珍しく応接室で2人きりになった僕と隼人。
校内巡回中の雲雀恭弥。
そんな奴がの置いていったケーキをむしゃむしゃ食べながら、ニコニコ笑う隼人。
あー可愛い!すごく可愛い!食べてしまいたい!!
あの鳥頭はこの状況を放棄して、一体何を楽しみに日々を生きているんでしょう。勿体無い。
ちなみに僕はと言いますと、知的な本を読んでいるフリをしながら、横目で盗み見て満足しています。
ああ、癒される…
しかし、しかし今、僕には重大な問題が迫っている。
自分より小さい隼人を上から見下ろせば、惜しげもなく第二ボタンまでシャツは外され、この寒い中、シャツの中に何も着ていないので、
成長しかけの白くて柔らかそうな谷間がチラチラと僕を誘惑している。
………そう、隼人の胸が最近急成長を遂げているのです…!!!
貧乳フェチの僕としては由々しき事態。
どうにかして、彼女の成長を妨げなければ…!!
そう、例えばダイエットとか!……ダイエット?
「……隼人、……貴女最近太りましたか…?」
「………」
やはり思い当たる節があるのだろう。食べていた手をピタリととめて、綺麗な瞳が僕を見る。
そりゃあ、それだけ成長すれば体重だって増えるでしょう。僕は、そこを攻めさせて頂きます。
だって隼人、自分の体重も管理できない奴が10代目の右腕になれるはずがない!…って仰ってましたもんね。
…そう、成長を止めるにはダイエット!隼人にする気がないのなら、させてしまえばいいんです!!
―――――むにっ、
「…ほら、こんなにお腹に肉がt、」
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
「ぐふっ!!」
しなるように綺麗に振り下ろされた左腕と、木霊した隼人の悲鳴、
頬に感じたとてつもない衝撃に、その時僕は気付いた。
(嗚呼、これはやり方間違えましたね…。)
************
――――――バン!!
「はやっ……との悲鳴が聞こえたから、とうとう馬鹿が我慢できずに手を出したかと思って慌てて来たけど……すごい手形だね六道。」
扉をブチ破る勢いで応接室へ雪崩れ込み、獄寺を助けようとした雲雀の目の前には、ソファーから吹っ飛んで、床に尻をついている六道骸。
「…えぇ、おかげさまで…。」
手で押さえてはいるが、ジンジン傷む右頬。
セクハラを働いた六道へ、獄寺の左ビンタが綺麗に決まり、
くっきりな手形と真っ赤に腫れ上がる頬に、一切の手加減なしに殴られたことが見て取れる。
「…隼人に何したのさ。利き手でぶっ叩かれるなんて相当だよ。」
「……かくかくしかじか、です。」
「あぁ、それで。」
妙に納得したように獄寺と六道を交互に見て、あからさまにため息を吐く。
いつかこの男に襲われたときように教え込んだ攻撃。
あの時は左ストレートしか教えなかったはずだが、応用してビンタに替えたのは隼人なりの優しさか…。
「本来ならばグーで殴られるべきだったと思うよ。」
そんな雲雀の目の前に、半泣きの状態で床に正座させられている六道。
どんな事情があれ、女の子のお腹の肉を掴むだなんて…
「デリカシーの欠片も無いね。」
「…ですよね……。」
貴様になど言われたくないわ!!それに僕が本当に言いたかったのはお腹じゃなくて胸の話なんです!!という心の声は一切無視。
だって今日は僕が悪い。…そして、本当の話は尚悪い…。
実際自分でも何してるんだと言いたい。そして出来ることなら消えて無くなりたい……隼人の胸と共に…
「見てよ。可哀相に…隼人があんな隅っこで小さくなってる。」
そんな六道の心中を察してか、更なる追い込みをかける。
(こんの性悪…!)
ギッと下から睨みあげるが、そんな視線を横に流し、余裕の笑みを見せる雲雀。
「隼人、そんな隅っこに居ないでこっちおいで。」
獄寺限定スマイルを駆使し、ガチガチに固まっている獄寺を、自分の元へと誘き寄せる。
「……っひばりぃ〜、」
「はいはい、おいで。」
腕を伸ばし、雲雀を引き寄せた獄寺に、そのまま身を預けるようにして抱き込んでいく。
そして、見たか!といわんばかりの勝ち誇った顔で六道にニヒルに微笑む。
「…そのドヤ顔やめてください。」
「黙りな負け犬。」
くっ、……羨ましい…!!!
普段なら、不埒を働くのはどっちかっていうとあの男なはずなのに…!!!
「隼人は全然太ってないよ。あんな奴の言う事気にすること無い。」
「…本当か?」
「うん。むしろ痩せ過ぎて心配なくらいだ。」
優しく頭を撫でながら諭せば、そっか〜と安心したように笑う。
(可愛い…)
当然それを目の前にした雲雀の心は鷲掴み。
蚊帳の外な六道は嫉妬剥き出し。
だからいつまでたっても仲が悪いのだ。
「…でも確かに最近体重増えてきたんだよな…、」
冬だからかなぁ、と落ち込む隼人。
六道め…隼人をこんなに落ち込ませるなんて死刑に値する…!!あとで本物の左ストレートをぶちかましてやろう。うん、トンファー付で。
それにしても隼人…多分その体重の増加分は胸だ。教えてやりたい気は山々なのだがなんと言えばいいのか…
「それは胸が育ってきたからだよ。」
なんて言ってしまった日には、第二の餌食になるのは目に見えている。
……でも実際さっきから少し腕に当たっててなんかこう…ムラっとくる。
でもダメだ。下手は言えない。怖い。
「えーっと…うん、そうかな?あまり見た目じゃ分からないけど…、」
「は?お前そういうのには敏感に気が付くじゃん。」
しどろもどろで答えるが、あっさり逃げ場を奪われる。
だからと言って本音は言えない。言ったところでビンタは確実。更にダイエットまですると言われたら…勿体ない。
(なんか…殴られてもいないのに、頬が痛くなってきた)
自分で教えた左ストレートに恐怖する日がこようとは…、
「いや、本当、太ってないよ…ちょうどいい。うん、そう、ちょうどいい…。」
「目ぇ泳いでんぞ。」
くっ、…普段鈍感な癖にこういう時だけ…!!
「やっぱ…俺、太ったのかなぁ…、」
悲しそうに言う隼人に、何か声を掛けなくては…と、思ったところで思い出した。
(六道、アイツ…たしか貧乳フェチだ…!!)
昔、「女性のあのムニムニしたタプンタプンな触り心地がどうしても…」とかほざいてた気がする。
…そうだ、間違いない。その時に隼人に左ストレートを教えたんだった。(あまりにも隼人の胸の発育が悪かったから。)
隼人の胸が成長するのが嫌で、隼人にダイエットさせようだなんて…、
(なんとしても阻止せねば…!!)
別に自分は巨乳フェチでもなんでもないが、(どっちかっていうと足専門)六道好みの女に育つのだけは嫌だ。
だけど、今のままでは隼人がダイエットを始めてしまう…。
なんか、なんか言い言い回しはないのだろうか…
「…おや、雲雀君は僕の魂胆に気が付いてしまったようですねぇ。」
「黙れド変態が。」
くすくす笑うな畜生。
とにかく、隼人にダイエットをさせないように…何か、何か上手い言い回しは…
「なぁ〜雲雀ってばぁ。やっぱ俺、太ったのかよ?」
「違う、違う断じてソレは無い…!」
なぁなぁ〜、なんて言いながらどこで覚えてきたのやら、僕の袖をくいくい引っ張り答えを急かしてくる。
あぁ…やめて……そんな上目遣いで惜しげもなく晒してある谷間とか見せられたら、いくらストイックだと言われている僕でも襲っちゃうよ…
もうここは正直に…!
「ちなみに雲雀君、僕はいざとなったら股間を踏み潰すよう教えてあります。」
最低だ。
「なぁなぁ〜」
「いや、本当に変わってないというかなんというか、…」
「雲雀っ、いい加減はっきり言えよ!!!」
わぁぁぁぁ怒り出した…
っていうか、言える訳ないだろ!
「もういいっ!雲雀も骸も俺のことデブでだらしのないアバズレだと思ってるんだろ!!」
「あばず…!?」
「そんなこと思ってるわけないでしょ!」
「いーや、お前らは俺に甘いから本当のこと言わないだけで、本当はそう思ってるんだ!!」
白い頬を紅潮させて、ヒステリックに叫ぶ隼人。
あぁ、こんなに怒らせてしまったのは、雲雀恭弥のせいではなく、間違いなく僕のせいですよね…
僕のせいですよね完全に!
でも良いんです!僕だけが怒られるわけでなく雲雀恭弥も同罪であれば!
「隼人…怒らないで……デブとか阿婆擦れとか思ったことないから。」
「嘘つくな!!」
「本当だよ。上下違う下着つけてても、たまに涎垂らしながら寝てたり、足開いて座ったりするところはだらしないと思ってるけど、隼人はいつみても可愛くて抱きしめたくて、食べちゃいたいくらい大好きだよ!」
よし、今の発言は余裕でアウト。
逝ってしまいなさい雲雀恭弥!
男として大切な物を物理的に奪われてしまいなさい!
潰れろ!隼人に踏み潰されてしまえ!!
「…雲雀、……そうだよな。お前がそんなこと思う訳ないよな。俺、どうかしてたわ…」
「そうだよ。反省しな。」
「うん。俺も雲雀大好き。」
「隼人っ!」
ちょっと待てぇぇぇぇぇ!
なんですかこの展開!!!
今のは完全アウト発言だったでしょう!
「…俺、ダイエットなんてしない!雲雀がいいならいいや!」
「そうしなよ隼人。胸は小さいより大きい方が良……ぁ、」
あ……
「ひばり…?」
「あ…いや、えっと…今のは、あの…」
「クハハっ、」
「そーゆうことかよ、」
ざまぁないですね!
少しでも格好つけようなんてするから罰があたったんですよ!!
「雲雀のえっち。
……骸、てめぇ確か貧乳フェチだったよな…?」
「クハハハ………え?」
「そーゆうことかよっ!!!
てめぇらどこ見てんだバカ野郎!!!!」
*貴女の魅力と欲望が、*
「男の性ってやつですよね。」
「お前のはただの性癖だろ。」
「っ待てお前ら!!!!ぶっ潰してやる…!!!」
(欲は出すもんじゃないですね…)
(黙って走れ。殺されるよ。)
end
夕菜