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我が征く道は163

―ジャラララ、と、鉄が擦れる音がする。

勢いよく空中に鎖が飛び出した。着地したバーサーカーをとらえようと大きく弧を描いて鎖が伸び、バーサーカーは上方へさらに跳躍する。が、そうしてよけたバーサーカーを別の鎖が勢いよく取り囲み、その四肢を軽々と拘束する。バーサーカーの斧剣にも鎖が絡み付き、締め上げることで斧剣が砕け散る。
あっさりと捉えられてしまったバーサーカーはそのまま地面へと叩きつけられた。追い討ちをかけるようにさらに数本、鎖が飛び出し、バーサーカーの首を、腕を締め上げるように絡み付いた。
「(…ヘラクレスは半神。ランサーと同じで天の鎖の効果が強く出るのか。全く、時臣も厄介なもんを召喚したもんだよ…)」
「戻りなさい、バーサーカー!」
イリヤスフィールが焦ったように、命令を飛ばす。一瞬令呪が光ったので、令呪も用いたのかもしれない。
だが、バーサーカーはぴくりとも動かないものだから、イリヤスフィールは困惑したように立ち上がり、バーサーカーを見上げる。
「なんで…私の中に帰れっていったのに、どうして!?」
「無駄だ人形!」
戸惑うイリヤスフィールを嘲笑うように、高々にギルガメッシュはそう言い切る。
「天の鎖。この鎖に繋がれたものは、神であろうと逃れることはできん」
「(……随分とまぁ嬉しそうに。その神殺しがきっかけで友人が死んだんじゃなかったか、ギルガメッシュ叙事詩。流し読みしただけだからよく覚えてないな)」
「令呪による空間転移など、この我が赦すものか」
ギルガメッシュはす、と右手をあげた。その指先に開いた扉から、随分大きな矢のようなものが顔を覗かせる。
ギルガメッシュはにやにやとした笑みを浮かべながら、その武器を、バーサーカーの胸へと突き立てた。
「…!やだ、やだよぅ、バーサーカー…!」
――捕らえられたバーサーカーに、今度こそ避けるすべはなかった。
ビチャビチャと嫌な音をたてて、矢をつたった血が地面へととめどなくこぼれ落ちていく。はくはくと呼吸を求めるようにバーサーカーの口が動いたが、その内その目から光は失われ、体躯は力なく膝をついた。
「(……………)」
イリヤスフィールの泣く声だけが、一気に静かになった玄関ホールに響く。凪子の表情は渋い。だが、静かにイリヤスフィールのことを見つめ続ける。
ギルガメッシュは宝物庫から取り出したシンプルな長剣を手に取り、無言でイリヤスフィールに歩み寄ると――その目を、潰すように横一線で切り裂いた。細く、水を切るような悲鳴が、聞こえる。
「(…、……)」
自分と同じようにこれを見ているであろう二人がいる方から微かに音がした気がした。ただの少年少女である彼らには、見れたものではないのだろう。
目を潰され、視界を奪われたイリヤスフィールは、何かを探すように手を伸ばし、ふらふらとさ迷う。
「バーサーカー……バーサーカー………」
細く震えた声が、バーサーカーの名前を呼ぶ。イリヤスフィールは、バーサーカーを探しひたすらにその小さな手を伸ばす。
だが、ギルガメッシュは興味もなさそうにそのイリヤスフィールの胸部に剣を突き立てた。心臓は刺していないはずだ。――それこそが、恐らく彼の目的なのだろうから。
「…いたい、いたいよ…… バーサーカー、どこ………」
刺され、倒れ付したイリヤスフィールは、それでもバーサーカーを探して地面をはう。
――二人の間にどんな関係があったのかは凪子には知りようのない話だ。だが少なくとも、イリヤスフィールにとってバーサーカーは、ただのサーヴァントではなかった。それは伺い知れた。
凪子は音をたてず静かに、フードを被った。
イリヤスフィールの伸ばした手が何かに触れる。
「あ……よかった………ずっとそこにいてね、バーサーカー………」
動きの止まったイリヤスフィールに、剣を消したギルガメッシュが近寄る。す、と、右手を振り上げた、その時だった。
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