朝目覚めて、まず気づいたことは腕のあたりに妙に柔らかい感触があったことだ。

「メイコ!?」

いつの間に私のベッドに潜り込んでいたのか、私の腕に抱きついていて気持ち良さそうに寝息を立てている。
組み付いているメイコの腕はとても力強く、ちょっとやそっとでは離れてくれない。
私は目が覚めたら、いきなりこの状況になっていたことに混乱して、とりあえず落ち着こうと大きく息を吐いていた。
落ち着いたところで私はメイコを見やる。安心感を与えるメイコの寝顔に、私は少し顔が温かくなるのを自覚していた。
とはいえ、いつまでもメイコの寝顔に見とれている場合ではない。私はメイコの肩を揺さぶって起こすことにした。

「起きなさい。メイコ、いつまで寝てるのよ」

メイコがこのくらいで起きるとは思えないが、起きるまで何度も揺さぶっていく。
一度、二度、三度と揺さぶったところで、メイコはようやく目を覚ましてくれた。

「あ、マスター。おはようございます」

私とは正反対のとても落ち着いた口調に、私は頭に血が昇り、思わずメイコのこめかみに握り締めた拳を当てていた。

「起 き な さ い」
「マ、マスター!?やめてください!
ぐりぐりだけはやめてください!!」

メイコが慌てて跳ね起きたところで、こめかみに当てていた力を緩めていく。少しばかりメイコがべそをかいていたが気にしない。

「とにかく、どうしてメイコが私のベッドに潜り込んでいるのよ」

朝起きたら、メイコが目の前にいた。こういうことはたまにあるけど、今回は何か違和感を感じている。
その感覚に応えるようにメイコは悪魔のような笑みを浮かべていた。

「どうしてって、今日はバレンタインじゃないですか」

さも当然といった口調でメイコは表情ひとつ変えずに言ってくる。いつものにじりよられる感覚にイヤな予感がしてならなかった。

「マスターが内緒でわたし達を驚かそうとチョコレートを作ってくれたのが嬉しかったんです」

やっぱりバレていた。もともとバレても構わなかったからいいのだけど、それと今回メイコが潜り込んでいるのと何の関係があるんだろう?

「マスターとルカがサプライズを用意したのが嬉しくてミクと話し合ったんです。
そしたら、チョコのように甘い朝を迎えてみようという結論になりました」

なるほど、メイコの言いたいことはよく分かった。私は照れた表情をしているメイコに優しく微笑みかける。
その瞬間、迷わず的確にメイコのこめかみに再び手を当てていた。

「あ ん た はミクに何を教えているのよ!?」
「マスター!痛いです。痛いですってば!」

笑顔のまま拳に力を込めて、私はメイコの真正面から視線をぶつけていく。
メイコの表情はひきつっていたが、私の知ったことではない。

「マスター、誤解です。誤解ですって!」

正直、誤解もへったくれもない気がするが、言い訳くらいは聞いておこう。そう思って私は当てている拳の力を緩めていった。
…ただし、こめかみに当てた拳は離さずに。

「わたしはミクに自分の作ったチョコレートとルカの作ったチョコレートを枕元に並べてベッドに潜り込めと言っただけです。
朝起きたらハッピーバレンタインという雰囲気をルカに伝えるだけでいいって言っただけなんです!」

メイコの言葉を信じるならば、おそらくミクとルカは朝から甘い雰囲気の中、ほのぼのとしたバレンタインを過ごしているだろう。
なんだかんだでメイコは二人を大事に可愛がっている。私はメイコから手を離して、呆れたようにため息を吐いていた。私もメイコには甘いのかもしれない。

「まったく、メイコは極端過ぎるのよ。もっと素直に伝えるようにすればいいのに」
「………うう。ひどいですマスター。ちゃんとマスターへのチョコレートも用意していたのに」

枕元を見れば、確かに私の作ったチョコレートともうひとつ丁寧にラッピングされた包みが並べられている。
私は静かに微笑んで、メイコの頭をそっと撫でていた。

「はいはい。それでメイコ。メイコはどうしてほしいの?」

我ながら意地悪な質問とは思うけれど、メイコにやられっぱなしなのは悔しいからまじまじと見つめていく。
そんなメイコは頬を赤らめて急にしおらしい態度をとって覗き込むように視線を合わせてきた。

「マスターも意地悪なこと言わないでください。マスターとチョコレートよりも甘いバレンタインを過ごしたいに決まっているじゃないですか」

メイコは大人びた笑みを浮かべるとそっと近づいてくる。妖艶にも似たその表情はとても私の心を揺さぶらせて、胸の高鳴りを感じさせていた。
そのまま私は瞳を閉じて、少しの間を空けてメイコが唇を重ね合わせてくる。まるで彫像のように私達は動かずにお互いの唇の感触を感じていた。
ようやく離れたと思えば、今度はお互いに抱き締め合って温もりを確かめていた。

「マスター、もう一回キスしていいですか?」
「…ええ」

私達は再び見つめ合い、お互いの呼吸で唇を重ね合わせていく。永遠にも似た感覚のように時間が過ぎていくのを忘れて、私達はチョコレートみたいに溶け合うように唇を重ねていた。
やがて、照れ臭そうにお互い離れて、お互いのチョコレートを手に取っていく。

「メイコ、ハッピーバレンタイン」
「マスターもハッピーバレンタインです」

私達はお互い視線を合わせてながら、少し肩を震わせて笑いだしてしまう。そのまま自然にチョコレートを取り出して、お互いの口元に差し出していった。
メイコのチョコレートはバランスよく甘さとほろ苦さが混じり合っており、とても食べやすい。

「マスターのチョコレート美味しかったです」
「メイコのチョコレートも美味しかったわよ」

再び甘い雰囲気の中、私達は三度唇を重ねていく。お互いのチョコレートが溶け合うようでなんだか気恥ずかしい。
チョコレート混じりのメイコとのキスの味はとても甘く、今日一日中幸せになりそうな予感がした。









ほのぼのとしたバレンタインを予想していた方ごめんなさい

思い切りイチャイチャした話になってしまいました


ミクとルカは?と思った方

すいません、何も考えてなかったです