2017-5-21 23:01
アーチャーは士郎に何か言葉をかけることなく、先に動いた。
迷いのない、殺意。それに当てられたか、一瞬だけ、士郎が怯む。だがすぐにアーチャーの攻撃に応えるように士郎も動いた。
下の部屋の中央で二人は勢いよく衝突した。双刀がそれぞれにぶつかり合い、ぎちぎちと派手な音をたてて交差する。
その均衡を先に壊したのはアーチャーで、アーチャーは双刀を弾くと勢いよく士郎を蹴り飛ばした。技術の投影が間に合っていないのか、あるいは身体が追い付いていないのか、士郎はあっけなく飛ばされ、部屋の隅までごろごろと転がった。
「ぐ…ッ、う……!」
「(……?あ、あの坊や、魔術回路が疲弊してやがる。なるほど、葛木との戦闘で疲労してたな?アーチャーにはぜ絶好のチャンスだな)」
起き上がりの遅い士郎に疑問を抱いた凪子は、透視で士郎の身体の様子を確認した。魔術回路が焼ききれそうな様子が見てとれたことから見て、どうやら彼の投影はアーチャー以上に負担が多く、かつ葛木との戦闘でかなり磨耗してしまっているようだ。
そうなると、これは士郎が不利の一言につきてしまう。
「(………だけど)」
ちらり、と凪子は凛の方へと視線をやった。
「―告げる!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!」
「(!!)」
直後、凛が発した言葉に凪子はわずかに目を見開き、ニヤリと笑った。
「(…恋する女の子は容赦ないねェ)」
凛は、閉じ込められている剣の隙間から――セイバーに向かって、手を伸ばしていた。
「聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―!」
凪子よりワンテンポ遅れて凛の行動に気がついたアーチャーは、ちっ、と舌打ちをした。だがやはり凛は殺したくないのか、その動きが一瞬遅れる。
その一瞬のうちに、セイバーが勢いよく地面を蹴り、同様に凛へと手を伸ばしていた。
「我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう!!」
「セイバーの名に懸け誓いを受ける…!貴女を我が主として認めよう、凛――!」
セイバーも、マスターである士郎を守るためなのだろう。凛の突然の申し出に、迷うことなく、文字通り飛び付いた。
「(…運のいい坊やだ)」
契約の瞬間、魔力の波が勢いよく放たれ、アーチャーはそれをまともにくらって僅かに怯む。
凛と契約を交わし、一気に魔力をその身に得たセイバーは、凄まじい勢いでアーチャーに斬りかかった。
全てのステータスがセイバーの方が上回ったからか、強烈な一太刀を受け止めたアーチャーだったが、その力任せな一撃の勢いにそのまま床に叩きつけられた。
「(あーあー無粋な…!まぁ、どうやらセイバーもわりとあの坊やに入れ込んでるみたいだしな、惚れてる女が二人もいるとは厄介なこった)」
あちゃー、と凪子は頭を抱えた。凪子にとってしてみれば両者の介入は無粋の一言に尽きるのだか、人間である以上黙っているのも無理な話とも理解できるので、困ったようにため息をつく。
石造りの床にのめり込むように叩きつけられたアーチャーは、しかしさしてダメージはない様子で身体を起こした。
「(なんでぇセイバー、手抜きしてやがんの。ふん、アーチャーも殺したくないってわけか。残酷なことだ…)」
セイバーはまっすぐに切っ先をアーチャーに向けたが、凛の意思が強いのか、あるいはセイバーにもその気があるのか、畳み掛けることをしない。
「ここまでだアーチャー。マスターを持たない貴方にもう勝ち目はない。大人しく凛の下に戻りなさい」
「………ふっ。なめられたものだな、セイバー。この期に及んで、俺が戻るとでも?」
「何っ、」
セイバーの発した言葉に、アーチャーは嘲笑うようにそう返した。一人称も態度も、そして雰囲気すらもまるで今までと違うものを見せるアーチャーに、セイバーは僅かに怯む。
「…I am the born of my sword」
「(!!固有結界使う気か)」
セイバーが怯んでいる隙にアーチャーが始めた詠唱に、凪子は僅かに驚きつつも固有結界から弾かれないように、自身に気配透過の魔術を行使した。