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我が征く道は170




―――動いたのは、ランサーが先だった。

凛と士郎が見えなくなると同時に、ランサーは勢いよく地面を蹴り、姿を消した。直後、アーチャーの目の前に姿を現し、素早く槍を突きだした。
アーチャーも予測できていたのか、屈みざまにそれを避け、両手に双刀を投影した。そうして踏み込みながら、がらんどうのランサーの胴めがけて躊躇なく振り抜く。
ランサーは突きの体勢から力業で後方に身体を引いてそれをかわし、アーチャーの間合いであるにも関わらず、続いた二撃を軽々とさばいた。
「はあぁっ!!」
どこか楽しそうにすら見える形相で、ぎらりとした目を光らせたランサーの槍がしなる。
アーチャーにかわされて地面にぶつかった際のドスンと響く音は、おおよそ槍の出す音ではない。一撃一撃をそれだけ重く放ちながらもランサーの槍を扱う手さばきは軽く、槍はさながら鞭のように、あり得ないしなやかさでアーチャーに迫った。
様々な方向から迫る攻撃を、アーチャーは正確に受け止め防御していた。否、それがアーチャーの精一杯だった。顔にこそ出ていないが、今のアーチャーに、少なくとも双刀で攻撃をする余裕はない。
ランサーの一方的な攻撃がほとんどだ。アーチャーはかわしながら攻撃の機会を得ようと度々距離をとることを試みるが、すぐさま間を詰められ、それも敵わない。
「(…なるほど、自分がやった時はそれどころじゃなかったけど、令呪がないとこうも違うのか)」
―前回のアーチャーとランサーの戦いは、ここまで実力差が明らかに見えるものではなかった。少なくとも、前回と違ってアーチャーから攻めにいくことができていない。ランサーの攻撃をしのぐ合間合間で攻撃をしかけることはできているが、攻撃の主導権はランサーにあった。

令呪の縛り。
その強烈さを改めて見せつけられる。

凪子は不愉快そうに眉間を寄せた。
「(さすが糞蟲野郎。こういうことだけは得意になったか。…となると、セイバーの服従の令呪も割と結構深刻的なのか。しかし…ランサーの戦闘力もかなり下がってたな。生き残りに特化させた命令だとはいえ、賭けに出ていたもんだ)」
強制的に手を抜かされるというのは、単純に考えて弱体化の魔術となんら違いはない。そこに多少の生存特化スキルをつけたところで、弱くなったことに変わりはないし、勝負から離脱する力がなければないに等しい。
言峰がランサーの実力を見込んで、などといった考えを持ったとは考えにくい。
「(…本当に情報収集の足だけに使うつもりだったのかもな。いずれは聖杯にくべなきゃいけないものだし)」

それは、それで。

「(不愉快だなぁ)」
凪子はそう思いながら、眼下の戦闘を見守った。
赤い槍が、月の光を反射させて、煌めきながら掠めていく。黒白の双刀が、槍を受けて火花を散らす。青い戦闘服と、赤い外套が、暗闇に踊り舞う。
「せぃ―ッ!」
攻撃を弾いた瞬間に一瞬生まれた隙をついて、アーチャーが渾身の力を込めて双刀を振り抜く。だが、それは赤い槍に受け止められ、ギィンと鈍い音が夜明け近い教会に響き渡った。
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