「………寒い。」


その一言だけ発し、ブスっとした顔で、応接室の上等な皮のソファー…
俺の目の前に座っている男は、意外と寒がりだ。


「…学ラン着れば?」

寒いんだったら、肩に掛けてないでちゃんと着ればいいのに。


「僕がちゃんと学ラン着てたらただの中学生じゃない!」


「は、………あぁ、まぁ…」

ただじゃないけどな。その一言は口を濁す事で言わずに済んだ。


「…なに、学ランプレイとかしてみたいの?」

「……死ね。」


「キミの『死ね』には愛が込められてるよね。」


馬鹿には何を言っても駄目だ。理不尽な返答で俺が負けてしまう。
右腕として、どんな勝負にも負けるわけにはいかない。

負けるくらいなら勝負しない。
……まぁポリシーには反するが、所詮相手は変態。

真っ当に勝負するだけ損だ。



「……それにしても寒い。」


またしても雲雀の機嫌が悪くなった。
寒いのが、そんなに嫌なのか?
それなら暖房の温度上げればいいのに。


「まぁ…雪積もってるしな。」

当たり障り無く返してみる。
そう言えばさっきから、校庭で元気なアホどもが雪合戦やらなんやらしていて煩い。

その中には半袖で走り回る芝生頭と野球馬鹿がいて、同じ守護者として恥ずかしくなった。
あいつ等はただのキチGUYだ。

それにくらべて10代目は笹川との雪合戦中、
笹川に雪球を当ててしまわぬよう、自ら転んだフリをして、顔面から雪に突っ込んでみせた。

なんて、凛々しいお姿。
やはりボンゴレ10代目に相応しいのはあのお方しかいねぇ!!!



――――ガン!
「……ちょっと、何他の男のことなんて考えてるの。」


「〜〜〜〜ッ!」

だからって、本の角なげることなくないですか雲雀さん。


「〜〜なんで、お前に俺が10代目の事考えてたって分かるんだよ!」


「全部口に出てたよ。馬鹿じゃないの。」


………なんか、上から目線で嘲笑われてるんですけど俺。


「それにしてもイラつく。」

わ〜、完全に目が据わってんぞ。


「僕、雪嫌いなんだよね。」


「骸とどっちが、「骸。」


即答ですか。
雪が嫌いな中学生って結構珍しくね?


「あっ、自分が真っ黒なのに、雪は真っ白だからか!」

「…キミ、喧嘩売ってるの?」



ボケたつもりだったのに、どうやら間違えたらしい。


「……群れすぎ」


「は?」


「雪が、群れすぎ。」


………あぁ、なるほどね。


「でも、綺麗じゃね?細かくて、白くて…すぐ消えるところが。」


「そう?」


「美人薄命とか言うけど、雪も綺麗だからすぐ溶けちゃうのかなー…なんてな、」


「ふ〜ん、」

そういう捕らえ方もあるんだ。
なんて、薄く笑い、


「隼人、こっちおいで。」


手招きして俺を呼び世せ、膝の間に座らせ、
後ろから抱き込められる。


「……いきなりなんなんだよ。」


俺の首筋に顔を埋め、その状態から動く気配の無い奴に、声を掛ければ。


「……寒いっていったでしょ。」



その一言で、全てを片付けるずるい奴。


「雪は?嫌いじゃなくなった?」


「……少しは、」



そういうお前だって、俺と群れてるじゃん。
その一言は、俺だけの特権だと解釈し、声には出さず、
飲み込んだ。




キミの言った、綺麗なものが直ぐ消えてしまうという言葉に、
キミがいなくなってしまうんじゃないかと、
どうしようもなく不安になったなんて
(絶対秘密、)



end