我が征く道は157

凪子はちら、とキャスターたちの方を確認し、しばらくは何もなさそうだと判断したので、念のため作っておいたネズミのかたちに折った折り紙の使い魔をそっと放しその場をあとにした。


教会の外に出ると、冷たい風が髪を揺らした。あまり動かないようにしていたために固まった身体を回してほぐし、うーん、と背筋を伸ばす。
「…さぁすごいことになってきたな…これで一応形式的にはサーヴァント四人の同盟ができあがったってことになる。ランサーとイリヤちゃんはどう動くかな…多分言峰は生きてることを公表しないだろうし、んー、どんどんおかしなことになっていくね聖杯戦争。まぁ……」
ちらり、と後ろを振り返る。

アーチャーは必ずキャスターを裏切る。
そして裏切るときは、必ずキャスターを仕留めることができるタイミングを狙うだろう。
キャスターがそれだけの隙を見せるだろう、と考えられるタイミングは。

「(…そう考えると、恐らくそれは凛ちゃんが再戦を挑むタイミング。これだけボコボコにされてなお挑むというのは、キャスターも相手が愚かだと油断する。とはいえまぁ凛ちゃんもバカではないから、バーサーカーとランサーのどちらかを味方につけようとするだろうな。ランサーはどこにいるか分からんから恐らくバーサーカー。バーサーカー強いしね)」
色々と考えながら、凪子は教会をあとにする。新都のホテルだと教会にもアインツベルン城も遠いため、深山町で見つけて借りた借家の一軒家に向かいながら、取り出したコロッケを頬張る。
「(…ただ、イリヤちゃんがアーチャーの正体に勘づいているとなると、この状況で手助けするかな……なにより、誰かサーヴァントを連れてきたとしたら、アーチャーがそれこそ門番代わりになる。 そうなるとイリヤちゃんとバーサーカーをいなしてキャスターを殺しにいく、ってのは厳しいだろ……。ランサーならあるいは、アーチャーの煽りスキルでうまいこと掌で転がせそうではあるが、またランサーも強いからな…)」
ほっ、と、コロッケを食べて熱くなった口内を冷やすべく息を吐き出す。ついついアーチャーはどう動くのかを考えてしまう。

アーチャーの行動は、かなりの賭けだ。
アーチャーの作戦は、凛がほぼ先程と同じ状況でキャスターと再び対峙することが必要条件となる。その上で、恐らく凛が味方として連れてくるであろうサーヴァントをいなし、凛が殺されんとする、キャスターが一番油断するであろうタイミングにはその場に駆けつけなければならない。

凛がつれて来うるサーヴァントはランサーとバーサーカーしか残っておらず、どちらもかなりの強敵だ。凛が恐らくアーチャーの真意には気づいていない以上、どちらも手加減してはくれないだろう。そうなると、いなすことそれ自体が難しく、凛を助ける前にアーチャーが脱落する可能性もある。それこそ本来の目的を果たせなくなる確率も十分高い。
「(…まぁ、あの少年も凛ちゃんにぞっこんっぽいからな。アーチャーがまだ凛ちゃんにある種特別の思いを抱いていたとしても不思議じゃないが)」
鞄から取り出したペットボトルの水を、ぐい、とあおる。
ほう、と息をつくと、ちょうど借家についた。ポケットから家の鍵を取りだし、中にはいる。
「ふぅ」
家具もなにもない、長屋のような家の床に鞄をおき、ふすまを介した奥の部屋の和室にごろんと横になる。
「……相変わらず、アーチャーはよくわからん人間だわ」
そうぽつりと呟くと、枕がわりに新しいマフラーをくるくる丸めたものを、布団がわりにコートを上にはおり、凪子はそのまま目を閉じた。