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我が征く道は156

契約が、切れる。
「(あれがキャスターの宝具か。契約を切り、無効化するといったところか。物が、というよりそのあり方が宝具になったタイプなのか。なるほどね)」
ルール・ブレイカー
あらゆる魔術効果を無効化する、対魔術宝具だ。
そうきたかーと様々な情報と展開に凪子がうんうん唸っていると、凛が咄嗟に身を翻した。一応、冷静さはまだ持っているらしい。このままここにいても死ぬだけだ。すぐさま撤退を判断したのは、好評に値する。
だが、その後ろにすばやく葛木が迫る。
「(…………無理だ)」
凪子がそう思ったまさにその時、士郎がバルコニーから飛び降りた。
「(お、おおいおいおい!)」
凪子は思わず身を乗り出す。
見ていられなくなったか、凛の絶対的不利を悟ったからか。飛び降りた士郎はそのまま凛を庇うように間に立ちふさがり、葛木の拳は凛の頭蓋ではなく、士郎の木刀を吹き飛ばした。
すばやく葛木が次の手を放つが、直前に双刀を投影した士郎がそれも弾き返した。
「(お、おぉやりよる。いやまぁぶっちゃけここでなにもしなかったら男が廃るとは思うけど…)」
「……手を出すとは分かっていたが、まさか飛び降りてくるとはな」
「(それな)」
思わず葛木に合いの手をいれてしまうが、あまりに不利だ。ただの人間にサーヴァントを倒すなど厳しすぎる。おまけに、どうやら士郎の方は肩に損傷をおっているようだ。怪我に慣れている猛者ならまだ耐えられようが、高校生程度では無理だ。
「(………まさか、アーチャーの奴、)」
「いいや、待ってくれキャスター」
そこまで見ていて、はっ、とある可能性に凪子が思い至ったとき、凛と士郎を始末しようと動きを見せたキャスターと葛木をアーチャーが止めた。
凪子は目を細め、渋い顔をする。
「(…確かにこの場でアーチャーの勝ち目はない。それはアーチャーの敗北だけでなく、凛ちゃんの命の危険も意味する)」
「言い忘れていたことがあってね。お前の軍門にくだるにあたって、一つ条件をつけたい」
「(すげーこの場で言い出すメンタル。でも、そういうことか…)」
アーチャーのやりたいことを察した凪子は深々とため息をつき、壁に背を預けた。

アーチャーに勝ち目はない。そして、凛の命の保証もない。
だが、アーチャーは士郎を殺すことが第一目標であるとはいえ、どうにも凛を勝たせようと、少なくとも生かすために努めている様子もうかがえていた。
この場で凛を生かすにはどうするべきか。凛は恐らく言葉での忠告では止まらなかったし、ここにきて逃走するのも難しい。

で、あるならば。

「条件ですって?」
「無抵抗でお前に自由を差し出したのだ。その代償として、この場では奴等を見逃してやれ。どのみちもうマスターとしても機能しない、殺す価値もないだろう」
「見逃せ?言動のわりには甘いのね、あなた」

キャスターにとっての、凛の命の価値をなくす。
あるいは、命に見合うだけの対価を自分が差し出す。

それをするには、キャスターの部下に成り下がるのが、一番可能性が高い。

キャスターの言葉に、アーチャーはわざとらしく肩をすくめた。
「私とて人の子だ。さすがに裏切った瞬間に主を殺した、では後味が悪い」
「へぇ?裏切り者の癖に、よくもまぁいけしゃあしゃあと。……いいわ、今回は見逃してあげましょう。けれど次はないわ。それでいいかしら?アーチャー」
「(あっまあまだよ〜君が甘いよキャスタ〜でもそういうとこ好きよキャスタ〜)」
「当然だ。この状況でなお戦いを挑むような愚か者なら、手早く死んだ方がいい」
「(…そんでもってワンポイントアドバイスか。いい部下をもったね凛ちゃん。ま…恐らく彼女はそこまで気付いていないんだろうけど、悲しいかなその方がアーチャーにとっても望ましい、か。痛々しい生き方するもんだね、どうにも……)」
「恨むのなら筋違いだぞ、凛。マスターとしてこの女の方が優れていただけの話だ。優劣が明確ならば、私は強い方をとる」
追い討ちをかけるような言葉だが、凪子にはそれが忠告にしか聞こえなかった。
「(守るべきものを守るために、そのものに憎まれようとも構わない。そんな在り方をしていたら磨耗するのは当然。でも、それに気付くことすらできない精神構造してたんだな、この男は)」
それは、あまりに、哀れだ。
「(磨耗してよかったな、アーチャー。…そう言いたくなるレベルだ)」
凪子は階段を上って逃げていく二人を見送ると、困ったように目を伏せた。
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