霧香が怪我をしてしまった。
仕事中に待ち伏せを喰らってしまい、なんとか退けたものの霧香が重傷を負ってしまった。
幸いなことに数週間程度の怪我で、後遺症も残らないようだ。
ミレイユは霧香を休めるために仕事はすべて受け取らず、いつでも動けるようにとトレーニングに励んでいる。
今日も朝のトレーニングを済ませ、ついでに朝食の買い出しも終わらせていく。
単車に荷物を載せて、ミレイユはあの時のことを考えていた。
もちろん、ミレイユ自身はどうしてああなったのか理解している。

「…私のせいだわ」

そう、ミレイユ自身の力不足で霧香の足を引っ張ってしまったせいで霧香は怪我を負ってしまったのだ。
霧香は違うと言っていたが、状況から見るにミレイユが足手まといだと思うのも無理はなかった。
ミレイユはため息を吐きながら家の扉を開けていく。
するとそこには、何事もなかったように霧香がベッドから起きていた。

「あ、おかえりミレイユ」


明らかに安静していた方がいいのに、霧香は顔色一つ変えずにお茶を沸かしている。
気が付けば、ミレイユは慌てて駆け寄っていた。

「霧香!安静にしてって言われてたじゃないの!」

自分でも口調がきつくなっていたことは自覚していたけれど、それでもここまで言わないと霧香は止めてくれないだろう。

ミレイユには霧香がこうしている理由が想像できる。

「ミレイユ…、私は平気だよ?」

そう、あくまでミレイユのためなのだ。
ミレイユのせいではない。それを伝えるために霧香は何事もなかったようにしている。
だからこそ霧香の笑顔はミレイユにとって痛々しかった。

「いいから。無理するのだけはやめて。霧香が平気そうにしてるのが一番辛いわ」
「うん、ごめんね」

この時、ミレイユは強くなることを固く誓っていた。
霧香の足手まといにはならない。自分のミスで霧香が傷つくのはたくさんだ。
しかし、そんなミレイユを見て、霧香はミレイユの前に倒れ込むように身体を埋めていく。

「…霧香?」
「ミレイユ、焦ったら駄目」

自分の心を見透かされてしまったのか、ミレイユは思わずドキッとしてしまう。
霧香は何も言わず、ただただ上目遣いでミレイユを見つめてくるばかりだ。
しばらく続いた無言の圧力に耐えきれず、終いにはミレイユ折れてしまうことしか出来なかった。

「そうね、悪かったわ。私ばかり気負っても仕方ないわね」
「うん、私達は二人でNOIRなんだよ。だから、私が怪我をしたのはミレイユのせいじゃない。
私がもっと強かったらこんなことにはならなかったんだよ」

霧香もまた自分のせいで怪我をしたと思っていた。自分が敵を見落としていたから、ミレイユが狙われる羽目になり、庇った結果がこれであると。
結局は二人して似たようなことを考えていたのである。
だからこそ、二人はお互いに表情を緩ませていた。

「大事なことを忘れていたわ。私達は二人でNOIR。
どちらが欠けてもいけないということを」
「うん」

ミレイユは慈愛の表情を浮かべると、霧香の頭をそっと撫でていく。
霧香はくすぐったそうに首をすくめてされるがままにされていた。
やがて、ミレイユは霧香を支えながらベッドへと連れていく。
そのまま霧香を寝かせて朝食の用意を済ませると、霧香の側を陣取っていった。

「とにかく、霧香はしばらく休むこと。無茶はしない。いいわね?」
「うん、わかった」

お互いの考えが手に取るように分かるのか、ミレイユも霧香も今度は霧香自身の身体に負担をかけないようにしていく。
やはり、霧香はミレイユが責任を感じていたことに気づいていたのだ。
ミレイユがその責任から解放されたからこそ、霧香はミレイユに思い切り甘えていく。

「ミレイユ、そんなに見つめられたら食べられないよ?」

ミレイユを茶化すように霧香は穏やかに微笑んでいた。

「あ、ごめん。霧香」

つい照れ隠しでそっぽを向いて、ミレイユは頬を掻いていく。
ほんのりと染めた薄紅色の頬が霧香の心をくすぐって、クスクスと小さな笑い声を立てさせる。

「そんなに笑わなくてもいいじゃない」

ミレイユはぶっきらぼうに言い放ち、さらに表情を赤らめてしまったが、あまり気にしてはいないようだ。
そんなミレイユの様子が愛しくて、霧香はキュッとミレイユの服に手を伸ばして掴んでいた。

「ねえ、ミレイユ。今日一日甘えてもいいかな?」

突然の霧香の一言にミレイユは目を丸くする。
霧香がこんなことを言ってきたのは初めてかもしれない。
そう思うと、ミレイユの中で何か温かいものが込み上げてきた。

「もちろんよ。今日は私に任せておきなさい」

ミレイユは不敵な笑顔を浮かべると、そっと霧香の手を取って包み込むように握り締めていく。
これから起こることを楽しみに思いながら、二人は緩やかな表情で語り合っていた。









新年一発目ということでミレ霧です。ゲームのシナリオを書いている間、少しずつ温めていました



全然正月らしくありませんが、今年も一年よろしくお願いします