我が征く道は197

空を埋め尽くさん勢いで展開されたギルガメッシュの宝物庫の扉から、一斉に武器が射出された。
凪子は自分目掛けて打ち出されたそれらを、槍を手元で振り回して弾き飛ばす。ついでに身体を捻ってよけたついでに掴んだそれを、ギルガメッシュ目掛けて投げ返す。ギルガメッシュは、ちっ、と小さく舌打ちすると跳躍してそれをかわし、地面へと降り立った。
士郎は強く地面を蹴り、そのギルガメッシュ目掛けて距離をつめようとした。だがギルガメッシュはそんな士郎に気がつくやいなや、扉をさらに展開し、士郎目掛けて武器を放った。士郎はぐ、と立ち止まり、ギルガメッシュが投げたそれを同じものを投影し、同様に放った。
「バカちん。そいつの真似っこじゃあすぐ死ぬぞー」
「、っるさいな、分かってる……!」
同じだけの攻撃を受けているというのに、士郎と比べてのらりくらりと攻撃をいなし、余裕な様子で口出ししてくる凪子に、士郎は苛立ったように言葉を返してきた。意外と負けず嫌いなようだ。
「シロウ!」
口では強がりながらも完全に押されていた士郎のところへ、セイバーが割り込むように前に立ち、ギルガメッシュの攻撃を一閃した。
どうやらアサシンは倒してきたらしい。セイバーは士郎を庇うように立ちふさがり、ギルガメッシュはどこか楽しそうに口元に弧を描いた。凪子は凪子で、アサシンは負けたのかぁとちらりと後方を振り返った。
「(まぁあの様子じゃあ負けるのも仕方ないか)」
「シロウ、ここは私が…」
「いや、セイバー。あいつの相手は俺だ。遠坂の方に行ってくれ」
「!?シロウ!」
「頼む」
セイバーはギルガメッシュを睨みすえ、飛びかからんとした様子であったが、士郎にそれを止められていた。
セイバーは驚いたように士郎を振り返ったが、士郎の顔を見て、ぐ、と言葉を飲み込んだように見えた。
「………わかりました。ご武運を、シロウ」
セイバーは深くは聞かずにそう言うと、高く跳躍して寺の裏手の方へと姿を消した。ギルガメッシュは面白くない、といった顔で士郎をじとりと見た後、すぐに攻撃を再開した。凪子の方への攻撃も再開されたので、凪子は両者の様子を見つつ、攻撃を弾く。
士郎は攻撃をギリギリでかわしながら、すぅ、と息を吸い込んだ。
「――体は剣で出来ている―――!」
「!!」
そうして、士郎が口にした言葉に凪子はわずかに目を見開いた。そしてすぐに、にやっと笑った。

―そのことに気がつけばな

アーチャーが挑発的にいっていた言葉が思い出される。
「血潮は鉄で、心は硝子。幾度の戦場を越えて不敗、ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし……ッ」
「(いくら同一人物とはいえ、一言一句変わらないとなんか感動を覚えるな)」
「担い手はここに独り。剣の丘で鉄を鍛つ――!」
「(…………………ん?)」
バチバチ、と、火花が弾けるような音を、士郎の魔術回路が立てる。ギルガメッシュの眉間が寄る。
士郎は、ぎっ、と、ギルガメッシュを見据えた。

「――ならば、我が生涯に意味は不要ず―
 ―――この体は、無限の剣で出来ていた―!!」

士郎が、叫ぶように詠唱を終える。士郎の足元から、炎のようなものが士郎とギルガメッシュを囲いこむように地面を走る。
そうして、一際強い光が放たれた後―二人の姿は、凪子の前から消えた。
それとほぼ同じくして、凪子の宝具デメリットも解ける。
「…最後の方、アーチャーの詠唱と違ったな…。あの少年も答えを得たということか、あるいはアーチャーとなる未来はなくなったということか……」
あとは士郎の戦いの結果を待つだけとなった凪子は、その場にたたずんだまま、ぽつり、と呟いた。