡めとる。一方でミクとルカは私と入れ替わるようにカートを取ると二人仲良く並んで押していた。

「マスター、早く帰りますよ!ねーぎ、ねーぎ!」

元気良く先を進む二人を見守って、私はメイコと絡んだ腕を組み直していく。その時覗かせたメイコの笑顔がとても印象的で、ついクスッと声に出して笑っていた。
メイコと視線を交わして微笑み合って、ミクとルカの後を追いかける。今夜の月見をどう過ごそうかと考えるのはとても幸せな気分だった。









だいぶ月も欠けてしまってますが、十五夜のお話です

月見ネギトロ丼というものがふと脳裏に浮かんでしまいましたので

「ねーぎ、ねーぎ」「…とーろ、とーろ」と言わせたかったのもありますが
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