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言えなかったさよなら、さえも(銀魂:高杉)

こんな雨の日に考えるのはいつもあの女のことだった。

まるで始めも終わりも思い出せねェくらいに長い間寄り添って笑っていたジジイとババアのようなふたりの隙間 すき、なんか言葉にしなくてもお互いのこころが綺麗に重なっていたあの時。
けれどそれらをひとつひとつこころの奥から取り出す度に大事な部分が思い出せなくなって怖くなっていつしか思い出すと言う行為すら忘れてしまった

結局残ったのは泣きそうなそらを見上げて泣きそうになっているあの姿とモノクロの中に映える緑色の傘。そう言やァアイツ、緑色がすきだったっけ、そんなくだらねェことばかりがぽつりぽつりと蘇ってきて後悔。もう見慣れたアイツの笑顔すら思い出せなくて、  。


あんなにも一緒に生きていてあんなにも傍にいたくせに言えなかった言葉があるんだよ
それはきっと簡単な言葉で、けれどそれを音にしたら静かに降る雨に紛れて君はそっと泣くから

ああ、泣くなよ、って。






灰色の雲からしとしとと銀色の雨粒が溢れて降ってくる。行き交う人々、慌てて開かれた色とりどりの傘が眩しくて思わず俯く。


『(雨、か)』


菅笠を叩く雨音に不快感を感じる。雨は止む気配がなくむしろ強くなっているらしく次第に音が大きくなっていった。
懐からキセルを取り出して火をつける。吐き出した煙は音もなく湿った空気と混じっていって消えて、


『(、俺はいつもここでアイツを待ってた)』


ふたりが逢瀬をする日は必ず雨の日で、(身を隠すのに都合がいいからな)だから俺は人混みの中から緑色の傘を探すのが日課になっていた。
そう、ここは俺達の待ち合わせ場所 それは今も昔もきっとこれからも変わらない約束事

待っている時間が長かろうが短かろうがただアイツに逢えればそれだけで俺は   、


『…きっと、幸せだったんだなァ』




嫌いな雨もすきだ、と思えるようになったのは多分アイツのお陰で、雨の日に付き物の憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれたのもアイツだった。

けれど俺は何もしてあげることも出来なくて何も与えることも出来なくて、そう、あの雨の日も。








“  ──、泣きそうな私を このまま遠くに連れていって”


いつだったかアイツが言った言葉だけがむなしく響き渡る。今にも泣きそうな表情でアイツはそれきり黙って何かを待っていた、誰かの涙雨を見つめながら



『(もしかしたらアイツは、)』

『(俺と共に来い その言葉を待っていたのかもしれない)』


あの瞬間には分からなかった想いを想像してみたその刹那、ひやり 空っぽの掌にかすかな温もりを感じたから思わず顔を上げる。けれどその温もりの持ち主はいくら見渡しても何処にもいなかった
当たり前の事実を突き付けられてずきん、と胸が痛がる。(そうか、もう、お前は)




もう別の雨粒が、君の中におちていく。


ありふれた言葉で飾り立てればふたりの距離は離れることはなかったのだろうか、けれど儚い仮定法は無情にもまあるい雨粒が降る音に掻き消されてしまい俺はここにひとりぼっち  その現実だけを悲しく告げていた。



大切だった
泣かせたくなかった
ずっと隣で守っていきたかった

愛して、いた。




だからこそ何も言えなくて、その結果大事な女を失うなんて端から見りゃァ可笑しな話なんだろうな そう思いながら君がいない坂道をコロコロと歩く

びゅ、と少しだけ強い風が吹く。流れたキセルの煙の向こうにあの緑色の傘がくるくる回っていた気がした。


待ち人の来ない待ち合わせ場所
きっとアイツの頬を伝う涙は違う男が拭ってるんだろうな、



“晋助、”

『(それでも俺は、)』

“ありがとう”

『(お前しか考えられねェ)』

“だいすきだった、よ”

『( 、この先もずっと)』

“  さよなら。”






お前のことを愛し続けるから。




雨のうた



ああ、まぶたの裏に焼き付く君の姿が離れない、



【song by:みなを“雨のうた”

大切にしたいと願ったのに、その想いがふたりを引き裂いて】
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