この街の太陽は沈まない107

「まぁ、あの二人あんまり仲良さそうには見えないですしね」
ばり、と、どこから持ってきたのか菓子パンの袋を破りながら、アサシンがそう言い放つ。遠慮のない言い方だが、確かに、手を取り合って協力し合う、というような間柄には見えない。
あー、と、濁った声でバーサーカーが呻く。
「なんだ、じゃあ信用はできねぇってオチか?」
「全てを鵜呑みにはできない、ということさ。天草殿がどの段階から知っていたのかは分からないことだが…少なくとも、今回のようなレベルで彼らが協力することは、今後ないだろうことは確か、かな」
「そうだな…何らかの同意はあったにせよ、あの二人が騙されたのもまた確かなんだろ?」
セイバーの言葉に続き、首をかしげつつそう尋ねたランサーの言葉にキャスターが頷く。
「そうね。あの二人が女史に不満があるのは事実でしょう」
「ならそこを信用するしかねぇんでしょうなぁ。信頼は簡単に壊れますが不満は早々変わりませんからなぁ!」
「さすが海賊、下衆いことをいいますね」
「あふん、手厳しい」
ライダーとアサシンの茶番を見ながらセイバーはくすりと笑い、現段階でこれ以上の結論は出せないと考えたか、ぽん、と手を叩いた。
「一先ず、今回の情報は見つからないように保管しておくことにしよう。ここで考えても今はもう結論がでないだろうからね。場を改めてまた考えようか。キャスター、管理を頼んでも?」
「えぇ、任して」
「ランサー、他になにか思い出したことがあったらすぐに教えてくれ」
「承知した」
「よし。……じゃあ、昨日の始末書を書くとしようか!!我々としての作戦は成功しているが、表向きの作戦は大失敗だからね!」
ええぇー!!と、悲痛な悲鳴が司令室に響き渡った。



「スカサハ警備部長」
代表の藤丸と別れた彼女に、話しかける人影があった。表情の読めない顔で振り返ったスカサハに、その人影は苦笑めいた笑みを浮かべる。
「今回の事件はお疲れさま。思ったよりも派手な事件になってしまったね」
「…そうですね」
「最後が失敗に終わってしまったのが残念だ。相当頭の回る男のようだね、女王蜂は」
「裏世界の掃除屋などと名乗るほどですからな。世渡りは相当巧みであろうよ。で、何用かな?………ダ・ヴィンチ女史」
名を呼ばれた人影―レオナルド・ダ・ヴィンチはにっこりと笑みを浮かべた。

人のいい笑顔だ。
話を聞いていなければ、彼女を黒幕と疑うのは難しい。

そんなことを無表情の裏で考えながら、彼女の笑みに返すようにスカサハは肩をすくめた。
「ChaFSSが失敗するとはなぁ。アマゾネス宅配の押しの強さには参ったものよ」
「そうだねぇ、まさか彼らが失敗するとは思わなかったよ」
「どうだ、この際人員を増やしてみてはどうだ?」
「ははっ、そうだねぇ、それも悪くもないかもね。予算をどう確保したものかなぁ」
「なんてな。どうせこれだけの事件は早々起こるまいよ。なにせ黒幕である雀蜂は尻尾を巻いて逃げてしまったのだからなぁ、黒幕が動かなければしばらくは平和よ」
世間話でもするかのように近況の話をしながら、さりげなく、黒幕、という言葉を強調して、スカサハは目を細めて笑った。
ダ・ヴィンチは一瞬きょとんとした後、そうだね、と同意を返して笑う。
「…黒幕か。スカサハ警備部長、君は、今回の事件、どう思う?」
「気に食わんな。結局メイヴのやつが儲けて終わり、というオチになりそうではないか。全く、抜け目のないやつよなぁ」
「……………」
「ん?なんだ、聞きたいことは違ったか?」
「いいや?そんなことはないよ。時間をとらせたね、すまない。我々は本部に戻るよ、報告書の方、よろしくね」
ダ・ヴィンチはさわやかな笑顔でそう言うと踵を返し、スカサハの前から去っていった。
「…………ちっ。抜け目のないやつよの」
揺さぶりは何度かかけた。だが揺らいだ気配を微塵も見せなかったダ・ヴィンチにスカサハは小さく舌打ちし、同様に踵を返した。