青い、いや蒼い。それは不健康な蒼白だった。更に所々が膿んだ肌の様な色に変色し、こびりついた血痕を思わせる暗赤褐色が混じり、骨を思わせるアイボリー質の何だかよく判らないものがひしゃげて飛び出している。
 極めつけに、それらの上からトロリとした透明な蜜に似た液体が注がれていて、てらてらと虹色に輝いている。そこだけが妙に綺麗な色彩を持っているが為に、却って屍肉を伝う体液を連想させた。
 恐ろしいのはこれが皿に盛られて食卓に置かれていることだった。

「さぁ諸君、歓喜したまえ。お土産だよ」

 蒼髪の青年は穏やかに微笑んだ。
 青年を取り囲む様に集まっていた子供達は、その発言に思わず皿を二度見した。お土産と言われたが、これは一体何なのか。悪趣味なオブジェではないのか。そして何故この青年は誇らしげなのか。

「……わかりました!」

「……わかりましたよ!」

 たっぷり数拍の後、淡い水色の髪の童子と薄い桃色の髪の童子が異口同音に叫んだ。

「これはっ……! レファルさんお手製の不気味色にまみれたケーキ!」

「これは……不気味色にまみれたケーキっ! レファルさんお手製の!」

 ぴたりと揃った二人の声を受け、

「ふふふ、正解だよ二人共!」

 レファルと呼ばれた青年は両腕を広げ、高らかに言い放った。

「ケーキ!?」

「ケーキなのかこれ!? つか食べれんの!?」

「危険なの、すっごく危険なのぉ……!!」

「おやおや、何やら失敬だね諸君? いやなに、大したものではないよ。この私の手作りだからね。だから遠慮なく皆で分けたまえ」

「そういうのはまず見た目をおいしそうに作ってから言ってよ!!」

「この前の変死体風クッキーといい、毎度毎度気持ち悪いもんばっかり作って!!」

「そう、あの時の反省を生かして質感にはこだわったんだよ! ここに飴を流し込んで形を……」

「やべぇ、語り始めた……!」

「長くなるぞ!」

「危険なの!」

 嬉々として語り出すレファルに、子供達は後退った。部屋の外から様子を伺う者もいる。
 ここは交易都市にある孤児院である。
 レファルもかつてはこの孤児院で育った。時折こうして自作の菓子類を土産を称して振る舞いにやって来る。しかし肝心の出来は、見た目が奇抜な代物ばかりで、子供達にとってはあまり嬉しくはなかった。

「どうしたのかね諸君? 私の子供の頃なんて、ケーキはおろかお菓子さえろくに食べられなかったんだよ? なのに君達ときたら、ケーキ相手に悲鳴とは、随分と贅沢ではないか。これはとても困り者だね!」

「いきなり説教入ったぁ――!?」

「ハク、君もあの頃を共に過ごした仲だろう。食生活改善は大いに結構だがね、それで大切な物を見失ってはいないかね? 何なら私から院長代理に直判談したっていいんだよ!?」

 突然矛先を向けられたハクと呼ばれた娘は、何がおかしいのか、くすくす笑い始めた。

「何を笑うのかね?」

「いえ、レファルさんは相変わらずだなぁって。待って下さいね。今、切り分けますから」

「……白堊は慣れていますね」

「慣れていますね……白堊は」

 水色と桃色の童子達が揃って呆れた。
 ハク、もとい白堊は、孤児院の子供の中では最年長である。彼女はレファルより二つ程年下で、レファルにとっては可愛い妹分である。白堊もまた子供の頃からレファルを慕っている。

「みんな怖がらないの、大丈夫だよ。見た目が独特なだけで……」

 騒ぐ子供達を宥めつつ、白堊はナイフを入れた。
 ごぼり。気泡を伴って赤黒い粘性の液体が溢れて来た。

「……味は普通に、普通だから」

「何一つ安心できないの!!」

 しかし結局のところ、子供達はなんだかんだ文句を言いつつも完食してしまうのだった。それは白堊が率先して食べるからであった。

「レファルさんの作るものなら、少なくともお腹は壊さないから大丈夫だよ」

 レファルにレシピなどをあれこれ質問しながら白堊はふわふわと笑い、まさか今度作る気ではないだろうかと周囲を戦々恐々とさせた。