「キサラギちゃん、キサラギちゃん。お菓子食べない?」

お昼ご飯を食べ終えてまったりしていたところ、突然ノダにお菓子を差し出されて、キサラギはよく分からないままお菓子を受け取ってしまう。

「あ、はい。ノダちゃんありがとうございます。それじゃ遠慮なくいただきますね」

そう言って、キサラギはお菓子を口にしていく。
口の中に入れた瞬間、とろけるように広がっていく甘い香りに驚いてしまった。

「これは…、チョコレートですか?」

見た目はチョコレートとは思えないほど精巧にできていて、キサラギは思わず感心してしまう。

「そうだよ。上手く出来てるでしょ?」
「はい。チョコレートだと思わなくて、びっくりしちゃいました。
それにしても、ノダちゃん。このチョコレートどうするんですか?」

ふと湧き出てきた疑問に、待ってましたと言わんばかりにノダは表情を輝かせてきた。

「トモカネを驚かせてみたいと思ってさ。あと、ナミコさんにも、ね」

ナミコの名前が出てきた途端、徐々にほんのりとではあるがノダの頬の桃色が強くなっていく。
なんとなく自分と同じことに気がついて、キサラギは思ったことを口にしていた。

「それだったら、ナミコさんには普通のチョコレートをあげた方がいいんじゃないですか?」

キサラギの言っていることは至極もっともな意見ではあるが、ノダはそんなことは思っていないようだ。

「キサラギちゃん分かってないなー。好きな人だから、なんていうか照れくさいじゃない」
「…そういうものなんですか?」

今ひとつ要領を得ないまま、キサラギは首を傾げている。
なんとなくノダに感化されて、キョージュにびっくりチョコレートをあげる様子を想像してみるが、まずキョージュが驚いている姿が想像できない。

「キサラギちゃん、今このチョコレートを誰かにあげること考えているでしょ?」
「なっ!?」

まるで見透かされたようにノダに指摘されて、キサラギは思い切り慌てふためいてしまった。

「ど、ど、ど……!?」

キサラギは動揺のあまり呂律が回らず、「どうして」という言葉すら出ない状態にノダはからかうように笑いかけていく。

「うん、なんとなく勘だったんだけど、キサラギちゃんの様子だと渡す人がいるみたいだね」

どうやらキサラギの自爆のようで、恥ずかしそうにどんどん顔を赤らめていってしまう。
そんなキサラギを見て、ノダは悪戯っ子のような笑みを浮かべると、びっくりチョコレートを一つ頬張っていく。

「ねえ、キサラギちゃん。良かったら一緒にこれ作ってみない?
これでみんなを驚かせて楽しもうよ」

なんとなくキサラギの目にノダの背中からコウモリの羽根が生えているのが映っているのが見えた気がした。
しかし、魅惑的な誘いに抗うことも出来ず、キサラギはこくこくと首を縦に振っていく。

「あの、ノダちゃん。よろしくお願いします」

最後は丁寧にお辞儀して、キサラギはノダの誘いに乗ることにした。
ノダは機嫌よくキサラギの手を取って、にこやかに笑い出す。

「それじゃキサラギちゃん。バレンタインに向けて頑張ろうね!」

気合いの入ったノダの表情に多少複雑な気分ではあるもののキサラギは頷いていく。
もしもの時は後でキョージュに謝ろうと思いながら、キサラギはこれから買い物に行くノダに付いていくことした。

「あ、そうだ。キサラギちゃん、キョージュと上手くいったら報告よろしくね」
「………!?」

店に着いた頃、ノダに核心と言えるところを思い切り突かれて、キサラギは頭が湯立ったように真っ赤になり、言葉が出なくなってしまった。

「やっぱり。なんとなくだったけど、当たりみたいだね」

口をぱくぱくと開きながら何もしゃべれないキサラギに照れくさそうに笑いながら、ノダはキサラギを見上げていく。

「キサラギちゃん、お互い頑張ろうね」
「…はい」

今はなんとか返事をすることが精一杯で、キサラギは材料を手に取ってかごに入れていく。
バレンタインまでの残り数日間を一緒に頑張ろうと、二人は改めて気合いを入れていった。









そしてバレンタイン三つ目、GAでキサラギとノダのお話です



個人的にキサラギとキョージュ、ノダとナミコさんなんですがどうなんだろう?
(トモカネは…ごめん)