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とある先生達のウィークエンド(キ学:数学教師 つづきものぽい)

予定が入っていない夜が気に入らない、なんてわけじゃないけれど
授業と授業の隙間に送った「今夜飲まねえ?」素っ気ない一文が
なんだかかまってちゃんみたいに見えて、職員室でこっそりため息ひとつ。

いやいや待て待て、今更遠慮する仲でもねぇだろうし
でもでもだって、飲みたい気分になったからしょーがねぇし
言い訳なんて泉の如く

「新しい古文の先生、かわいいよな」

なんて噂がちらほらり。
聞こえる中で、優越感。
抜け駆けつーか俺が適役

だってふたりは同級生、だったんだから。

当たり前だけど返事が来ることなくて
(そりゃそーだ、授業中だし)
気もそぞろのまま、鳴り出す授業終了のチャイム。
ここから怒涛の連続授業、しかも学年違いときたもんだ。

「うしっ」

気合いを入れて、立ち上がった。

***

社会人になって驚いたことは、びっくりするほど友達との予定が合わないことだった。
アフターファイブなんて夢の夢、採点補習に部活の見守り保護者対応生徒指導にあれやこれ。
やること多くて毎日目が回ってる。物理的に。
だから、同業者、というか
同じ穴の狢というか
賛同してくれる人がいるのって
実はものすごくありがたいのではないだろうか。
だから、休み時間にケータイを開いて

「今夜飲まねえ?」

って、同僚から連絡が来ている時
なんだか少し、嬉しかったりする。

***

授業後、数名の生徒に呼ばれているのを「今行くからちょっと待てェ」なんて言いながら急いでケータイを見てメッセージを開く。
あいつから「OK」のスタンプが送られてきてて一安心。
採点補習に部活の見守り保護者対応生徒指導あれやこれを先にこなしてきた俺は
待ち合わせ場所の居酒屋で先に、ビール二杯と酒の肴各種をやっつけていた。

いらっしゃいませー、と店員が声出しする度に入口を確認する。
一人じゃどうも落ち着かない。
ただまあこの状況は仕方ない。
どうやらあいつが担当している女バスが大会前で張り切ってるらしい、というのをあらかじめ聞いていたからだ。
弾ける苦さをぐいっと飲みきって、もう一杯頼もうか迷っていると
ふわりと香る風と気配を感じた。

「ごめーん!遅くなっちゃった。待った?」

なんとも絶妙なタイミング。
俺は疑問詞に答えず、ビールでいいだろォ?と、空のジョッキを掲げた。

***

ああ美しい青い春。
体育館の真ん中で、険しい顔しながらのミーティング。
三年生が一年生に喝を入れるこの光景、いつの時代もあるもんだなあ、なんて一人でしみじみ。

「じゃあ最後、先生達から一言お願いします」

お願いします!
揃った声がわたしに向けられる。
三年生の目は、今にもわたしに噛みつかんとギラギラしている。
そんな最上級生を宥め賺すように、丁寧な言葉を紡いでいく。
うんうん分かるよ。ウザいよね、上から目線の綺麗事って。
だけどもそうじゃないとやってけないのよ。
先輩風、吹かしてます。

お疲れ様でした!
体育館中に響き渡り、各自が自分の仕事を全うすべく動いていく。
わたしはというと、今日の仕事は全て終えた……はず、なので、
あとは部活が無事に終わるのを見届けるだけ。

ちらり。
壁にかかってる時計を見る。
19時ちょっと前、気分はシンデレラさながら。
もう飲んでるかな、終わったよって連絡しなきゃ、こっから待ち合わせ場所までどれくらいだろ
なんて考えをめぐらせていると、もう一人の女子バスケ部の顧問を担当している冨岡先生が、わたしの隣に立った。

「……この後、用事でもあるんですか」

ずばりと言い当てられ、息が詰まる。
もしかして、もしかして、

「え、ご、ご存知でしたか?」

わたしの問いに、冨岡先生は「いや」と短く否定し、それから

「時計を気にされていたので、なんとなく」

と、表情を変えずにわたしに言った。
なんだ、冨岡先生と不死川先生って仲がいいから
てっきり不死川先生が気を利かして、冨岡先生に伝えてたのかと思った。

「す、すみません」

部活に集中してないなこのアマ、とか思われてるのだろうか。
冨岡先生は前をじっと見つめたまま、動かない。
謝罪の言葉を重ねようと息を吸った、その時だった。

「俺が残るので、先に上がって下さい」

「えっ」

まさか、そんなこと言われるだなんて思ってもいなかった、から。
予想外の申し出に、慌てて首を振る。

「いやいや!そんな、悪いです」

「いえ。その代わり、今度最後まで残ってくれると有難いです」

付き添いは一人で大丈夫そうですし。
冨岡先生は表情を変えずに、ひたすら真っ直ぐ見つめている。
表情筋、ないのかな?この人。

「いや、あの、でも……」

「待たせてる相手に悪いでしょう」

あーっ、トミセン口説いてるー!
隣のコートでモップがけをしていた男子バレー部の子が、きゃあきゃあとはやし立ててきた。
冨岡先生はすかさず笛を口に咥え、ぴりりと激しく鳴らす。

「ごちゃごちゃ言ってないで、早く片付けろ」

浮ついてる男子諸君を一蹴する。
チラリと冨岡先生の顔を覗き込むけれど、その目は生徒達に向けられていた。

あまり断るのも失礼だろうか。
わたしは90度でお辞儀をして、冨岡先生今度残りますお気遣いありがとうございますすみませんお先に失礼します、と早口でまくし立てた。
冨岡先生は返事をせず、代わりに片手を軽く掲げた。

***

「ってことがあったの」

これまでのあらすじ、を隣に座った女──同じ学校に勤める、同僚だ──から聞かされて
俺の口からは大きなため息と、小さな舌打ちが出た。

「あの野郎、スカしやがって」

冨岡は教育大からの知り合いだった。
お互い無事に卒業し、なんやかんやで同じ学校に配属されることになったのだが
何考えてるか分かんねぇあの表情が、俺は大嫌いだった。

「えーっ、そうかなぁ?」

芋焼酎のお湯割りと
湯気立つおでんの牛すじを交互に味わいながら話す女の横顔をじっと見つめる。
最近分かったことだが、こいつは酒が強い方だ。
なので、可愛らしいカクテルが置いてあるような店じゃなくても喜んでくれる。
こんな野郎しかいないような居酒屋でも、酒が飲めればとりあえずオーケーなのだ。
店選びに気を遣わなくていいのも楽だった。

「あ?なんだお前、まさか冨岡の野郎がタイプとか言うんじゃねぇよなァ」

俺の一言に「それはない」と首を振り、すかさず「そうかも」と頷く。
はぁ?
不満そうに漏れた声が、居酒屋特有の喧騒に溶けて消えた。

「冨岡先生って顔整っててカッコイイよね!あーいう整った顔立ちの人見たことないから、カッコイイなって思うっ」

「お前、趣味悪すぎ」

「あれで趣味悪くなっちゃうの?」

「そーいやお前と中学ん時にウワサになってた男に似てるかもな、冨岡」

ぐふ。
隣からなんとも情けない音が聞こえた。
喉に詰まったのだろうか、手元の酒をぐいっと一気飲みするのを見てぎょっとする。
それ水じゃねえぞ。水成分はたっぷり入ってるかもしれないけど。

「おいおいなにやってんだ、水じゃねぇぞそれ」

片手を上げて店員を呼び、水と、ついでに自分の飲み物を注文する。
店員がオーダーを取りこの場から離れたと同じくらいのタイミングで
隣の女からギロリと睨まれた。

「ぜんっぜん!似ても似つかない!ってかそれ冨岡先生に失礼でしょ」

「そうかァ?アイツ、名前なんつったっけ、冨岡?」

「……」

何かを誤魔化すように口に物を詰め込み出すから、俺の中にある意地悪な面がむくむくと姿を現す。
そっぽ向いてる顔を覗き込んで、ケラケラ笑った。

「なに思い出して顔赤くしてんだよ」

してない、ばか、ありえない
首をぶんぶんと振り、言葉を続ける。

「冨岡先生じゃないし前澤君だし、ってか前澤君は憧れの存在っていうか高嶺の花っていうか」

「高嶺の花ァ?」

俺の記憶だとアイツは高嶺の花っつーより食える雑草なんだがな。
所謂「思い出補正」がかかってるのかなんなのか、
どうやら俺が思い描いてる前澤と、こいつが思い描いてる前澤はイコールにならないらしい。

「前澤君、今何してるのかなー」

空になったグラスの縁をゆるゆると撫でながら独りごちる。
遠い目をしながら思いを馳せるその姿、なんだか面白くない。
モヤモヤが漏れ出ないように目の前にある厚焼き玉子を口に運んで、適当に発言した。

「さぁな、宇宙にでも行ってんじゃね」

「あーっ!思い出しちゃった!昔は昔で今は今!振り返っちゃダメだっ」

「昔の知識を教えてるやつが言う台詞じゃねぇんだよなァ」

店員さんが水と、日本酒を運んでくる。
すいません芋お湯割り、と間髪入れずに注文した女を見て
まだ大丈夫だな、そんなことを考える。
夜はこれからだ。

***

珍しく千鳥足の同僚。
シャッターが閉まっている商店街を歩いて帰る。
わたしの帰り道はこっちではないのだけど、飲んだ夜はこの人の家に帰るのがお決まりのパターンになっていた。

「ちょっと実弥ちゃん!真っ直ぐ歩いてよ」

ぐらぐらと覚束無い足元。
不意にがばりとのしかかって来たので、変な声が出た。
学校から距離がある場所で、こんな時間帯に、知り合いがいるはずもないけれど
知ってる誰かに見られてないかとヒヤヒヤする。

ってか、普通。
立場が逆なのでは?
そーいう時って女の子の方が酔っちゃったー、って男の子に甘えるのがテンプレなのではなかろうか。
道端ではギターで弾き語りしてる人がいるし
八百屋のシャッターにはパンクな絵が描かれてるし
もう訳が分からない。

「あー、飲んだァ」

満足そうな声。
ぐらぐら揺さぶるから、わたしの視界も気持ち悪く歪む。

「ちょっとマジ、身体揺するのやめて」

「おい、もう一軒行くぞォ」

「行かない。帰ります」

いつもならこんな酔い方しないのに。
そう言えば後半のペース、いつもより早かったかも。
自分も余裕があるわけじゃないので、まだ飲み足りないとワガママに構ってられない。
このままじゃ共倒れだ。

「なァ」

今度はピタリと足が止まって、ぐんと引っ張られる。
もう、なんなの。ワガママが過ぎる。

なにさ、抗議の声を上げる前に
後ろにいた男が、わたしとの身長差を詰めるようにかがみ込んできて
ぐっと顔が近付いてきて
半開きだったわたしの唇に柔らかい熱が押し当てられた。

まばたきする間もなく。

本当に、一瞬くっついただけだった。
長いまつ毛が揺れて、真剣な瞳がわたしを突き刺す。

「……前澤のこと、まだ好きなの」

「はあ?」

何言い出すのかと思えば、こんな時になんで前澤君の名前が出てくるわけ。
ってかそれ中学の時の話でしょ、そん時の恋心なんか時効だし。
っていうか今キスしたよね?外で。
ホントありえないこの酔っぱらい!

……そこまで言って気付いた。どうやら自分の呂律が回っていないらしい。
酔っぱらい、と言う単語で舌がもつれたのが分かった。
自分も立派な酔っぱらいじゃん。

頭が痛くなってきた。体力の限界が近い。
後ろに回り、背中を押す。

「馬鹿なこと言ってないで帰るよ」

「何言ってんだよ、夜はこれからだろォ」

ダメだこいつ早くなんとかしないと。
今すぐ朝にならないかな。

***

「……ぅ、」

喉の乾きで目が覚めた。
カーテンから漏れる光はまだ弱い。
枕元にあるケータイで時間を確認しようと、目を擦りながら上体を起こしてぎょっとする。
なんでかって、服を着ていなかったからだ。

「は?」

布団をめくり、下も履いていないことを確認する。
素っ裸じゃねぇか。
続いてやってくる、激しい頭痛。
電流のような痛みに頭を抱えて悶絶した。

「……ん、」

どこからか聞こえる女の声に、耳を疑う。
横を見ると、昨日一緒に飲んでた女が寝息を立てて目を閉じている。
はみ出ている肩は肌色で、もう一度布団をめくると
女も一糸まとわぬ姿だった。

マジ?
状況を整理しようと、辺りを見渡す。
ここは俺の部屋で間違いない。
布団の上に男女の下着
ベッドの下に散らばった服数枚と、今ぱさりと流れ落ちた女の下着
ティッシュに包まれてない使用済みのアレが二個
乱暴に破られた正方形の袋二個
そしてなぜか落ちている、俺の財布。

待て待て待て。
どんな状況だ、コレ。
映画じゃあるめぇし記憶がないなんてそんな馬鹿なことあるか。フィクションじゃねぇぞ。
昨日の夜の記憶を、脳の奥底からサルベージしようと試みる、けど。

「……思い出せねぇ、……」

いや微かに残ってる、家の近くの商店街の風景。
こいつにだる絡みしたのは覚えてる。
中学の時を思い出して、覚えてない同級生に勝手に嫉妬して
強引にキスしたんだった。
あれ?なんで嫉妬したんだ?俺。

前澤。
昨日話題に上がってた同級生の名前を呟いてみるけれど、そこから先はおぼろげで。
前澤?って誰だ?
あの、頭いい高校に行ったサッカー部の奴か。
冨岡?あのいけ好かねぇ奴。
あの野郎の話もしていたような気がする。

そんなに飲んでないと思っていたのに、いつの間にかキャパオーバーしていたらしい。
襲ってくる頭痛と、女に対する申し訳なさ。
俺の家にいるってことは、たぶんこいつがなんとかしてくれたんだろう。

それはそれとして。

「普通、泥酔したままヤるかよォ……」

こいつとは所謂「都合のいい関係」で、事に及ぶのはこれが初めてではなかった。
そう。何度も何度もしているはずなのに、行為中の記憶が全くないのは今回が初めてだ。
どんな抱き方したんだ?俺。

「……さね、みちゃん?」

ハッとして目線を向けると、寝ぼけ眼の女が俺を不思議そうに見つめていた。
光の速さでベッドから飛び降り、土下座する。

「ごめん!」

女からの返答はなく、代わりにベッドが軋む音が聞こえる。

「俺昨日絶対お前に迷惑かけた。マジで申し訳ない。タクシー代とかかかった金請求してくれていいから、なんなら迷惑料で倍出す」

「んー……」

特にお金かかってないし、土下座する必要もなくない?
頭上から降ってきた言葉は意外なものだった。
おそるおそる顔を上げると、不敵に笑う女が瞳に映った。

「ただ……まあ、めっちゃめんどくさかったよね。あんな実弥ちゃん見るの初めて。だから、迷惑料つーことで今度、焼肉おごってよ。すんごく高いとこの」

ぐっ。
固有名詞で言われた焼肉店は、会計が万単位するところで。
しかし自分が撒いた種だ、自分で刈り取らなきゃいけないのはその通りだ。覚悟を決めろ、俺。
分かった。観念したように呟くと
嬉しそうに「やったー!」なんて喜ぶから。
許されてよかった、心の奥でホッとした。

***

何一つ覚えてないって言うもんだから。
わたしの覚えてること全部話したら、この世の終わりみたいな顔をした。

「マジ……そんなことしたんか、俺」

申し訳ない、何度も深々と頭を下げられて
その度に、別にいいよとあっさり返す。
だって許せないようなことされてないもん。さすがにキスはびっくりしたけど。
まあ、帰って来るなりギラギラした目で襲われたのは怖かったかな、正直。
そうだ。居酒屋の会計、全額出してくれたんだった。勿論、本人は覚えていなかったよね。

「あっ、酔っぱらいの実弥ちゃんめちゃくちゃしつこかったしめんどくさかった」

「うっ……すまねェ」

ベッドでの出来事を話す。
痛くなかったか?嫌じゃなかったか?
都合のいい関係なのにわたしのことを思いやってくれるのが、なんだかくすぐったかった。

「そんなこと、いつもなら聞かないのに」

「そりゃ痛くならねぇように気ぃ遣ってるからな。あとお前が嫌だって言うことは絶対しねぇって決めてる」

「ただのなんちゃらフレンドなのに?」

「親しき仲にも礼儀ありだ」

ふーん。
いつもぐずぐずと交わってるだけだと思ってたのに、思っていたよりも大切に扱われているらしい。
体の関係で繋がっている人達は、どんな風にお互いを扱い扱われているのだろう。

淹れてくれたコーヒーをひと口すする。
いつもならまだ寝ている時間だ。
今日の予定は?と聞く。

「午前練の監督。午後は補習」

「二日酔いのまま午前練の監督とかヤバそう」

彼はたしか運動部の顧問だったはず。
今日の天気は分からないけれど、初夏の太陽は疲弊してる身体を焼き付くしそうだ。

「それよりも補習の準備してねェ」

「それ、もっとヤバそう」

そうなると、あまりのんびりもしていられない。
お前は?と逆に問われたので
バスケ部の午後練と夕練があると話す。

「ん。じゃ、もうちっと余裕あるな。俺先に出るから、出る時鍵かけといてくれ」

「はいよ」

バターの香ばしい香りがたつトーストを口の中に押し込み、コーヒーで流し込む姿をぼーっと見つめながら
この人が出たあと、中学の友達に前澤君のこと聞いてみよう。なんてことを考えた。
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こんなはずじゃなかったのに!(キ学:数学教師 コスプレ つづきものぽい)

まさかのコスプレ話
(最後までやってない)

よきですか
よきですね
それではどぞっ











お互い、見慣れてるもんだと思ってたし
興味もないもんだと思ってたから。

「……興味、あったってこと……?」

クローゼットの中から出てきた紙袋の中身に、それ以上言葉が出なかった。

***

お風呂上がりの服を探していた時に見つけた「それ」は
隠されることもなく、しかしパッと見た瞬間目に入らないような場所にひっそりと置かれていた。
違和感のある、白い紙袋。
中身が気になって、ずるりと取り出してみる。
入っていたものは──。

「せ、制服……!?」

うちの制服ではない、透明な袋に包まれたセーラー服
と、黒タイツ
と、紺色の靴下。
あーそうねタイツ派と靴下派がいるもんね。
そーいえばわたし達が通っていた中学校は靴下が多かったなあ。椅子のささくれでタイツはすぐ破けちゃうんだよねー。

「……っじゃない!」

心の中でボケたわたしを大声で一蹴する。
わたしの声で驚いたのか分からないけれど、紙袋がかさりと情けなく倒れた。
その紙袋の上にセーラー服が入った袋を叩きつける。

「いやいやいやマジ?そんなこと有り得るの?世の中から聖職者の淫行が減らない理由って、自分の欲望に負けちゃうからってこと?」

独り言を呟きながらじりじりと後ずさる。
ある程度距離を取り、壁に背中が当たったと同時に
隣の部屋から部屋の主が現れた。

「なに一人で騒いでんだァ」

「あ!出たな淫行教師!」

あ?と、部屋の主──実弥ちゃん(ちゃんってついてるけど男)(しかも筋骨隆々)──は、わたしをギロリと睨んでくる。
脅しにビビってたまるか!かわいい生徒はわたしが守る!
バスタオルがずり落ちないように片手で支え、もう片方の手はグーを握って格闘家のように構える。

「テメェ今なんつった?後にも先にも生徒に手ぇ出したことねぇぞ俺は」

ずかずかと距離を詰めてくる実弥ちゃんに怖気づきながらも(瞳孔がバッキバキに開いてる)わたしはセーラー服を指さして「じゃあなにこれ!」と、必死に抵抗する。
覗き込んだ実弥ちゃんの表情が、一気に青ざめていくのが分かった。

「あ!その顔!やべー見つかったみたいな顔!この犯罪者!確信犯!」

実弥ちゃんがハッと息を飲む音。
慌てて弁明を始める。

「ち、ちげーよバカ!これはこないだの忘年会で宇髄に押し付けられたもので……」

「その忘年会にわたし呼ばれてなーい!同じ職場なのに!」

「野郎しかいねぇ忘年会だったんだよ!」

あたふたする実弥ちゃんが面白くてちょっと可愛くて、ついつい意地悪になってしまう。

「実弥ちゃんってそーいう趣味だったんだ……わたし信じてたのに」

「だからちげーっての!」

「本物がここにあるのに?」

「本物なわけねーだろ!あんなのそこら辺で買ったコスプレグッズに決まって……」

「でも、わたし達が通ってた中学校の制服に似てるよね?」

ぐっ、と息が詰まって
目を瞬かせる実弥ちゃん。
さっきの勢いはどこへやら。
確かにわたし達が通ってた中学校の制服はセーラー服だけど、母校の制服に似てるかなんて分からない。
そもそも開けてないし。

「あれあれ、もしかして」

ニヤニヤしながら顔をのぞき込むと、ふいと逸らされた。
勝った!(何と戦ってたんだっけ?)

「興味あるんですか?」

わたしの問いに、小さな声であるわけねェ、なんて言うから。

「じゃあ試してみる?」

「は?」

「今からあれ着るから。興奮したら実弥ちゃんの負けね!我慢出来たら勝ち」

悪ノリの極み、ここにあり。

***

「……ちょっと小さいなぁ」

勢いで着ることになったセーラー服。
母校のそれとは似ても似つかない生地の薄さと粗末な糸の始末。
どうやら実弥ちゃんの言い訳は本当だったらしい(嘘でも困るけど!)

スカート丈はしゃがむと見えてはいけないところまで見えそうなくらい短いし、
上半身は一つの動作で容易に腹チラしそうな長さだ。
まあ、なんとかなるか(なるかな?)
それからペラペラなスカーフを慣れた手つきで結んでいく。
上半身は真面目、下半身はばっちり校則違反の
謎すぎる女子学生の出来上がり。
下は……黒タイツにしようかな。

「できたよー」

向こうの部屋にいる実弥ちゃんに声をかけたけど、返答がない。
顔だけ出して様子を伺うと、実弥ちゃんはそっぽを向いていて
わたしのことなんてまるで興味がなさそうな雰囲気。

「さね、」

ん?待てよ。
口を手のひらで覆い、最後まで名前がこぼれ落ちないようにする。
普通にこのまま接したところでいつもの「わたし」なんだから、興奮するわけない。
そりゃそうだ。
そうするとわたしの負けになる。
だったらセーラー服になにか追加でオプションを付けたら良いのでは!?
もはやセーラー服なんてどうでも良くなってきた。
いつも余裕綽々な実弥ちゃんに一泡吹かせる大チャンス!
乗るしかない、このビッグウェーブに。

わたしはなにも言わず、黙って実弥ちゃんが座ってる隣に座った。
そして一言。

「……不死川君」

座った瞬間急激に短くなったスカートの裾が気になり、ぐいぐいと引っ張って誤魔化す。
こんなに短くなるもんなの?スカートって。

ソファがぎしりと音を立てる。
それから、ふっと大きな手のひらがわたしの視界に入った。
ビックリして実弥ちゃんの方に視線を向けると同じタイミングで肩を掴まれ、ぐいっと引き寄せられた。

「わっ」

喉から情けない声が出る。
抱き寄せられた場所は実弥ちゃんの胸の中で、やたら心臓の音がうるさかった。
あれあれこれって。

「……興奮してる?」

「……してねェ」

「じゃあ顔見せてよ」

「無理」

もぞもぞと腕の拘束から逃れようとするけど上手くいかない。
あれ?心臓の音、うるさくない?
これって実弥ちゃんの?それともわたし?

「ね、不死川君!く、苦しいんだけどっ」

じたばたするけど力が緩むことはなくて、そのじたばたが良くなかったということを、わたしは身をもって実感する。

「っひゃ!?」

不意に隙間から差し込まれる大きな手。
すっとなぞり上げられて、身体が跳ねて。
そのまま優しくソファに押し倒された。

あれ?
あれあれ?

「……実弥ちゃん?」

わたしを見下ろす実弥ちゃんは中学校の時のようなあどけなさはなく
伏し目に色気がある、立派な男の人だった。

「同級生ってシチュエーション、悪くねぇかもなァ」

「えっえっちょっと待って」


こんなはずじゃなかったのに!


苗字にさん付けで囁かれる。
思い出したのは、中学校時代の実弥ちゃん。
あれは修学旅行だっけ?
班行動で行った甘味処で一緒に抹茶ぜんざいを食べたっけ。
詳細はもう思い出せないけど、すごく嬉しかった記憶だけはある。
その頃のわたしに言ってやりたい。
数年後、わたし達は
偶然に繋がって、とんでもない関係になってるんだよ、と。

「なァ、もっかい『不死川君』って呼んで」

「な……っ、興奮ポイント、そこなわけ!?」

そこからあれよあれよという間に事が進んでいったけど
いつもより実弥ちゃんがねちっこくて、途中で音を上げてしまった。
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ノンフィクションな恋愛ファッションショー(キ学/さねカナ/を見つめるモブ子)

注意
・さねカナと言いつつあんま要素がない(さねたゃの強引さが見たかった)
・モブ子目線(イチャついてるところを間近で見たかった)
・諸々未予習(本編のみ)
・久々歌詞夢(ミステリー)
・なんでもいいよの民のみ閲覧おすすめ

それではどぞ



高校最後の学校祭、の
3日目の土曜日、の
夏真っ盛りの暑い夜。

この時代になってやらされるとは思わなかった
グラウンドのど真ん中で煌々と燃え上がるキャンプファイヤー(火の始末どうするんだ?)


それを囲みながらゆるゆると進行している全校生徒対象のフォークダンス(本当にいつの時代だよ)


「あらあら、みんな楽しそうに踊っているわね」
横で楽しそうに笑う、生物の先生。
理由は分からないけど、当学校のブレザーをタートルネックの上から羽織っていた。

「あなたは踊らないの?」

「はあ……」

選択授業で生物を取っていないため、この先生──胡蝶先生──と喋るのも初めてだし
なんなら関わりもないので(何年生の担任かも分からん)(と言うか担任持ってるのか?胡蝶先生は)
キャンプファイヤーをぼんやり見つめながら
アホほど忙しかった学校祭を振り返っている女の隣に
いきなり隣いいかしら?なんて可愛らしい声と共に現れたもんだから
回らない頭でアッアッダイジョウブッス、って小汚い声で出迎えてしまったことは許して欲しい。

「それにしてもさっきから校舎で爆発音がすごいのだけど、なにか学校祭実行委員会で催しでもやっているのかしら?」

「そんな話聞いてないですけどね……」

胡蝶先生の言う通り、背後にそびえ立つ校舎から恐ろしい程の爆発音と崩壊音がさっきから鳴り止まない。
鳴り止まなさすぎて生徒諸君らはもはや意に介さずのろのろとフォークダンスを踊っている。
犯人は美術の宇髄先生なんだろうけど、一体何をしているかは不明だ。
ファンキーすぎるだろ。
これから校舎を解体するのかな?業者じゃあるまいし。

そこら辺に立てられたポールに括り付けられているスピーカーから「次は中学2年の里芋組です」と、フォークダンスの進行状況が流れてくる。

あたしは3年なので、まだずっと先だ。

ぞろぞろと気だるそうに集まる生徒の姿を見て、あたしは無意識に大きなため息をついていた。

「あらあらどうしたの?ため息」

「そりゃため息もつきますよ」

なんでこのクソ疲れてる時にクソだるいフォークダンスなんか踊らなきゃならんのや。
心の中に住んでいる謎の関西人がツッコミを入れてくる。
本当にその通りで、3日間売り子として休むことなく店に立っていた疲れが今ドっとあたしを襲っている。
今すぐ光の速さで帰って横になって寝たいのだよあたしは。

「学校祭、楽しくなかった?」

急にあたしの視界に入ってきた胡蝶先生に、肩がビクッと跳ねた。

「そっ!そりゃあ……まあ、楽しかった、ですけど」

悲しそうにあたしを見つめていた瞳が、あたしの言葉を吸収してぱちりと見開かれる。

「そう、良かった」

ニコニコと喜ぶ胡蝶先生がキャンプファイヤーの火に照らされて
キラリと魅力的に見えた。
フォークダンスが終わるまでに意中の相手に告白したら叶うなんてジンクスが存在するんだったら
今この瞬間がベストなんだろうな、なんてバカみたいなことを考える。

***

思い返せば3日間マジで忙しかった。
ただの、よくある、ワンパターンな
軽食や飲み物を出す喫茶店だったのに
何故か毎日ほぼ満員で
隙間時間に慌てて買い出しに行ってたくらいだった。
その結果学校祭売上コンテストでうちのクラスは見事1位を取ることが出来たのだけど。

なので、学校祭の催し物や模擬店を巡ることなんて出来ず
演劇やダンスなどのステージ発表すらも観に行けず
なんなら毎年人気の先生達によるパフォーマンスすら観に行くことも叶わなかった。
(今年はあの冨岡先生がV系バンドの曲を熱唱したらしい……)(マジか。聴きたかった)(っていうかV系バンド聴くんだ)

だから、学校祭が楽しかった
なんて思う体験も経験も出来なかった。
最後の学校祭なのに。

あーあ。
真っ暗な空を仰いで、校舎からやってくる爆風に髪を押さえた。

と、その時。
校内放送の前にかかるチャイムが、暗闇に響き渡る。
ざわつく人影。

「あーあー、声聞こえてる?」

スピーカーから、男性の声。
あら、宇髄先生だわ、と
隣の胡蝶先生が呟いた。

「おーい実弥ちゃん、急いで胡蝶先生のこと見つけろよな!早く見つけないと、学校が派手に吹っ飛ぶぞ!」

「えっ、私?」

宇髄先生は心無しか飛び跳ねるような声で放送を続ける。

「さてさて、胡蝶先生は学校の何処にいるかなーっと。フォークダンスが終わるまでがタイムリミットだ!」

校内放送の終わりを告げるチャイム。
と同時に再び爆発音。

「……名前、呼ばれてましたけど?」

「……なんでかしら?」

顔を見合せて、疑問符を浮かべる。
ちなみに実弥ちゃん、と言うのは数学の先生の不死川先生のことだ。
不死川先生の数学は高校の3年間ずっと受けているから、どんな先生かは分かるけど。

「胡蝶先生、不死川先生になにかしたんですか?」

「うーん、覚えはないわね」

胡蝶先生は首を傾げ、柔らかそうな唇に人差し指を当てながら何か考えている。

「でも不死川先生のところに行かないと……理由は知りませんけど、このままだと学校がなくなるらしいですよ」

不死川先生が胡蝶先生を探していること
宇髄先生が学校を壊そうとしていること
繋がりは全く分からないけど、このままにしておく訳にはいかない……のかな?
宇髄先生なら芸術だ!とか言いながら本気で学校壊しそうだし。
胡蝶先生はうーんうーんと唸りながら、あたしにこう言った。

「でも、生徒に紛れて隠れてろって」

「えっ?」

誰が言ったんですか、そう言いかけたあたしの言葉を
ひときわ強い風が遮った。

「胡蝶先生!」

背後から聞き覚えのある声がして、胡蝶先生と一緒に振り向く。
そこには息を切らした不死川先生が立っていて、どこからかスポットライトの光がギラリと当たっていた。
眩しくて、思わず手のひらで視界を守る。

「不死川先生」

どこからか、おおっ、と声が沸いた。
なになに、なんだこの状況。
ふたりはひかりの中で目を逸らさずに、ずっと見つめている。
不死川先生は大きく息を吸い、ガシガシと乱暴に頭をかいた。

「……ってか、なんでこんなところにいんだよ」

「えっ?」

キャー!とか、
なになに!?とか、
あちこちから声があふれ出す。
あたしはというと、スポットライトに照らされながら
このふたりが作り出す空気が告白前のそれで
全く関係ないのに一人でドキドキしていた。

「探しただろーが。これから校舎の後片付けがあんだろォ」

「あっ、そうですね。ごめんなさい」

でも、と揺れた胡蝶先生の掌を
不死川先生はさっと掴み握りしめる。
行くぞ、と踵を返した不死川先生の耳は赤くなっていて
胡蝶先生の頬も同じくらい赤くなっていたのが、ハッキリ見えた。
ふたりの姿がスポットライトからなくなった瞬間に、わっとグラウンドのテンションが上がる。
キース!キース!重なった冷やかしの声を
うるせえテメーらぶっ飛ばすぞ!
いつもより上ずった不死川先生の怒号がかき消した。
花火のようにやかましく鳴っていた爆発音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。

「……すごすぎ」

あたしはと言うと、震える唇を両手で隠しながら
目の前で展開された恋愛ドラマのワンシーンを焼き付けるように、その場に立ち尽くしていた。
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