2018-1-4 23:43
「……………いつから…………」
「うんうん」
さて、最近から、としか漠然と考えていなかったが、果たしてそれを自覚したのはいつが初めてだったろうか。
うーん、と、唸りながら思考を巡らして、ふ、と思い出す。確か息苦しさを初めて感じたとき、季節が正月で、藤丸の出身地である東洋の伝統的な料理、餅とやらが口にあい、それを食い過ぎたせいかと考えたことがあったはずだ。となると、少なくとも正月、つまり年明けには感じていたことになる。
いや、もしかしたら本当に餅の食い過ぎだったかもしれないのだが。
「……あぁ、年を越したくらいから…ですかね。少なくとも最初の自覚は、それくらいかなと」
「年を越したくらい…四つ目の特異点の修復を終えて、その調節も終わって、少し経ったくらいか」
「そう、なりますね」
そう答えると、ロマニは不意に表情を険しくさせた。
それだけで彼は焦ってしまう。なにか墓穴を掘っただろうか、まずいことを言っただろうか。
だがその彼の心配は、杞憂に終わった。ロマニは彼の手から手を離すと、ぱふ、と彼の顔を両手で挟んだ。
「………となると、あの時に出てきた魔術王の影響の可能性が若干あるね」
「へっ??」
ロマニは瞳孔を確認したり魔術回路の様子を見たりと、ポカンとしている彼を置き去りに診察を始めた。
魔術王とは確か、第四の特異点で姿を見せた敵の親玉だったな、と、ポカンとしながらも思い出す。確かにあの姿をモニター越しに見たときに、嫌な寒気を感じたのは覚えている。
――だが、それが?
そんな彼の疑問に答えるように、ロマニが口を開いた。
「藤丸くんが前に一週間くらい、昏倒したことがあったろう?あれもどうやらロンドンで姿を見せた魔術王を名乗るサーヴァント、奴が関係していたみたいだったからね。君は確かあの時司令室にいたね?」
「え、えぇ」
「なら、干渉を受けていても不思議はない…でも隔週でやってるメディカルチェックに異常は出てなかったよなぁ…でもメディカルチェックに出たなら藤丸くんのも予見できたはずか、じゃあメディカルチェックでは分からない領域への干渉…?」
「い、いや、あの、多分そんな大袈裟な事じゃないと…!?」
あれこれと身体の調子をみながらぶつぶつと推測をのべていくロマニに、彼は慌てて口を挟む。
いくらなんでもそんな大きな事態ではないだろう。第一、そうであるならば、ロマニ含めあの時司令室にいたスタッフは全員影響を受けて、大なり小なり自分と似た症状が出ているはずだ。そういった話は聞いていない。
「全員に似た症状が出るとは限らないよ、特にそれが、魔術や神秘によるものならね」
「!」
その憶測を話そうとした彼の言葉を見透かしたようなロマニの言葉に、彼ははっとロマニをみた。脈拍をみていたロマニは、視線をあげ、彼の目をみる。
「藤丸くんだって影響を受けたのは間が空いた。君が息苦しいのが冷凍保存室のみ、というのも、気にかかる。あそこは、マスター候補生がいるところだからね…」
「……そ、その………ただの、精神的な、理由とか」
「その可能性もあるかもしれない。でも、最悪のケースも考えておくべきだ。とりあえず一度、ちゃんとチェックしてみよう。何、調べてなにもでなければ可能性がひとつ潰すことができると思って!」
「で、でも…そ、そんなリソースを、割くのは…」
――確かに、なにもでなければ可能性を潰すことができる。そんなことは、当たり前の考えだ。
でも、もしもそれで、何か出てしまったら?その時本当に、自分は、
「君にいなくなってしまわれると困るんだ。だから、原因は究明しないと。その為に割くのであれば、それは必要なリソースの消費だよ」
そう言った力強いロマニの言葉に、彼は思わず息をつまらせた。