カルデアの善き人々―塔―22

「………で?俺にどうしろと?」
「っ、まて、」
口に出した言葉は自分が思ったよりも遥かに冷たく。それを唯一察したのだろう、エルメロイ?世が焦ったように自分を見る。

あぁ、惨めだ。

冷静さをすぐに欠く自分が惨めだ。
こんな風に指摘される自分が惨めだ。
その事実が惨めだ。
うまく乗りきれない自分が惨めだ。
否定も肯定もできない自分が惨めだ。

そして何よりも、それをよりにもよってエルメロイ?世に、ウェイバー・ベルベットに察されたことが、実に、実に、惨めだ!!

「アメリカで藤丸が損傷したときみたいに患部を切断するのか?あぁ、でも心なんて切断できないよな?じゃあ俺を殺すか?俺は病原菌で感染するんだろ?排除するなら俺を殺すしかねぇよなぁ!!」
「!!タワーさん、」
「アーサー!」
落ち着かせようとしたのか、それとも諌めようとでもしたのか。肩を掴んだエルメロイ?世の手を払い除ける。
ナイチンゲールはぴくりとも表情を変えずに自分を見ている。ぐちゃぐちゃとした感情にこちらはかき回されているというのに、かき回した当人は涼しい顔をしている。

憎い?腹立たしい?苛立たしい?辛い?悲しい?苦しい?

分からない。もう分からない。
でも分かる必要なんてないのかもしれない。そんな、“自分がどう思っているのか”なんて、きっと、誰にとっても“どうでもいい”。

「あんたにとって、俺がどんな思いで今ここにいるとか、そんなくだらないことどうだっていいんだろう、あんたにとって俺はただの病人なんだから」
「否定はしません。あなたには必要なのは治療で、同情ではないでしょう」
「治療?どうやって?理性のぶっとんでるバーサーカーなんぞが、どうやったら治療なんて芸当ができるんだよ!」
「アーサー!」

声を荒げる自分自身が、遠くに見える。
あぁ、なにか今自分は、とても失礼なことを言ったな。引き剥がすように自分を止めるウェイバーが、ずいぶん焦った顔している。お前にそんな顔をさせられるんだったら、それも悪くないのかもしれない。
あぁ、でも彼女の表情が全く変わらない辺り、大して響いても届いてもいないようだ。
あぁそうさ、自分の言葉が誰かに届くだなんて思わない。誰かに聞いてもらえるなんて思わない。

だって今までの人生でそんなこと一度もなかった。
自分は人並みのことしかできない。魔術も平均的なことしかできない。自分には突出したところも特技もない。

どうせ、自分は、数多ある消耗品のひとつでしかないのだ。替えのきく代替品でしかないのだ。ただその代替品すら大してないから、そのレア度が、このカルデアでは若干上がっただけのこと。
唯一でも、特別でもない。
ちょっと希少度が高いだけの、量産品。

不良の出た大量生産品の末路はひとつ。
廃棄だ。

「…分かってるさ」
「アーサー?」
「分かっているさ、他に変えようがないから使われてるだけだってことくらい!!」
「!!タワーさ…」
「だけど仕方ないじゃないか、病原体でも、不良品でも!!俺は俺が壊れたって俺の仕事をなす、それしか俺には生きている価値がない!!だからお前の言葉なんて聞かない!!あんたが俺を殺してでも排除するってんなら、俺はあんたを殺してでも仕事をするだけだ!!」

あぁ、藤丸が目をまんまるにして俺を見てる。
いや藤丸だけじゃない、みんながそうやって俺を見てる。

馬鹿馬鹿しく見えるんだろう。
愚かに見えるんだろう。

あぁ、もう見ないでくれ、見てくれなんて贅沢は望まない、だから、俺は。

「アーサー!!」
ーー彼は、そう吐き捨てるように叫ぶと、エルメロイ?世の腕を振り払い、食堂から飛び出していった。