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我が征く道は73

その日の夜。
「………んっ」
使い魔を町中に放ち、なにかに反応があるまでのんびりすごそう、と、ホテルの部屋のベッドでごろごろしながら、なんとなく酒をかっくらっていた凪子は、ぴくり、と反応して身体を起こした。
昨晩鶴の位置を探るのに使ったコンパスを床に放る。ころころ、と床に転がって止まったコンパスは、キィィ、と音をたてて中央の紋章が消え、ホログラム的に冬木市全域の地図を表示した。
点々と、ところどころに赤い光が点っている。おそらく鶴がいるところだろう。
「…、ん?あの少年の家か」
1つだけ、点滅している光があった。場所は衛宮邸だ。
下着姿でごろごろしていた凪子は、それを確認してベッドから降りた。手早く防寒に良さそうな洋服を着込み、コートと鞄を装備すし、ルーン飴を口に放り込む。
「さぁて、行きますか!」
あらかじめテープに作っておいた魔方陣を掌に貼り、点滅している光を握りしめる。
「我を導け白き鳥 汝の世界を私に寄越せ」
キィィ、と強い光が指の間から漏れ出、一瞬のうちに凪子を飲み込んだ。



 「よっと」
そうして凪子は、折り鶴の場所へと現れた。一枚の紙となったもと折り鶴を拾い、丁寧にたたんでポケットにしまう。
キョロキョロと辺りを見回すが、サーヴァントの気配はない。
「んー?確かに人為的な魔力変動があった………あ、」
おかしいな、とうろうろとしていると、士郎が玄関から出てきた。この前見かけたときはライダーに腕を貫かれていたが、どうやらその傷はすでに治っているようだ。
「(…あぁ、アヴァロンって治癒能力みたいのあったんだっけな、そういや)」
だが、彼はセイバーも連れておらず、何より起きている様子がない。
不思議に思い、じ、と目を凝らせば、なにやら魔力で編まれた糸が絡み付いている。
「おやおや、釣られてやんの」
士郎が寝ているらしいことをいいことに、凪子はそんな風に呟く。魔力の雰囲気からして、恐らく招いているのはキャスターだろう。
「まぁ、セイバーは最優のサーヴァントなんて言われるしね。厄介なものから潰していくタイプか。まさにそんな感じするわ」
そんなことを言いながら、凪子は50メートルほど距離をとって、士郎のあとを追跡することにした。

 深夜の町は、キャスターの技の効能が強まっているように感じる。ずいぶんと遠慮がないものだ。殺すまで吸いとらない分マシと思うべきか。
士郎はふらふらとした足取りで、柳洞寺へとたどり着いた。凪子の予想は当たったらしい。
「(…さすがに今回、アサシンは通してくれないだろうな)」
そう判断した凪子は一旦追跡をやめ、側面から柳洞寺に入ることにした。寺の結界は、凪子には効果がない。であるなら、ここはセオリー通り、こそこそと行くべきだろうと判断してのことだった。
「(よいせ、よいせ、と……)」
鬱蒼とした林のなかを通る。アサシンに気配が気取られないよう、慎重に音をあまりたてないようにして進むため、士郎とは距離ができてしまっただろう。
「(ま、いいか。セイバーがいつ気が付くか…って程度だしな。セイバーのマスターがどうなろうが正直どうでもいいし、っと)」
林のいりくんだ中を苦労しながら進むこと10分、ようやく凪子は寺の壁へと突き当たったを
「(よっ、と)」
ぴょん、と軽く跳躍して、塀の屋根に飛び乗る。
夜の寺は、それはそれは静かだった。キャスターの本拠地直下なのだ、寺の住民もさぞかし死んだように眠っていることだろう。
きょろきょろ、とその位置から士郎を探すと、キャスターと向かい合っているのが見えた。
キャスターにはルーン飴程度ではバレてしまうので、寺に隣接して生えている木の中から丈夫そうな一本を選び、そちらへと飛び移った。
そして、腰を落ち着けるところを決めると、その場所にも直接ルーンを刻み、観戦体勢に入った。
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