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我が征く道は143

「はぁー、つーかーれーたーぁー」
その後、無事ホテルにたどり着き、自分の宿泊している部屋まで戻ってきた凪子は、扉を開けて入るなりその場で倒れた。大気中のマナを一切用いず、自前の魔力のみを用いて急速に宝具を展開させたツケが回ってきたらしい。
起き上がる気力もない凪子は気だるげに鞄を背中から外して離れたところに置いたあと、寝返りをうち、仰向けになった。
「…なんか食いもんかってくるべきだったかな。まあ言ったってはじまらん、せめて布団までいこう…」
凪子は壁に手をついてどうにか身体を起こすと、ずるずると部屋の奥へと身体を引きずっていった。


ブリューナク。
穿ち放つ灼熱の槍。

ケルトはアルスターの時代、光神ルーが所持したとされる、ケルトの神々の四つの秘宝のひとつである槍だ。
投擲することで槍が5つのパーツに別れ、五条の光線状に敵を貫き、稲妻となって敵を焼き付くすことで死に至らしめる。
先ほどは魔力が足りなかっため、槍を媒介してマナの魔力を稲妻にかえてギルガメッシュに落としていた。長く凪子とあったブリューナクの槍は、いまや凪子にあわせてそのあり方を変化させていた。

また、凪子の持つ槍は、ブリューナク以外の側面も持っている。
正確には、凪子の槍は“ルーの槍”。光神ルーが持ったとされ、伝承に残っている“全ての槍”の効力が再現される神造兵器なのだ。槍に限定されるとはいえ、その能力は聖杯戦争に例えるならSを余裕で越える能力値であろう。
魔術協会の人間のなかには、この槍目当てで凪子を封印しようとしている魔術師もいるという話だ。

「づっ…!はぁ……」
凪子はようやくたどり着いたベッドに転がり込んだ。
本来ならここまで燃費の悪い宝具ではない。ただ、今回は無理な開放をした上に、それ以外のところで魔力を使いすぎた。一晩寝れば回復するだろうが、久方ぶりに使った宝具は予想以上に凪子には応えたようだ。
凪子は、ふぅ、と息を吐き出したあと、ふと思い付いたように槍を出した。明るいところで見る槍は、青緑色に反射している。
「…、……」

―なんでルーが関係する。

真剣なランサーの顔が、思い出された。

「…彼は、割りと私に親身になってくれたんだよな。ふふっ、息子を守るために自ら出てきて戦うだけはある、というべきかな?……まぁ、もう認識できない領域に行っちゃったが」
身体の上に槍を持ち、反対の手で槍をなぞる。

ルーの槍は、枷であり、餞別である。
長い長い旅に出る凪子に、戦力のひとつあった方がよかろうと。

凪子に、この槍を持ち続けなければならない義務はない。そんなものはとうの昔になくなった。
だが、同時に餞別であったからこそ、そして今回のように、なんだかんだ役に立つからこそ、凪子は甘んじて槍を持ち続けている。

チュ、と小さくリップ音を立てて凪子は槍にキスをした。
始まりはなんであれ、いまや凪子の相棒であることに変わりはない。
「今日はありがとうね。お陰で痛い思いは少しですんだ」
身体の痛みは消えている。抜け出た血はまだ回復しきっていないが、それもそのうちまた増えるだろう。
「……、おやすみ………」
凪子はそっ、と槍をベッドサイドにたてかけるとそのまま静かに目を閉じた。
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