「く…まだやれる…!」
「グルル…」
時詠みで視ていたとはいえ、現状は酷いものだった。王の楯の精鋭たちが、一匹の魔獣に遅れをとっていた。
「アタイもう無理ぃ…」
「無理はしないで、ディム。私たちでなんとかするわ。」
「でもでも、コイツ火に強いから…」
ディムの言う通り、襲ってきた魔獣は火に耐性を持っていた。それにより主力であるラミエルとヴェリスの攻撃が通用せず、苦戦を強いられていた。
「―大丈夫か?」
「副隊長!…見ての通りの有様です。」
魔獣に術をぶつけながら問うと、ラミエルが答えた。まともに戦える者はおらず、例え勝ったとしても無事ではすまないだろう。
「副隊長、隊長は…?」
「…ジークさんは来られない。神秘の里にもコイツと同じようなのが出て、ソイツの相手してる。」
魔獣を見据えながら、リセードはどうするか思案した。ラミエルが先程の言葉に、僅かだが落胆した様子を見せた。
「副たいちょー、コイツどうしたらいい…?」
「…副隊長の事だから、倒せない…なんてことはないと思うけれど…」
ラミエルとディムが不安げな声でそう言った。リセードの事を信頼してはいるが、未来に希望を見出だせないでいる。
「…必ず殺す。」
リセードはそう宣言すると、右腕の袖を取った。不思議そうにしていた魔物たちだったが、急速に高まっていく“力”を感じると何が起こるのかと身構えた。
「…これ以上、好きにはさせない!」
右腕を魔獣に向けると、狂風が吹き荒れた。魔獣の体に裂傷が走り、魔獣は咆哮した。しかし、長くは持たなかったようで、魔獣は地に倒れ伏した。狂風が止むと同時に、王の楯の魔物たちの傷が完全に治っていった。
「あれ、怪我が治ってる…?」
「…っ、う…!」
「副隊長!」
右肩を押さえて前屈みになるリセードを、駆け寄ってきたラミエルが支えた。見れば、右腕の肘から手首にかけてまで一筋の裂傷が走っていた。
「副たいちょーケガしてる!」
「副隊長、これは…?」
「…今、治癒術を使える人はいない…だから、こうするしかなかった。」
荒い呼吸をしながら、リセードはそう言った。大きな裂傷からは出血が止まらず、放っておく事は危険であることを意味していた。
「だからって…いえ、過ぎた事を言っても仕方ないわね。とりあえず医務室に行きましょう。」
「副たいちょー大丈夫?痛いよね?」
「…大丈夫だ」
ディムの問い掛けに、僅かに顔をしかめながらリセードは答えた。そして、誰の助けを借りずに医務室へと向かった――
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「ディムから聞いたぞ、リセード。エルドを使ったんだってな?」
「…はい。」
魔獣騒ぎが一段落つき、出先から帰ってきた王の楯隊長―ジークは、リセードを探し出し事実の確認をした。リセードはいつも通りのように見えたが、居心地が悪いのか、目を合わせようとしなかった。
「それしか方法は無かったのか?」
「…はい、魔獣を殺し、皆を助けるには…これしかありませんでした。」
相変わらず目をそらしながら、リセードは答えた。その様子を見たジークは、思わず苦笑した。
「別に怒ってる訳じゃない、ただ、心配はしてるけどな。
よく頑張ってくれたな、ありがとう。」
「…副隊長の任務を全うしただけです。」
リセードはまだ目をそらしており、ジークの目を見ようとはしなかった。素直じゃないな、と思いながら、ジークはリセードの右腕を見た。
「それで、右腕の状態はどうだ?痛むか?」
「…痛みはありませんが、使えるようになるまで時間がかかりそうです。」
「そうか、早く良くなるといいな。」
袖に隠されて見えなかったが、状況から察するに相当な重傷を負ったはずだった。それでも、リセードは何事もなかったかのようにしていた。
「でも、しばらくは仕事禁止かもな。判断するのは俺じゃないけど。」
「…それは困ります。」
恐らくは仕事禁止令が出されるだろうと思いながら、ジークはそう言った――
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★最後の方投げやりだな。ちょっとめんどかった。
エルド使うとこうなりますよーな話を書いたつもりだがちゃんと書けてるか不安。まずこんな状況にならないってとこから違和感。仕方ないこうするしかなかったんや。
恥ずかしくなったら消します。