『あら、クレマドはどこかしら?』
「お兄ちゃんならロド・ビナに行くって言ってたよ。」
『…そう。』
明け方から仕事がある、と言っていたなと思い出しながら、エルは実体のない声に返事をした。どこか寂しそうであったが、それは一瞬で変わってしまった。
『まったく、エルを一人にさせるなんて何考えているのかしらね、クレマドは。』
「竜界の神さまが来るのなんて、ほんとに数えるくらいしかないから大丈夫だよ。それに、アゼもいるんだし。」
『あら、嬉しいことを言ってくれるのね。』
すべてがわかる訳ではなかったが、アゼが嬉しそうにしているのを感じた。こんな喜びは、いつもだっら兄――レニアとの小競り合いの時しか感じられなかった。
「――レニア様、おかえりなさいませ!」
「んー。」
大嫌いな人間と馴れ合ってきた代償か、レニアのテンションは低かった。神の児たちの出迎えに軽く答えると、エルの方を見た。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ん、ただいま。変わった事は?」
『あったら今ここにいないわよねぇ、クレマド?』
エルが答えるより速く、アゼがそう言った。僅かだが、レニアが嫌な顔をしたのを、エルは見てしまった。
「おめーには聞いてねーよ蛇ババア。さっさと成仏しろ。」
『クレマドが息絶えるまで死ねないわ、不安で。私にはエルを護るという使命もあるもの。クレマドと違って。』
「なにが使命だ、取って付けたみたいな感じで言いやがって。」
この上ない嬉しさが、アゼから伝わってきた。正直こんな事はして欲しくないが、言ったところで無意味であるのは目に見えていた。
『クレマドこそ、竜界の神々との決着つけたらどうなのかしら?特に弟さんと。』
「あんなんほっときゃいーんだよ。まともに関わるだけ無駄だし。おめーみたいに。」
『あらやだ、ただの神と私を一緒にしないでちょうだい、クレマド。』
「つーかクレマドクレマドうっせーんだよ蛇ババア。」
自分に言われている訳ではなかったが、エルは申し訳ない気持ちになった。せめてもの救いは、アゼに気持ちが伝わってない事とレニアがエルを直視してない事だった。
『いいじゃない、素敵な名前よ、クレマド?』
「どこが素敵なんだよ…」
『響きがとくに素敵ね。それから、こうやって遊べるのも素敵ね!憎々しいアイツを虐めてるみたいで本当に素敵なのよ、クレマド』
「うっせーぞ蛇ババア、ぶっ殺すぞ」
ああ、また神の児たちが慌ててる、とエルは思った。毎度のことながら、どこで止めるべきなのかわからなかった。
『クレマドごときが私を?殺す?ウフフ、笑わせないでちょうだい、クレマド。』
「ほんとにいちいちうっさいババアだな。」
「…ごめんね、二人とも。みんな困ってるから、そのくらいにしてくれないかな?」
『そうね、クレマドが可哀想ですものね。』
なんとか仲裁に入ったつもりだったが、そうでもなかったようだった。これみよがしにそう言ったアゼは、これ以上ないくらい楽しそうだった。
「これ以上は言わないが、本気で成仏しやがれ蛇ババア」
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★ついったで頂いたネタを元に書いてみたお話でした。この場を借りて言います、ネタ提供ありがとうございました!
ひたすら互いを罵り合うだけのやおい話になってしまった感は否めない。竜界組は毎日だいたいこんな感じで過ごしてます。暇だなおまえら