1月12日に遭難したクマが、マジカルレターを送ったワケSS。
基本的にクマは送らん奴な気がするワケですよ。
PL的事情で人寄せパンダならぬ、人寄せクマになってもらうために手紙書いたけど、基本的にクマは「誰かー助けてください―」は、ギリッギリのギリッッギリ。死ぬ。俺死ぬ。俺が死ぬ。ちょいちょいちょーい!までやらぬ気がするんですよ。
下手したら「死んじゃった仕方ないね」まで書かないと思(ry)
というワケで、遭難した直後、何があったかをSSにしてみる。
文章滅茶苦茶。日本語崩壊。もしかしたら、どっかでポカしてイベ内容のネタバレにつながる何かが書いてあるかもしれない。
そんな仕上がりのSS。色んな意味で寛大な人向け。
よろしい方は続きから、どうぞ。
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「だから…」
暗い狭い部屋の中で、少女は大きく息を吸った。
「アンタと一緒なのは嫌だったのよーーーッ!!」
細い身体を震わせ、彼女は隣の青年の耳元へと力一杯叫ぶ。
見た目は14歳ぐらいの少女。その耳はエルフであることを示すように長い。
対して、怒声を向けられた青年の耳は短かった。その耳を両手で塞ぎながら、青年も叫び返した。
「だーかーらー! 悪かったって! 俺が悪かったよ! だけど、もうやっちまったんだから、しょーがないだろ!?」
言い訳がましく両手を広げる青年は、20歳になりたてぐらいだろうか。そちらへと、腰に手を当てた少女は冷ややかな瞳を向けた。
「はあ!? 開き直り? バカなの? 死ぬの? アンタのせいで、アタシたちがこんな目に遭ってるのよ!? わかってんの!?」
「わかってるよ! だから、こうして謝ってるんだろ!?」
「どこが謝ってんのよバカ!! 謝るんだったら、地面に頭押し付けて『申し訳ございませんでした。以後、シャンディ様のお伺いを立ててから行動します』ぐらいのことを言ってみたらどうなの!?」
「誰がンなこと言うかバーカ」
「はぁああ? アンタに拒否権なんて、小指の先ほどもないのよっ! 少しは反省の態度を見せたらどうなの!?」
「反省の態度見せてどうにかなるのかよ! 今はそれどころじゃないだろッ?」
「だとしても、それをアンタが言うんじゃないわよッ!! 元凶は全部…!」
「…まあまあまあまあ。こうなった以上、怒鳴り合っても仕方ないし…まずは、座って深呼吸でもしようか」
額をくっつける程に顔を寄せ、いがみ合う二人へと間の抜けた声が仲裁に入る。
振り返れば、声をかけた中年はへらっと二人へと笑いかけた。
顔は人間だが、耳は尖り白と銀の体毛に覆われていた。同じように、両脚も毛で覆われ、靴をはかぬ足には鋭い爪が伸びている。
獣人、しかも獣に詳しければ、それが熊であることは、暗がりの中でも認識出来るだろう。
立ったままの両人に対し、その獣人は既にあぐらをかいて床に座り込んでいる。
その悠然とした姿に。もしくは、危機感のない様子に、二人の毒気も抜かれたのか、顔を見合わせ黙り込むと、しぶしぶといった様子で同じように床へと腰を下ろした。
二人が静かになったのを確認して、獣人は周囲をぐるりと見渡した。
ランタンの明かりでぼんやりと照らされる壁は木製で、古びた色合いをしている。頼りない明かりが照らす床も、壁と似たようなものだ。
部屋の大きさは狭く、4人が雑魚寝をしたらいっぱいになる程度の大きさ。
だが何よりも、その部屋には扉がなかった。
ダンジョン内の一室。だからこそ、窓がないのは当たり前だが、扉がない上に開閉したような跡がどこにもない。
そもそも、どうやってこの部屋に入ったのか。
不思議なことに、三人ともはっきりとは思い出せなかった。
「……多分、何かの罠に引っかかったと思うんだけども」
「全部、ヒューのせいよ! アンタが余計なことするからッ!」
「だから、もうやっちゃった後なんだから、仕方ないだろ!?」
「ハイハイハイハイ。気持ちはわかるけど、……ケンカは後にしようね」
困り顔で笑うと、獣人は二人の肩をぽんっと少し強めに叩いた。それから表情を改めて、苛立ちを全身から立ち昇らせる少女へと向き直った。
「シャンディちゃん。ここにいて、魔力的な何かとかって……感じる?」
問いかけられた事柄に、少女は獣人を見やると、一度深呼吸をした。改めて意識を部屋全体へと向ける。
部屋の中にあるかもしれない魔力の流れを探るも、何も彼女の意識にひっかかるものはない。
「魔力らしいものは、感知出来ないわ。ただ、さっき見てた通り、壁へと攻撃魔法を放っても、まったくダメだったから……魔力干渉をする何かがあるんだと思う」
「……そっか」
「俺の方の魔法もダメだったな。壁に当たった瞬間。掻き消された、みたいな?」
「正確には、吸い込まれた、だと思う。あくまでもアタシの感覚だけど。
魔法がダメで、……物理攻撃もダメだったわね」
再度確認するような声に、獣人はのんびりとうなずいた。
「うん。俺が……100%中の100%、フルパワー! ……で、殴っても傷一つつかなかったね」
「……熊獣人の怪力で殴っても傷が付かないって、どんだけだよ」
呆れと諦めの混じった声でぼやいた青年は、その場に寝転がった。
そちらへと、獣人も苦笑を洩らすと天井を見上げた。
天井だけは、部屋の狭さに対して高かった。ランタンの明かりも届かぬ天井では、闇が溜まって何も見えない。
「なあ、シャンディは転送術使えるだろ? 俺たち、全員転送出来ねえの?」
青年は寝転がったまま、ごろりと首を少女の方へと向ける。
そちらをちらっと見た少女は、あからさまに呆れた声と目を向けた。
「そんなの……とっくに試したわよ。アタシだけでも出れないか、って。
だけど、魔力を吸われただけで、術すら発動出来なかった。マジカルレターも、もしかしたら使えないかもしれないわね」
「え? じゃあ、助けも呼べないってことかッ?」
その時になってようやく危機感を覚えたのか、がばっと上体を起こす青年へと、「だから」と少女は自分のこめかみを押えた。
「さっきから文句言ってるんでしょ!? アンタがあんなもの……!」
「まあまあまあまあ。怒ったって、体力使うだけだよ。
マジカルレターがダメだったとしても……ものは試しだし、一回やってみようか」
手を伸ばし、獣人がぽんぽん、と少女の頭を撫で叩く。どこまでも、呑気な様子の獣人に、少女は文句言いたげに唇を尖らせた。
それでも、何も言わずポーチからマジカルレターを取り出した。さらさらとランタンの明かりを頼りに救助依頼の手紙をしたためる。
その手紙を封筒に入れ封をすると、いつもと同じように空中へと投げ上げた。
投げ上げた先の空へと、淡い光を放つ魔法陣が現れ、手紙を吸い込む。
吸い込もうとした。
だが、手紙が魔法陣に触れた瞬間、魔法陣の光は弱まり、ふ、と掻き消えてしまう。
ぱさり、と落ちた手紙。それを拾い上げた青年は、瞬時に眉をしかめた。
「……おい、シャンディ。お前、宛先書いたか?」
「何言ってんの? マジカルレターは宛名を書かなきゃ届かないんだから、当たり前でしょ?」
「……見てみろよ」
そうして、差し出された手紙に宛先はなく、まっさらになっていた。
掠れた、滲んだ、というのではなく、文字そのものがなくなっていた。それどころか、封筒についていた花の装飾すらも消えてしまっている。
「……何よこれ」
慌てて開封し、先ほど書いた便箋を広げる。
そこに書いてあったであろう文字も、全て消えてしまっていた。それこそ、紙に筆圧すらも残さず、全て真っ白になった便箋。
「……参ったね」
上体を傾けて手紙を覗き込んだ獣人も、さすがに眉を寄せた。
このままでは、救助はまず来ない。内側からの脱出も、今のところ難しそうである。
重い沈黙が場に落ちる。
パニックになって叫ぶような者はいなかったが、焦りが思考を空回りさせる。
何か策を、と思うも具体的な案は何も浮かんでこない。それがさらに気持ちを焦らせ、三人は真っ白の便箋を見つめて、黙りこくった。
その時。くしゃり、と便箋を握りしめた少女が、ふいに呟いた。
「……重ねがけをすれば、外まで届くかもしれない」
「重ねがけ?」
少女の声に反射的に青年が問いかける。そちらへと、少女は小さくうなずき返した。
「ええ。マジカルレターの封筒を二重にして、その封筒にもそれぞれにアタシが転送術の術式を書き込むの。何重にも転送術を重ねがけして……そうすれば、外側の魔力を吸っている間に、内側の手紙だけでも転送出来るかもしれない。
やってみないと解らないけど」
「よしやろう! とにかく思いついたこと、片っ端からやろう! じゃないと、ここでミイラになっちまう!」
ばっと身を乗り出して、叫ぶ青年へと少女は半眼で睨みつけた。
「アンタは本当に調子いいわね。転送術の重ねがけ、って言うのは簡単だけど、それぞれの術が干渉し合わないように調整して……しかも、相当魔力を食うのよ?
人間を転送するより質量が少ないから、上手いことすり抜ける可能性はあるけど……一回やったら、しばらくは何も出来ないわよ」
しかも、上手くいかない可能性の方が大きい。
無意識に親指の爪をかじる少女の頭を、再度、大きい獣人の手が撫でた。
「でも、……他に良い案も浮かばなそうだし。お願い出来るかな」
和ますつもりかへらりと笑いかけてくる獣人に、少女は眉を寄せた。
表面上だけなのか、それとも本気で呑気なのか。それが読み取れず、盛大な溜息をついてから、意味もなく腰に手を当てる。
「……仕方ないわね。どいつもこいつも、結局はアタシがいないと何も出来ないんだからッ」
「その通りでーす!」
「……ぐうの音も出ないね」
肯定する二つの声は、明るい。それが空元気であったとしても、その空元気すら今この現状には必要なものだった。
少女はナイフで指先に小さな切り傷を作り、持っていたインク瓶へと血を垂らす。その血の混じったインクで、マジカルレターへと転送術を書き込んでいく。
見たところでさっぱり理解は出来ないが、つい固唾を飲んで二人は見守った。見守るしか出来ることがなかった。
そんな彼らへと、顔を上げることもなく少女は言い放つ。
「アンタたちも、誰に送るか今の内に考えておきなさいよ。今書き込んでいる術は、マジカルレターと同じ構造にしてるから、宛主へのイメージがしっかりしないと届くものも届かなくなるからね」
「え……アッハイ」
「え? ……俺も書くの?」
間の抜けた声をあげる二人へと、少女は呆れた目を一瞬向けた。だが、すぐに封筒へと戻して、カリカリと術式を封筒に書き込んでいく。
「『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』よ。それぞれ三人が、別々の人に一通ずつ送れば、届く確率もあがるでしょ?
ただ、さっき言った通り、はっきりイメージ出来る人がいいわね。二人とも友達ぐらい、いるんでしょ?」
当たり前のように尋ねる少女に、青年は無駄に胸を張った。
「あ、当たり前だろ!? 俺には友達100人いるんだからな!」
「ああそうだったKYのヒューにお友達なんていなかったわごめんごめん」
「棒読みやめろよマジで!!」
涙目で叫び返す青年に、少女は無言で封筒へとペンを走らせ続けた。
ガン無視な状況に、落ちる青年の肩を獣人が叩いた。青年を力づけようと、しっかりとした声を向ける。
「俺も……友達少ないから、大丈夫だって」
「それって何のフォローにもなってないんですけど!? むしろ絶望じゃね!? この状況で友達少ないとか!!」
ツッコミ続ける青年の肩をまた数度叩いては、獣人はへらっと笑いかけた。
「まあ……友達は数よりも、どれだけ信頼できるか、みたいな方が大事なんじゃないのかな?
どっちにしろ、俺……カトランデには知り合い少ないから、まず送れる気がしないけど」
「やっぱり状況的には危機感しかつのらねえ!!」
絶望感から頭を抱えてのけぞる青年。そちらへと、ははは、と呑気に声を上げて獣人は笑った。
そのどこまでも緊張感のない様子に、少女は和む気持ち半分、呆れ半分で深いため息を洩らした。
「カトランデじゃなくても、この部屋から手紙が出れば、あとは普通に届くはずよ。だから、確実にイメージ出来る友達が一番ね。
ちなみに、パケットの友達はどこにいるの?」
「うん? 俺? 俺の友達は……ペティット、かな」
「ペティットなら、冒険者ギルドからカトランデの冒険者ギルドに、連絡を送ってくれると思う。大丈夫よ」
少女からの返答に、獣人は一つうなずいた。
ふと、獣人の視線が脇に置かれた荷物へと向かう。
そこには小さなクリスマスリースと、木彫りの子熊がぶら下がっていた。
木彫りの子熊はつい先日届いたばかりのもので、こんな状況下でも送り主からの手紙を思い出して目元が和らぐ。
ただ、その送り主たちに手紙を送る気にはなれなかった。
無闇に心配をかけるぐらいなら、ずっと黙っている方がいい。
それは、ぽつぽつと脳裏に浮かぶ人たちに対してもだったが、今回は自分以外の同行者がいる。
自分だけならば自己責任として餓死もやむないが、今回はそうも言っていられない。
「……毎度毎度、迷惑かけてばっかりだけど……やっぱり、彼がベストかなあ」
ぼそりと呟いては、息を吐き出す。
彼ならば冒険者ではないし、無茶とわかる危険を冒すほど、無謀でもないだろう。
旅行に行くと言っていたから、それを台無しにしそうでもあり申し訳なさが先に立つが、他の友人に送るには色々と思うところもあり、気が引けた。
「……まあ、確実にイメージ出来る相手で、冷静に対処出来て、かつ自らは助けに来ず、迷惑かけれそうな人って言ったら、ここらへんが妥当なんだよなあ」
ふと、別の方面で迷惑をかけている人々の顔も浮かんだが、苦笑して首を緩く左右に振った。
そうして、彼もポーチからマジカルレターを引っ張り出して、文面を書き始めた。
◆◆◆
びっしりと呪文の書き込まれた封筒。
そこにそれぞれが手紙を入れて、封をするとしっかりと手元に握りこんだ。
「じゃあ、アタシからいくわよ」
緊張した面持ちで告げる少女へと、無言で青年がうなずいた。その隣の獣人は、いつもの調子でのんびり構えている。
少女は目を閉じ宛主への顔を強くイメージすると、ぱっと手紙を投げ上げた。
ふわりと現れる魔法陣は、最初と同じように手紙が触れる寸前でふっと掻き消える。
だが、次の魔法陣が前の魔法陣が消える途中で現れた。それも消える、その最中に次の魔法陣が現れる。
転送の魔法陣が次から次へと重なるように、ブレるようにして現れ、消え、そして、手紙はず、ず、と少しずつ現れ消える魔法陣へと飲み込まれていく。
時間にすれば数秒。されど、長い数秒ののちに、するっと最後の魔法陣へと手紙が吸い込まれた。
「やった!」
拳を握り、歓喜の声をあげる少女へと「やったぞー!」と、全身で喜びを表した青年が抱きついた。
その行為に、少女は握った拳を的確に脇腹へと叩き込む。
「ぐふ……っ」
非力なエルフながら、肋骨と肋骨の間に拳先をめり込ませる的確な急所狙いに、青年は床に倒れ込んだまま起き上がれなかった。
それを冷ややかな視線で少女は見下す。
「調子に乗ってるんじゃないわよ。調子に乗るぐらいなら、いっそ乗りこなしなさい」
「き……肝に、銘じて……おき、ま……す」
痛みにプルプルと震える青年から目を上げ、少女は獣人へと声を向けた。
「次はパケットの番よ」
「……ハーイ。はいよ、っと」
ぽいっと気楽に投げ上げられた手紙は、先ほどと同じように干渉する「何か」と争い、魔法陣が次から次へと現れる。
手紙はじりじりと魔法陣へと向かっていたが、ある所で妨害をすり抜けたように、するっと魔法陣へと吸い込まれた。
その手紙を見守っていた獣人は、手紙が消えたタイミングで「あ」と急に声をあげた。
「……失敗した」
「え!? 何が!?」
手紙の転送を同じように見守っていた少女は、獣人の呟きに驚き振り向いた。
転送は上手くいったように見えたが、自分でも察知出来ない何かがあったのだろうか。手紙の消えた空中と獣人を交互に見やる。
そちらへと、苦笑混じりに獣人は手を左右に振った。
「いや……ごめん。こっちの話。単に……人選ミスした」
よくよく思い返せば、もっと適任者はいたのだ。それこそ、口の固い、無駄に気が利く。
ただ、料金は高めに取られてしまうかもしれないが。
「……俺、意外と動揺してるのかも」
ぼそりと、口の中だけで呟く。
少なくとも「友達」「イメージのしっかりした相手」というキーワードに、意識を縛られるほどには、動揺しているらしい。
「しかも、口止めするのも書きそびれた。……まあ、ギルドに伝われば、それなりに気付かれるかもしれない、か」
眉間にわずかにシワを寄せ、言葉にせぬ想いを溜息に混ぜて吐き出す。
失敗したなあ、と首筋を手の平で擦っている合間に、起き上がった青年もまた手紙を投げ上げていた。
魔法陣に消えた手紙は三通。
それが届くかどうかはこちらから知ることも出来ないが、やれることはやった。
途端に、ふ、と三人の身体から力が抜ける。
打つ手を打った後の、虚脱感。
それをしみじみと感じる前に、「さて」と獣人は声をあげた。
「それじゃあ……やることもやったし。あとは……」
「あとは?」
言葉を引き取るように繰り返す青年へと、獣人はへらっと笑った。
「寝ようか」
「はあ?」
呆れた顔をする青年の前で、当たり前のように荷物から毛布を引っ張り出す。その姿に、黙って目を丸くしていた少女も「そうね」とすぐに小さく笑った。
「やれることはやったし、あとは救助が来るまで、寝て待ちましょ」
「ちょ……それでいいのかよ! 他にもっと……」
「他にもっとやることを思いついたら、その時やればいいでしょ? そのためにも、今は体力の温存よ」
「……そういうこと。食料と水は……どれぐらいある?」
毛布を出した後の荷物を調べながら、獣人が問う。そちらへと、二人も自分の荷物を確認した。
ここに降りてくるまでに、食糧もそれなりに消費してしまったが、帰りの分として確保していたものがある。
「俺は、残り三日分、ってとこかな」
「アタシも似たようなものね」
「……じゃあ、最低でも一週間はその食糧で食いつなげるね。もし、水が尽きたら……ひとまず、服のボタンでもなんでも、口に含めば唾液が出る。それで、一旦は凌いで……空気もあるみたいだから、空気中の水蒸気から水を取り出すことも出来そうだね。
水があれば、更にもう一週間は保つよ」
「水なら、魔力が回復すれば、アタシが魔法で出してあげるわよ」
「それは助かるね。なら、……二週間は確実に保つね」
ざっとした計算だが、それでも具体的な数字が出れば、その日数まで耐えればいい、という気になってくる。
日も見えぬ、時間もはっきりせぬが、眠っていればことさらそこに意識を裂かなくてもいい。
食糧が尽きた、その先のことは考えたくもないが、まずは目の前にゴールを用意する。それだけで一時でも絶望感を解消し、錯乱するのを押さえることが出来る。
あと問題があるとすれば、実際に寝れるかどうか。神経が立って、横になっても眠れず、精神力を消耗するのはあまりよろしくない。
「一応……何かあった時のために、俺が見張りやっておくから。眠れないようだったら、膝枕…してあげるよ。もふもふとは言えないけど」
ぽんぽん、と自分の膝を叩く獣人に、荷物から防寒具や毛布を出して準備を始めていた二人は変な顔をした。
そちらへと獣人は、呑気な調子で笑いかける。
「ホラ、一人でいると……やっぱり不安だろ? 固まって寝てれば、相手の体温を感じて……少しは落ち着くよ」
言われれば納得したのか、毛布や防寒具にくるまって獣人のそばへと寄ってくる。
「……変なこと、しないでよ」
じろっと睨んでくる少女へと、「ハイハイ」と獣人は笑って頭を撫でる。
その対応に安心したのか、寝る位置を定めると少女は毛布をかぶり直した。
反対側では青年が獣人の足の毛を撫でている。
「確かに、もふもふじゃねえな」
「意外と毛が固いからね。……膝枕、する?」
「いや、野郎の膝で寝る趣味はねえよ」
にっと笑う青年の顔に「だよね」と獣人も笑って返した。
そうして、寝る体勢になる青年を見やってから、高い天井を再度見上げた。
「……さて。助けは来るかね」
苦笑混じりに声には出さず、口の中で洩らす。
今は信じて待つしかない。
ふー、と深い息を吐いてから、獣人も軽く瞼を閉じた。
ランタンの明かりだけが、ぼんやりと室内を照らしていた。