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その風をまちわびるG(kmt:風柱)

陽炎(かぎろい)の隙間、貴方の寝ぼけた熱が暖かくて
耳には遠くの雨音。
触れる、くちびる。


「んで?祝言も挙げずに同じ屋根の下で地味に暮らしてるってワケ?」

来客用の茶請けを用意していると、不意に後ろから声をかけられた。
慌てて振り返ると、柱に寄りかかっている音柱様が
腕を組みながらわたしをじっと見つめていた。

「あっ、音柱様」

茶請けを用意する手を止め、音柱様に深々と一礼する。

「……その呼び方、懐かしいな」

「わたし達隠にとって、柱の方々はいつまでも敬うべき存在なので」

「まあ呼びかたはどーでもいいんだよ」

お前さあ、と、
音柱様は表情を変えずに言葉を続ける。

「アイツのこと、どー思ってんの」

「アイツとは?」

「不死川しかいねーだろ」

「風柱様がどうかなさいましたか?」

わたしの言葉を聞いた音柱様は、目を丸くして、それから長いため息をついた。

「……そーいうカンジなワケね」

「あの、そーいうカンジ、とは?」

「いや……なんつーの、清々しいというかなんというか」

「風柱様がですか?」

そーじゃねぇよ!
音柱様は首をぶんぶんと横に振り、履物も履かずずんずんとわたしに近付いてくる。
あまりに急な出来事で、喉から裏返ったような、変な声が出た。

「へっ」

「あのなぁ」

わたしよりも数倍は大きい体躯の圧に、思わず後ずさる。

「男と女がひとつ屋根の下、何もないなんて派手にありえねーだろ」

「なっ」

ふと、この台所で指先に感じた唇の感触を思い出す。
柔らかい体温が脳裏に蘇り、顔がぶわっと発熱した。
途端、音柱様の表情が意地悪そうに緩む。

「あ、その顔。何もないってことはなさそうだな」

「な、なにを」

「ははーん、口吸いまではしてるみてーだな」

「し、してません!」

慌てて両手を後ろに隠す。
上から楽しそうな笑い声が降ってきた。

「鬼殺鬼殺と躍起になってたあの風柱がねぇ……」

「お、音柱様?なにか勘違いをされているような」

「いやいや、不死川も男なんだなと思ってよ。……もしアイツになんか言われたら俺ん所に来いよ?そん時は俺の嫁にして──」

ぐいっと迫られた時、音柱様の背後から聞き覚えのある怒声が飛んできた。

「おい宇髄!」

その声に反応するかのように、音柱様の身体がゆらりと揺れる。
わたしの目に、それはもう泣く子もさらに泣くくらい怖い顔をした風柱様が映った。

「どーもこーも、ただ女中さんと話してただけよ?」

「いけしゃあしゃあとしやがって。ぶっ飛ばされてぇのかァ」

「やん、こわーい。どうしてそんなに怒ってるのぉ?」

風柱様の強い語気を、ふにゃふにゃした物言いでさらりと躱す音柱様。

「つーかお前、何しに来たんだ!用がねぇなら帰れ!」

「あ!?いってぇ!」

そんな音柱様を逃すまいと風柱様は音柱様に一蹴り入れ
音柱様をここから文字通り、叩き出してしまった。

何すんだいってえな、うるせえ黙れ、その仕打ちひどくない、いいから帰れ
ぎゃあぎゃあと騒ぐ声はやがて遠くなり、ピシャリと玄関扉が閉まる音とともに完全に聞こえなくなった。

「……」

嵐が過ぎ去ったようだ。
一瞬の出来事にポカンとしていると、風柱様が頭を掻きながら姿を現した。

「あ、風柱様。音柱様は」

「帰った」

帰ったと言うより追い出されたと言うか。
それよりも音柱様、怒ってないだろうか。
風柱様の機嫌が悪そうだけど、何かあったのか。
心の中でそんなことを考えていたら、風柱様に「おい」と声をかけられた。

「はい!」

「宇髄になんか言われてただろ」

「えっ」

──男と女がひとつ屋根の下、何もないなんて派手にありえねーだろ

音柱様に言われたその言葉が、耳元で響く。

「な、なにも」

「嘘つけ」

「ほ、本当です」

「……」

風柱様を見るとさっき思い出したことや、街で膝枕をしてもらったこと
抱きしめたこと、抱きしめられたこと、を思い出してしまいそうで
咄嗟に地面に視線を落とす。
顔が熱くて、心臓がうるさくて。
それから、どれくらい経っただろう。
そっと顔を上げると、そこに風柱様はいなかった。

「……」

手のひらをきゅっと握る。
忘れてしまおう、と
出した茶請けをしまい、夕餉の支度に取り掛かった。


音柱様が帰った直後から降り出してきた雨は、次第に勢いを増していく。

「雨、すごいなあ」

呟いた言葉が、雨音で掻き消え流されていく。
寝巻きに着替え、布団に入ろうと思ったその時だった。
つむじに感じる、水の気配。

「えっ!?」

急いで天井を見ると、灯りの端っこで
雨漏りしているのが見えた。

「うそ、雨漏りしてる!?」

濡れないように急いで布団を片付け、台所から大きな鍋を持ってくる。
夜も遅いので、屋根に登るわけにもいかない。
それにこの雨漏りがどこまで広がるか分からないこともあって、ここで寝ることは出来ない。

「どうしよう……」

こうなったら仕方ない。
はしたないけれど、居間で寝よう。
布団を抱え、居間に向かうことを決めた刹那
部屋の扉がコンコンと、叩かれる音。
慌てて布団を下ろし、扉を開けると
そこに風柱様が立っていた。

「風柱様、どうしてここに」

「声が聞こえたからよォ、なんかあったんかと思って」

夜中に悪ィな。風柱様の謝罪に
滅相もない!と、重ねた。

「申し訳ございません!雨漏りに驚いてしまって」

「はぁ?雨漏りしてんのかよ」

言いながら風柱様は天井を覗き込む。

「はい。これまで少しも気づかず申し訳ございません」

「結構酷いのか?」

「いえ……そこまでではないと思うのですが、今日はこの部屋で寝ることは出来ないと思い、居間で寝ようかと準備をしておりました」

「……」

風柱様は雨漏りする天井を見つめたまま一息つき、わたしにこう言った。

「お前、俺の部屋で寝ろ」

「えっ」

「ここから居間に布団持ってくのも大変だろ。暗いから足元も見づれぇし、もしかしたら他の部屋も漏ってるかもしれねェ。今ん所俺の部屋は大丈夫だから、俺の部屋で寝ろ」

風柱様の仰ることはごもっともだった。
でも。

「で、ですが風柱様。お申し出はとても有難いのですが、風柱様にご迷惑をおかけすることは出来ません」

屋敷の主と同じ部屋で寝るなんて、そんなこと出来っこない。
わたしはただの女中で、彼は風柱様で──。

「……」

と、その時だった。
わたしの手のひらを、風柱様がすくって引っ張りだした。

「か、風柱様!?」

足が絡まらないように、必死について行くのが精一杯で
風柱様は何も言わず、ただわたしを引っ張っている。
そうして辿り着いた部屋の前
すらりと襖を開けたその奥に
布団が一組と、ぼんやりと光る行灯がひとつだけあった。

「……」

……勢いで寝室まできてしまった、けど。

「あの、風柱様」

「なんだよ」

「……やはりわたし、居間で寝ることにします!」

踵を返し、部屋に戻ろうとした時。
風柱様の手と腕が
さっとわたしの身体を包み込んだ。

「……行くな」

「 、」

抱き寄せられた両腕に力がこもる。
風柱様の柔らかな髪が首筋をくすぐって、息が乱れた。
風柱様と呼ぼうとした声は掠れて
鼓動だけが耳に響いて、
忘れようとした熱が蘇って
何もかも誤魔化すように
大きな手に、自分の手を重ねる。
ふっと緩む力。
抱きしめられていた両腕からするりと抜け出し、向かい合う。
見上げると、困ったような、今にも泣きそうな
そんな風柱様の姿が、目に入った。

あ。
そう思った時には、もう遅かった。
ぐっと近づく風柱様のお顔。
少しだけ開いていたわたしの唇に
熱を帯びた唇が押し当てられた。

「……風柱様、」

「……名前」

息がかかりそうな距離で、風柱様の長いまつ毛が揺れる。

「……実弥さん」

「……ん」


確かめるように


再び重なりあうふたつ、ぴたりと密着して
その感触がなんだか心地よくて
目を、閉じた。


ちょっとした事件があった話の続き。
スペシャルサンクス:宇髄さん

絶対宇髄さんサネチャが近くにいるの分かってたな
だからあえて誤解されるようなこと言って焚き付けたんだよほんといい人ありがとう(?)
サネチャ、宇髄さんにとられる!と思って
めちゃあせったんだろうな多少強引だけどそれがよい
ちゅうしちゃった流れでそのまま一緒に寝たけど多分なんもなかった。超健全。だって嫁入り前だし結婚してくれって言ってないし!この世界線のサネチャはちゃんとしてるはず。弊社キ学のサネチャは大分センシティブだけど(??)
最初の文に各柱の名前入れる試み、炎が一番悩んだな……かげろひっていいよね。夜明けの空。
遠くの空が白んで、わたしのすきな色に染まって
2人寄り添って寝ていて(もちろんなんもない)
サネチャの寝顔カワイイだろうな
このふたりどうなっちゃうんだろ】
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