『マスター、助けてください!』
ミクとルカがお風呂に入ったのを見計らって、洗濯物を放り込んでいると、突然ミクが助けを求めて叫んでいた。
水しぶきまであげて騒いでいるものだから、私は気になって声を掛けてみる。
「どうしたのよミク。ルカは?一緒にお風呂入ってるんでしょ?」
『ルカさん……が、ルカさん……が』
いよいよ慌ただしい雰囲気になってきて、私は洗濯を放り出してお風呂の扉に手を掛けていった。そして、思い切り声を荒げて叫び声をあげる。
「ミク!大丈夫!?ルカは平気!?」
『ルカさんの胸が当たってるんです!!』
扉を掴んだ手に力を入れようとしたところで、私は盛大にずっこけていた。思わずバランスを崩して前のめりになりそうになったところを思い切り踏ん張る。
「ミク、お願いだからそういうことで助けを求めないで」
『でも、でもマスター。ルカさんの胸が、ルカさんの胸がぴったりくっついてなんかふかふかなんです!』
一応言っておくが、我が家の風呂は一人では十分な広さだが、二人では少し手狭である。二人で並んで入ればそうなってしまうのも仕方ないだろう。
ちなみに三人だともぐら叩きよろしく、ひょっこりと顔を出しているようでなんだか和んでしまう光景だ。
「だったら交互に入ればよかったじゃないの」
『だって…、だってルカさんが初めて一緒に湯船に浸かりませんかって言ってくれたんですよ!?』
ミクのはしゃぎようも分からないわけじゃない。私もメイコに一緒に湯船に浸かろうと言われては同じような目に合っている。
それどころか、後ろからやりたい放題と思い出すだけで赤面ものだ。
『…あの、ミクさん。嫌でしたか?』
そんな中、ルカのか細い声が浴室を通して聞こえてくる。声がわずかではあるが震えていた。その様子から不安がルカの胸の内を占めているのは想像に難くない。
しかし、それと同時に大きな水しぶきの音が響いてきた。曇りガラスの向こうに緑のシルエットが浮かんできたあたり、ミクが思わず立ち上がったのだろう。
『嫌じゃないです!その、ルカさんの胸がくっついたことに驚いただけで…。
わたしはルカさんともっとくっついていたいんです!』
こういう時に慌てるどころか、反対に堂々とした態度で言い放つミクはなんだか頼もしく感じる。
何かが間違っているような気もしないわけでもないが。
『…ミクさん、あの、出来たら湯船に浸かってもらえませんか?
お気持ちは嬉しいのですけど、目のやり場に困ります』
『えっ…、ご、ごめんなさい!うう…、恥ずかしい』
そしてまた、水しぶきの音が聞こえてきて、緑のシルエットは曇りガラスから消えていた。
多分、二人ともお湯の中に顔を沈めて火照っている表情をごまかしているのかもしれない。
「二人とも落ち着いた?」
『はい、ごめんなさいマスター』
『…ご迷惑おかけします』
どうやら、さっきまでの騒ぎは鎮静化したとして見てもよさそうだ。私とメイコにもそんな時期があったと思うと、つい頬を弛めてしまう。
「二人とも、のぼせと湯冷めには十分気をつけなさいね」
『…はい』
『はい!ありがとうございます!』
もう心配もいらないようだし、洗濯に戻っても大丈夫だろう。私がここにいるというのも野暮というものだ。
浴室から聞こえる二人の楽しげな声を背に、私はいつも通りの生活に戻っていった。
4/26はよいふろでお風呂の日と聞いてこの小ネタが浮かんできました
今はすでに五月ですね。すいませんでした
orz