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我が征く道は47

「ごちそうさまでした、イリヤちゃん。美味しかったし、楽しかったよ」
「ええ、私も楽しかったわ。案内は必要かしら?」
「ん、いや多分大丈夫、最悪分かんなくなったら、木達に聞くさ」
日が沈み、夜もふけ、日が変わる頃になって、凪子はイリヤスフィールに別れを告げていた。ぱちん、と指をならし、ケーンのルーンを焚く。ぽぅ、と淡い炎が開いた凪子の手のひらの上に広がる。
イリヤスフィールは、す、と目を細めた。時折イリヤスフィールは、こうしたどこか遠くを見つめるような顔をする。
「………静かな夜ね」
「ん、サーヴァント同士の対決もない?」
「ええ、今のところはね。初期に連戦しなきゃいけないランサーも今日はバーサーカーと戦った、さすがに夜はないでしょう」
「どうだろうなーマスターがブラックだからなぁ彼。まぁ、ここんとこ夜寝れてないからそろそろちゃんと夜に寝たいんだけど…」
「………」
「じゃ、そろそろ行くね。またね、イリヤちゃん」
「…、ええ、またね、凪子」
凪子はそう言ってイリヤスフィールに背を向け、森の中へと姿を消していった。生い茂った森のなかで、ポツンと光るルーンの焔もすぐに見えなくなる。
「……また、ね」
またね、という言葉を反芻するようにイリヤスフィールは小さく呟いた。そして、ふ、と笑うと、彼女も踵を返し、城の中へと戻っていった。


「おっおおう暗いな…」
意気揚々と城を出た凪子は、暗い森をてくてくと歩いていた。たまに木々の隙間から入る月明かりがほんのりと辺りを照らしている。

ここはアインツベルンの領域だ。魔術師やらなんやら、変なものが紛れている心配はないだろう、と思っていたのだが。
「…あり?」
「…おや」
凪子が驚いた声をあげたことで気付かれたと悟ったか、霊体化をといたアーチャーが姿を見せた。赤い衣装が風にたなびき、黒い森にその姿は目立つ。
凪子は辛うじてまだ見えるアインツベルンの城をちらりと見たあと、アーチャーに目を向ける。
「偵察?」
「…まぁ、そんなところだが、偵察と分かるということは、君、やはり聖杯戦争の関係者だったのだな」
すぅ、とアーチャーの目が細められ、警戒の色が浮かぶ。そういえば、アーチャーと凛には観戦者というスタンスを明かしていなかった、と凪子は思い出す。聞かれもしなかったので、言わなかっただけのことではあるのだが。
「関係者というほどのものではないよ。しかしイリヤちゃん、静かな夜だ、って言ってたのになぁ」
「静かな夜?まて、イリヤちゃん、というのは、」
「多分城まで行ってもバーサーカーけしかけてくることはないと思うよ。ま、でも安全策はとっといた方がいいんじゃない?」
「待て!」
静かな夜だと、イリヤスフィールは言った。だがここにアーチャーがいるということは、それを言った時点で、気配遮断スキルなどは持たないアーチャーの侵入には気が付いていたはずだ。それでも静かな夜であるのなら、戦闘の意思がないのだろう。
そして、アーチャーも、一人でマスターもなしにバーサーカーに挑むことはないだろう。つまり戦闘はない。そう判断した凪子はさっさと帰ろうとしたのだが、その腕をアーチャーが掴んで止めた。
「なに」
「…アインツベルンのマスターよりも君に聞きたいことができた」
「えーやだーお腹一杯食べたし帰って寝るぅ……」
「ならば凛に、君はアインツベルンの協力者だ、と伝えるが?」
「ウッワァめんどくさそうなことで脅してきやがる…そっちだって、手ぶらで帰れはしないでしょ?私から得られるイリヤちゃんの情報なんてないよ?」
ふっ、とアーチャーの顔が楽しげに歪む。
「幸いなことに、ここに偵察に来たのは私の独断だ。つまり凛は私がここに来ていることを知らない」
「ウッワァ〜…」
「さて?どうする。面倒を増やすか、一晩私に付き合うか」
「…………まぁ、私も君に関しては聞きたいことあったからなぁ。仕方ない、面倒増えるよりかはあんたに一晩付き合う方がましだ。その代わり、飲みもん一杯くらいおごれよ??」
「私の紅茶でもよいかね」
「あー、それでいいよ、うん。美味しいし。じゃあ私がとってるホテルいくかぁ」
かくして、凪子の夜の睡眠時間はアーチャーによってなくなることになったのであった。
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