『二時の方向に敵反応あり!』

山岳戦において無事勝利を収め、撤退準備を始めようとした矢先に支援兵からの専用通信で私達の間に緊張が走る。

「敵勢力の規模は分かる?」

とりあえず、通信を専用の周波数に切り替えて、私は彼女に問いかけた。

『はい。重装備兵が三体、強襲兵が二体のようです』

おそらく、モニターの前に映し出されている情報に楽しそうにしている表情が思い浮かぶが、彼女は緊張を保ったまま状況を説明してくれる。
敵基地はすでに壊滅しており、機能は動かないはずなので、逃走中かせめて一矢を報いようと待ち伏せしていたかというところだろう。

「各自、第一級戦闘態勢を維持!敵の出方によっては反撃に移行する!」

次々と撤退していく中、私達の隊は最後尾を守るために戦闘態勢へと移行していく。
念のために他の隊にも援軍を要請して、私達は警戒態勢に入った。

「そのまま逃げていってくれればいいんだけど」
『…そうだな。だが、こちらが迎撃態勢を取っている以上、すんなり撤退してくれるとは思えんが』

年季の入った強襲兵の言う通り、向こうがそのまま撤退することはないだろう。
哀しいかなここは戦場だ。生き延びるのに綺麗事は一切通用しない。
死に物狂いで反撃してくるだろう。

『目の前に高エネルギー反応!』

支援兵の叫び声に私達はすぐに散開して、次の行動へと移っていく。

「重装備兵は溜弾砲で牽制!強襲兵は間合いを取りつつ、敵を無力化!支援兵、狙撃兵はサポートをお願い!」
『了解!!』

私の指示に各自返事をして、一斉に動き出す。そして、目の前で銃弾が飛び交い始めた。

「お願い、力を貸して」

戦場に行く前にオペレーターからお守り代わりと預かったペンダントを握り締めて、私は戦場に飛び込んでいく。皆の無事を祈りながら。





『くっ、殺しなさい』

戦闘は幾分も経たずに終わり、無力化された五機の機体はすでに諦めたのか動く気配は見られない。
私達も被害は少なく、彼らを前に立ちはだかっていた。
声からして私と同じくらいの女性なのだろうか、リーダーと思わしき機体は命乞いもせずに先頭に立っている。

『どうする?』
「…どうもこうもないわ。私達は彼らが撤退してくれればよかっただけ。彼らが無力化した以上、私達のすることは何もない」
『ふざけないでほしいですわ!!』

自分達を逃してくれると聞いて相手側にどよめきが沸き起こる中、さっきのリーダー格の女性は憤りを隠さずに叫んでいた。

『これは戦争ですのよ!?こうして捕まってしまった以上、私達に未来はありませんわ!
殺されるか、捕虜にされて絶望を味わうか、なのに何もせず見逃すとかとんだ甘ちゃんですわね!
大方、綺麗事ばかり言って人を殺したこともないんでしょうけど!』
「…人を殺したことなら何度もある」

次から次へと罵声を浴びせられたが、私の一言で彼女は押し黙ってしまった。

「私は何度も戦場で助からない命を見てきた。当然、私がやったことも含めて。
せめて苦しまないようにと消えゆく命にとどめを刺したこともあるわ。
けど、貴女達はまだ生きている。少なくとも行き急ぐ真似はしないで。これ以上悲しむ人間が増えるのはたくさんよ」

私達が武装を解除し、「行け」と合図すると彼らは戸惑いながらも撤退していく。

『貴女のこと、覚えておきますわ。私に殺されるまで、せいぜい殺されないようにすることですわね』

捨て台詞を残し、部隊を護るように辺りを警戒しながら去っていく彼女を見送って、私は一度ため息を吐いていた。

「…やっぱり私は甘いんですかね?」
『そうだな、甘いな。戦場でそんなことを言う大馬鹿は滅多にいない。
だが、俺は…、いや、俺らはそんな大馬鹿者を気に入っている』
『そうですね。あと敵さんにも気に入られたみたいですね。まるで死ぬなみたいに聞こえました』

言われてみればそうだと軽く笑って、私達もまた戦場を後にする。
帰り際に振り返り、彼女のことを思い出していた。

「また…、会いそうな気がするわね」

誰にも聞こえることなく呟いて、これから起こりそうな何かに身震いを覚える。

『どうしました?ベースがもうすぐ見えてきますけど』

支援兵の一言で我に返り、私はなんでもないと首を振る。
とりあえず、今日は疲れた身体をゆっくりと休めよう。あの人にも無事帰れたことを報告して、いろいろと話をしよう。
今夜は何を話そうかと思いを馳せながら、私はペンダントを握り締めていた。





彼女との出会いが私達の運命を、いや、この戦争を大きく揺るがすことになるのだが、それはまた別のお話。









前にもボーダーブレイクで書いたのですが、今回はなんとなく殺し愛みたいなものを書きたかったんです



ちなみに
強襲兵→まじめ、ベテラン
支援兵→インテリ
敵重装備兵→お嬢
オペ子→黒髪の方

のつもりで書いてますが



おまけで
重装備兵→ナルシスト
狙撃兵→少女

とか考えてます



戦闘シーンとかも書いてみたかったけれど、とてもじゃないけど小ネタじゃ収まる気配はなかったんです