我が征く道は104

「…貴様の…番の鳥とやらか?」
「あぁ。葵以外を見せたことはなかったかな?」
二羽の鳥は仲良く寄り添うように時臣の腕と手に止まっている。時臣は白い鳥の方を撫でながらそう言う。

――先程の時臣の言葉が気になるが、今の様子を見るに、言ったことにも気がついていなさそうな彼に聞いたところで仕方がない。
そう判断したギルガメッシュは、一旦先の言葉は忘れることにした。
「(…いや、そもそも覚えておく必要なぞあるはずもないではないか)」

――臣下がほしいだけでは?

妙に引っ掛かった言葉だが、そんなもの、初めから期待してなどいない。
ふるふる、とギルガメッシュは軽く頭を振り、懸念や疑問を頭の隅へ追いやった。
「番は一羽だと思っていたが」
「本来ならばそう、葵だけだ。だが、数年前に二羽、子どもを産んでね。番の子は、他の鳥よりもよき番となることが多いから、養育して空に返し、いずれ他の者の番となるのだが…」
「なんだ、なつかれたか?」
からかうようにそう言えば、時臣は困ったように笑った。
「いや、一羽…この桜は、番となった男とその家系がどうしようもなくてね。彼の騎士階位が剥奪されたときに取り返してきた。妙なものを入れ込まれてしまったせいで羽色も治りつつはあるが、この様だ。また番が出来るまでは私の保護下にある」
「その口振りは、もう一羽もか?」
「もう一羽、凜は番がいるにはいたのだが、昨年戦死した。捜索隊に私の目として同行させたから、今はいないよ」
「…」
「少しは落ち着いたかな、ギルガメッシュ。神殿に行きなさい。そこでこれからどうすべきか、自分で選びなさい」
そう言った時臣は、柔らかい笑みを浮かべていた。この状況は彼からすれば未曾有の危機であろうに、ずいぶんと落ち着いている。

―余裕をもって優雅たれ
それが家訓だと、宣っていた記憶がある。その在り方は、ここでも同じらしい。

ばさり、と二羽の鳥が高く飛び上がる。視界を共有する必要がないからか、あるいは信頼しあっているからか、時臣は笛は構えない。ステッキ剣を逆手に持ち、鎖はいつでも対応できるようにか、またひゅるひゅると時臣の周りを回っている。
そんな時臣を狙うかのように、数十体に及ぶ魔物が空に現れ、埋め尽くす。
「…《我が敵の火葬は》」
ヒュオッ、と、時臣の鎖が音を立てて空を切る。どれだけ長いのか、あるいはギルガメッシュと違って複数本あるのか、大きく網のように広がった鎖がその数十体を容易に包み込む。
ステッキの赤い珠玉が、光を放つ。
「《苛烈なるべし》!」
鎖を道しるべとするように、珠玉から迸った炎が勢いよく空へと登り、魔物を燃やす。鈍い悲鳴と、焦げる臭いが辺りに蔓延する。彼の鳥は、取りこぼした魔物をその炎の方へと追いやっている。
「…」
ギルガメッシュはそれを見て、踵を返し、なんとなく覚えている神殿の方へと足を向けた。彼の戦い方は初めて見たが、なるほど彼らしい。

大人しそうに見えて荒々しい。
無害そうでいて、その実苛烈だ。
何より、おくびにも見せないその秘めたる想い、意思の強さが、顔に似合わぬ激しい炎によく現れている。

穏やかな口調、たおやかな仕草からは想像できない苛烈さというものには、覚えがある。
そう、その在り方は、確かに、似ている。

「(…馬鹿馬鹿しい。またあの雑種の精神干渉の影響でも受けたか?)」
ギルガメッシュはまた、ふるふる、と頭を振り、頭に沸いたくだらない考えを追いやった。