「トリックオアトリート!」

家に帰ってくるなり、メイコが満面の笑みを浮かべて叫んでくるものだから、私は思わず目を瞬かせてしまう。

「いきなりどうしたのよ?」
「ほら、聞いた話だと今日はハロウィンみたいじゃないですか」

どうやら『いたずらかお菓子か』という言葉が気に入ったみたいでメイコは期待の込もった眼差しで私に笑顔を向けてきていた。
何かが違うとひしひしと感じて、私は思わずため息をついてしまう。

「それにしても、その言葉は子供達が外でいろいろな家を回って言うものなのよ?」
「細かいことはいいんです。マスター、お菓子はいらないのでいたず…」
「却下」

間髪入れずにメイコの額に手刀を入れて、予想通りのメイコの言葉に頭を抱えて思い切りメイコを睨み付けていた。
とりあえず、メイコが額を押さえながら恨みがましい視線を送ってきているが気にしないことにする。

「マスター、お帰りなさい」
「…マスター、お疲れさまでした」

私達の騒ぎを聞きつけたのか、ミクとルカが玄関に歩み寄ってくる。
なんとなく二人の表情が機嫌良く見えるのは気のせいだろうか?そんなことを思いつつ、私はメイコに話しかけていく。

「ただいま。メイコも二人を見習って…」
『トリックオアトリート!』

「…冗談言うの止めたら?」と言おうとしたところを、まるで示し合わせたかのように二人は笑顔で声を合わせてきた。
妙に機嫌がよく見えたのはこういうことだったのかと、なんとなく諦めた気持ちになって私はとりあえずはと玄関に腰を下ろして靴を脱いでいく。

「はいはい、今から何か作るから三人とも待ってなさい」

そう言って、冷蔵庫の中身を確認しに行こう立ち上がったところ、ミクが後ろから抱きついてきた。

「ミク…、どうしたのよ?」

いきなりミクが抱きついてきたことに驚いて、思わず緊張で身を強張らせてしまう。
メイコといい、ミクといい、いつもと違う雰囲気になんだか不安を隠せない。
そうこうしているうちにミクはゆっくりと口を開いてきた。

「マスター、お菓子はいらないのでいたずらさせてください」
「…な!?」

ミクのメイコと同じ物言いに固まってしまうが、ミクはそれに構わずに私の背後から手を伸ばしてくる。
ミクの小さな手は私の胸を優しく撫でるように触っていき、私は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていくのを自覚してしまった。
しばらくミクからこうして胸を触られたりしていなかったから油断していたのは迂闊だった。

「ミ、ミク!いい加減離れなさい!」

声を荒げて叫ぶものの、ミクは私の胸に手を置いたまま抱きついて離れない。
それどころか、私の背中に頬を擦り付けて機嫌良さそうに私の胸の感触を確かめていく。

「メイコさん、すごいです!
マスターの胸がまたちょっとだけ大きくなってます!」

ミクの言葉に反応して、メイコはにんまりといやらしい笑みを浮かべると、迷わず私に正面から顔を埋めるように抱きついてきた。

「ホントね。マスターとミクが同じくらいの大きさだったのが懐かしいわね」

ミクとそんなに変わらないはずなのに、どうやったら違いが分かってくるのか気になったけれど、今はそんなことを思っている場合ではなく、なんとか二人から逃げ出そうと身をよじっていく。

「…マスター、往生際が悪いですよ」

ついにはルカまで腰回りに手を伸ばしてきて、三人から逃げ出すことができなくなってしまった。

「マスター、今日は目一杯いたずらさせてくださいね」

メイコはそう言うと、私の身体を隅から隅まで触り出していく。
結局、私は成す術もなくしばらくの間三人に囲まれたまま途方に暮れていた。



…ちなみに、後で三人に思い切り説教をしたのは内緒の話。









すいません、羽目を外し過ぎました。反省はしてません。久しぶりに思い切り壊れたのを書きたかったんです



ハロウィンでいたずら話はきっと誰もが通るんだろうなと思いながら書いてました